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夜のカフェ・ミッター・マイヤー。
閉店後の静かな時間に、ハイネがふと外に出ると──
「お、センセー」
店の片づけをしていたリヒトが、いつもの軽い口調で手を振ってきた。
「たまにはこちらも、いいかなと」
「うんうん、大歓迎。俺の働く店だしね~。あ、来て来て!一緒にメランジェはいかがですか〜?」
小洒落たカウンター席にハイネを座らせると、リヒトは自分も隣に腰掛けた。
「センセーってさ、案外こういうとこ似合うよね。なんていうか、“可愛い”ってやつ?」
「……また軽口を」
「や、ほんとほんと。特に最近、誰かに狙われてんじゃないかってくらい魅力増してるし? てか事実、狙われてるし」
ふふっと笑いながら、リヒトの瞳がどこか切なげに揺れる。
「……兄貴たち、すごいよね。真っ直ぐだったり、賢かったり、強かったり」
「貴方も十分、素敵な方ですよ」
「……ありがと。でもさ」
ふいに、声のトーンが変わる。
「俺、他の誰かにセンセーのこと、取られたくないんだよね」
「……リヒト王子?」
「分かってるよ、みんなセンセーのこと本気で好きなの。俺だって分かってる。……でも、俺だって、ずっとセンセーを見てた」
口元は笑ってる。でも目は、どこまでもまっすぐ。
「“軽い”とか“調子いい”とか思われてんの、分かってる。でも……俺、誰よりも本気なんだよ」
一瞬、ハイネの手をそっと取って、重ねる。
「……俺のことも、ちゃんと見てよ。からかってるんじゃない。……俺も、センセーが好きなんだ」
一番飄々としていたはずの彼が、
今は誰よりも、切実に――まっすぐに訴えていた。
「……バカなことばっか言ってごまかしてたけど、ほんとは……ずっとずっと、伝えたかったんだ」
そのまま、手を離し――
いつもの笑顔に戻って、ウィンクひとつ。
「じゃ、お会計は“返事”ってことで。まいどあり~」
そうして彼は、店の奥へと去っていった。
ハイネはただ、残された温もりを、そっと手のひらに残していた。