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素敵なことを考えつくと、とっても気分が良いな〜。
楽屋入りしてきた元貴に「なに涼ちゃん・・・?昨日遅くまで仕事で疲れてんじゃないの?なんでそんなニヤけてんの?壊れた?」と失礼なことを言われた。
元貴にはこの素晴らしい計画を伝えても良いかも!と思ったけど、すぐにスタッフさんに呼ばれてしまって。
「いってらー。」とゆるく手を振る元貴に名残惜しさを感じつつ、メイクに向かった。
収録中の若井は、さすがだった。
メイクをして顔色に血色感が出たのも一因だと思うけど、疲れを感じさせない様子とトークで場を盛り上げて。
ライブの振り返りも、実はあのとき、、、っていう裏話あり、笑いあり。僕はちょっとうるっときちゃって涙あり。本当にいい雰囲気で撮影を終えることができた。
午前の撮影が終わってお昼休憩挟むことになり、みんなで各々好きなお弁当を注文することになった。
元貴はパスタを早々に選んでた。「本当好きだねぇ」と言うと「考えるのがめんどくさいっていうのもある」と食べるのが大好きな僕にとっては信じられない発言をしてきた。選ぶのがたのしいんじゃないか。
「若井はどうする?何食べるの?」と声を掛けると「あー、、どうしよっかな。あんま腹減ってなくて。」と、こちらも食べるのが好きな僕にとっては信じられない以下略。若井の体調が良くないことを知っている身としては、さらに食欲もないなんてすごく心配になってしまう。
「ちょっとでもいいから、なんか食べたら?ほらこれなんて美味しそう、梅しそ納豆うどんだって!さっぱり食べられるんじゃない?それかそれか、趣向を変えてアサイーボウルなんてどう?僕ね、一回だけ食べたことあるけどデザート感覚で食べれるのに結構お腹たまるんだよあれ!食欲ないときにぴったりかも!あっ、おかゆ専門店なんてのもあるよ!うわこれもいいな・・・」とスマホをどんどんスクロールしていたら、元貴がぶっ!!!と吹き出すのが聞こえた。なんだ?と思って顔を上げると面白くてたまりませんって顔の元貴とちょっと困惑気味の若井。
「なになに〜涼ちゃんどしたの。なんか世話焼きの彼女みたいに若井に食事勧めてるけど。」と言われて、なんだか急に恥ずかしくなってしまう。
「いや!!ちがうよ、自分の食べたいもの考えてたら口に出ちゃっただけ!」と言い訳をした。なんかよく分かんない言い訳になっちゃったけど。
「え〜、じゃあ僕はうどんにしよっかな・・・。天ぷらのったやつ・・・。」と仕方なく自分の分を選んでいると、若井がふふっと笑って「じゃあ俺もそれにする。天ぷら無しのやつ。」と言った。
「え、食べるの!」
「うん、せっかく涼ちゃんが『自分の食べたいもの』教えてくれたし?食べきれなかったら涼ちゃんにあげる。」
ぶふっとまた元貴が笑う。「甘やかしてんな〜。」と若井をつついてて、若井が「うるさい。」と言っていて、頭にハテナが浮かぶ。
僕が若井を甘やかしてたんだけど。
なんで若井が僕を甘やかしたことになるの?
うどんを食べる若井をニコニコと眺めていたら、「食べづらいから。」となんだか顔を赤くした若井に怒られた。
少し食べて顔色良くなったのかな、なんて思ってさらに僕は嬉しくなったけど、見つめたら怒られるから「わかった!」と返して自分のうどんに集中した。若井はまだ何か言いたそうだったけど、諦めたらしい。
そんな僕たちを交互に見て、元貴は「おもろいことになってきた」と独り言を言っていた。元貴も言うじゃん、独り言。
結局、若井は届いたうどんを食べ切れていて、それを見てとっても安心した。やっぱ食べるのって体力回復には大事だからね。食べることは生きること!
午後からの撮影も無事に終わった。夕方からはそれぞれ別スケジュールで動くことになっている。元貴は打ち合わせ。僕と若井は上がりだが、もう直ぐ控える新曲のレコーディングに向けて自宅で練習するつもりだ。きっと若井もそうだろう。
「じゃあ、お疲れ。また明日午後に。」
そう言って若井は楽屋を後にした。なんだかなぁ、今日は結局若井をサポートしようと思っても空回ってばっかりだった気がする。
体調が悪化していないか心配で何度もチラチラ若井を見ていた。しんどそうだったら、すかさず僕が背中をさすってあげて、、、なんて思っていたけど、結局出番がなかった。
それから若井が動くのを最小限にしてあげようと思って、色々工夫した。飲み物やお菓子や膝掛けなんか若井の席の目の前の机にたくさんならべてあげたら、なんだかお供えみたいになってしまった。
上手くいかなかったばかりか、なんだか逆に気を遣われていた気がする。
例えば、僕が楽屋の冷房ちょっと寒いかも?なんて思ってちょっと腕をさすったら、すぐ立ち上がって空調の温度を上げてくれたり。「え、ありがと」と伝えたら「いや、俺も寒かったから。」となんでもないことのように返された。
それから、衣装から私服に着替えるとき。僕は今日、可愛いモチーフがたくさんついたネックレスをしていた。そのチェーンに後髪が絡まってしまったようで、なかなか外せなかった。腕が攣りそうになりながら首の後ろに手を回して格闘していると、いつの間にか無言で若井がやって来て、「ほれ。」と髪の毛との絡まりを解いてくれた。この時もお礼を伝えたけど、なんでもないことのように返されたっけ。
「・・・なぁんかモテそうだよね。若井って。ていうか絶対モテる。」
マネさんがちらっとこっちを見て、そのあと元貴の方を見たのが分かった。これは返すべき話なのか、スルーすべき独り言なのか迷ってるんだね。迷ってるなら返してくれてもいんだよ。
「何よ、今更気付いたの涼ちゃん。あいつ根っからの陽キャなくせして直向きな努力家でしょ。そーゆうギャップにやられるんだよ世間は。そのうえ顔がいいと来た。」
はぁーやだやだモテるやつは、昔は和栗のオイル漬けだった癖に、と元貴がぼやいた。
「でも何、涼ちゃんが若井に対してそんなこと言うの、珍しいんじゃない。」
「いや、なんかさ・・・。僕は今日己の無力さを痛感したんだよ。」
それで元貴に、今日のことを伝えた。
朝、体調が悪そうだったこと。
いつもお世話になってるから、今日は僕が若井を支えてあげようと思ったこと。
だけど上手くいかなくて、そればかりか逆に気遣われてしまったこと。
「不甲斐ないよ〜。」とぼやくと「なるほどね、だから今日挙動不審だったんだ。」と納得したように言われる。
「え、そんなにおかしかった?」
「おかしいっていうか、なんか企んでんだろうなって感じ。」
「え〜、バレバレじゃん〜・・・。」
はぁ、とぺしょりと机に突っ伏す。だめだなやっぱり、慣れないことはするもんじゃない。
「・・・フッ、でも若井嬉しそうだったじゃん。」
「え!!どこが!」と体をガバッと起こす。勢いが怖いんだけど、と元貴は苦笑しながら
「いや、あいつ見てたら分かるよ。涼ちゃんに1日ずっと気にされてさ、めっちゃ照れてたじゃん。ていうか若井が涼ちゃんの世話焼くのなんて通常営業だし、今更何言ってんのって感じよこっちは。むしろ俺はやっっっと涼ちゃんが若井の気持ちに報いる気になったのかと・・・。」
最後の方はよく分からなかったけど、僕はぱぁっと気持ちが晴れた。
良かった、僕の行動がちょっとは若井を喜ばせれたんだ!
隣で元貴がマネさんと「あ、これ聞いてないわ。」とか何とか喋ってるけど、そんなことどうでもいいくらい嬉しくなった。
「じゃあそろそろ俺も出るかな・・・。」と若干引き気味の元貴がつぶやいたあたりで、マネさんのスマホが着信を知らせた。
しばらくして、通話を切った彼が、なんとも言えない顔で僕と元貴を見た。
「・・・若井さん、発熱されたらしくて。送りの車で直接病院に向かうらしいです。本人曰く風邪症状は無いらしいんですが、まぁ念のためということで。」
「あー。」と元貴がつぶやいて、恐る恐るといった様子で僕を見た。
続いてマネさんも僕を恐々見る。
何でそんな目で見られるかは分からないけど、もうこれは、そうゆうことじゃない?
若井を今日は思う存分甘やかせっていう、神からのお告げだよね!
「2人の言いたいことは分かった!!僕がお見舞いに行く!!」
任せて、と勢い良く胸をたたいたら、ちょっと痛かった。
マネさんが心配そうな顔で僕を見つめていて。元貴は「まぁ、うん、、頑張れ若井。」と遠い目をしていた。