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ビジネストラスト

2 - 「猛暑の決別」

♥

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2022年10月11日

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「…うん、ッ」

グスグスと年甲斐もなく鼻を鳴らす音が聞こえてくる。俺はなんだかいたたまれなくて、彼の嗚咽から逃げるように背中を向けた。


ービジネストラストー



⚠︎︎BL表現があります。

青白、または白青です。

自衛をよろしくお願いします。

それではどうぞ!




さっきまでの暖かい祝福ムードから一転、シン…と静まりかえったないこハウス。俺は、嫌な予感が的中したことに絶望しながらも、心のどこかでいつかこうなるのだと思っていた自分に驚いていた。


「えっと…、体調が悪いってことだよね?」

「…、ちがう。」

「あっじゃあもしかして、初兎ちゃんが取られたことに嫉妬してるんでしょ〜w」

「違うよ…。」


じゃあどうしてそんなこと…と、ほとけを信じられないような目で問い詰めているのはリーダーだった。

もうやめてくれ、そんな分かりきったことを聞くのは。いむくんの顔を見れば分かるじゃないか。

冗談でも、嘘でもない。

本心から、俺たちを何か恐ろしい化け物を見るかのように怯えて非難している。


「…いむくん、」

「なっ、なに…。」


「俺たちのこと、気持ち悪いって思う?」

「変だと…思う?」


できる限り優しく尋ねようと努めたものの、自分でもびっくりするくらいに硬く、冷たい声が出た。

そんな初兎を見るほとけの目には薄い膜が張り始めていて、今にも溢れ出しそうだ。

涙が1粒、彼の白い頬をすべり落ちるのを見た瞬間に、悲しみなのか、寂しさなのか、はたまた苦しみなのか、分からない何かが溢れ出した。


「なんでッ、なんでお前が泣くんだよ!!」

「俺たちが何か悪いことしたっていうのかよ…!」

「なぁ、いむくん…なんか言えや。」


あれ?こんなことするつもりは無かったのに、と目の前で俺に胸ぐらを掴まれながら、いつもの変顔とは比べものにならないくらい酷い顔をしたいむくんを見て思う。自分の仕出かしていることを自覚した途端、サーッと血の気が引く。

「…あ、ごめ」


「うるさいッ!!!」

「うるさいうるさい!!」

「なんで?こっちが聞きたいよ、、!」

「なんでみんな、そんなすんなり受け止められるの?」

「2人はずっと僕たちに隠れてベタベタしてたってこと…?」

「ほんっと…気持ち悪いッ!!」


堰を切ったようにまくし立てるいむくんに、先程までの申し訳ない気持ちは消え失せた。気持ち悪いだって?いむくんに俺たちの何が分かるんや。

好きな人と好きなことをしているだけなのに。世間から否定され続けてきた俺の気持ちなんて、いむくんには想像もできないんやろ?


「…おいッ初兎!!!!」

悠佑の声に、初兎はハッと我に返った。涙をとめどなく流しながら震えるほとけと、拳を振り上げた自分。

冷静に状況を俯瞰すれば、責められるべきなのは初兎であることは一目瞭然だった。

「お前、ちょっと落ち着けよ。」

だけど、悠くんはクシャクシャと優しく俺を撫でただけで俺を責めるようなことはなかった。

「今日はもう、解散にした方が良さそうやな。」


「ほら、ないこも。

そんな睨むなよ、ほとけやって悪くない。」

どうやらさっきからずっとないちゃんが睨んでいたのは、手をあげようとした俺の方ではなく、いむくんであったらしい。

ないこが、ハァ…と大袈裟なため息をついた。

「じゃあ、今日はこれで解散で大丈夫?しょうちゃん、」

「ぁ、ぅん…」

掠れた声しか出てこない。その上心臓はずっとバクバクと嫌な音を立てている。



「それじゃあ、りうらたちは帰るから。」

「ほとけっち、大丈夫そう…?立てる?」

りうらが俺の方を見ようともせずにほとけに手を差し伸べている。涙のやまぬほとけをヨシヨシと優しく慰める彼を見て、りうちゃんも本当は俺たちのことを良く思ってないのかもしれないと考える。


「おい、まろ。帰るぞ、大丈夫か?」

悠くんがそう呼びかけたのは俺の彼氏。

そういえば、さっきから何も話していなくて存在すら忘れていた。

まろちゃんなら僕を慰めてくれる。僕にも頭を撫でて優しくして欲しい。ずっと離さないって言ってくれてたんやもん。

「まろちゃん、!…」

帰ろう。帰って慰めて。

そう言おうとしたのに、振り返った瞬間に見た彼の表情を見て続きが出てこなかった。



「……ほ、とけ」

いふの目には初兎が写っていないのか、いふの耳には初兎の声が届いていないのか。フラフラとほとけに寄っていく姿に初兎だけでなく、その場にいた全員が戦慄を覚えた。

「…大丈夫か、?…泣くなって、、」

周りは、いふの手がほとけの頭へと伸びるのをぼんやりと見守ることしかできない。


「やめて…ッ!」

「触らないでっ!!近づかないで…」


「…っごめん、」

バチンっと振り払われた手を見つめながら弱々しく謝る彼。その姿をそれ以上見ていられなくて、初兎は目を逸らした。


「ほら、ほとけっち。一緒に帰ろ。」

「じゃあまた!ないくん、お邪魔しました。」

そう言うとほとけの腕を引っ張って、りうらはそそくさと部屋を去ってしまった。


「俺も帰るけど、いふしょー大丈夫か?」

「良かったら送ってくで?」

優しい悠くんの言葉にも応える気力がなく、ふるふると頭を振るだけになってしまったが、悠くんはそっか、と優しく微笑んで部屋を後にした。


最初は賑やかだったないこハウスも、今は3人になり変な空気が漂っている。どこで間違えたんだろう。何がダメだったんだろう。

そもそも、いむくんが悪い反応をすることは俺の中で想定済みだった。誰よりも明るく元気な彼だけど、2年間ずっと隣にいたから伝わってくる地雷を少しだけど感じていた。

「結婚」「付き合ってる」と、いふとはやし立てられているほとけに初兎は少なからず嫉妬をしていた。だけどそれ以上にほとけが嫌がっていることも知っていた。そういうときほとけはいつも引き攣った笑顔で「やめてよ!違うんだけど〜w」とおちゃらけるのだ。





「初兎ちゃん、大丈夫?」

「なにが…?」

「酷い顔してるよ、」

ほら。と鏡を向けられて思わず自分でもドン引きしてしまった。そこには涙でぐしょぐしょになり、目を真っ赤に充血させた俺の顔があった。


「…ごめんねないちゃん。」

「え、なんで。」

「俺たちのせいで全部ぐちゃぐちゃやん…ッ」

申し訳なさと悔しさで涙がまた溢れてくる。


「お前は何も悪くないよ…っ」

「俺はお前たちの味方だから、大丈夫だから」

「うん、、ありがとう…」


そうしてないこに頭を撫でられている間も、今朝までの彼はどこへ行ったのか、俺の彼氏であるいふは、ほとけに振り払われた手をぼーっと眺め続けるだけだった。




「ただいま、」

誰もいない俺たち2人の家のドアを開ける。微かに残る今朝食べたトーストとコーヒーの匂いが、今までの幸せを表しているようで少し鼻の奥がツンとする。

2人だって分かっていた、そう上手くいくはずがないことを。それでもいざとなると平静を保って居られなくなるのだ。


「なぁ、しょう…」

ずっと黙りっきりだったいふから名前を呼ばれたことに初兎は不覚にも喜んでしまった。今度こそ俺を撫でて慰めてくれるやんな?

そう思ったのに。そんなこと、言って欲しくなかったのに。


「俺たち…」

「別れた方がいいんかな、」

ずっと君を信じてたのに。あの言葉だけを信頼してきたのに。どうして他でもないまろちゃんがその信頼を壊してしまうんだ。


「なんで、、そんなこと言うん…?」

「だって、!ほとけが…」

「まろちゃんは、いむくんに言われたら俺のこと嫌いになるん?」


「…でもッ、ほとけ泣いてた、」

俺だって泣いてたやん。

「俺のこと、気味悪がってた…」

あの場にいた全員怖がってたよ。

「俺って…気持ち悪いんかな?」

いっぱい言いたいことがあったけど、ぐっと堪えた。だって彼は何も悪くないんだから。もちろんいむくんも、俺も悪くない。

みんな傷ついたんだ。ちょっとショックでおかしくなっちゃってるだけなんだ。今は少し、優しさが必要だから。今日は俺が彼を慰める番。


「泣かんとって、まろちゃん。」

本当は自分も泣いてしまいたい気持ちは知らないふりをして、

「俺はずっと大好きやから、大丈夫。」

実は今、ちょっと不安になってるけど、

「いむくんやって、明日にはケロッとしてベタベタくっついてくるよw」

嘘。いむくんはああ見えて1番頑固なんだ。

「それでも、俺と別れたいって思う?」


頷かれたら1発殴っていたところだったが、俺のことを好きという気持ちが消えてしまったわけではなかったらしく、ブンブンと頭を横に振っていた。

「良かった、俺も別れたくないよ。」

かつてこんなに弱った彼を見たことがなかったからか、いふが泣けば泣くほど冷静になっていく自分がいた。

さて、これから俺たちは、いれいすはどうなってしまうのだろう。いむくんが許してくれるとは思えないし。そもそも、許す許さないの問題ではないのだから。

ぐるぐると頭を巡らせながら、愛しの彼を眺める。いつもだったら居てくれるだけで心がほっとするはずが、今はイライラ、トゲトゲした感情が心を渦巻いている。

まだ泣いている彼に、少しばかり苛立ちを感じながらもできるだけ優しく声をかける。

「そろそろ寝よっか。」

「今日は一緒に寝てあげるから。」




「ねぇまろちゃん、もう俺のこと離すようなこと絶対にしないでね。」

隣で眠りかけているいふに小さな声で呟く。

そんな声が聞こえているのかいないのか、彼は枕に顔を埋めたまま呼吸音1つ出さずにいる。さすがに死んでしまいそうで怖かったので、無理やり顔を上げさせると、口を震わせて今にも溢れんばかりの雫を目に溜めている彼がいた。

「なに、まだ泣いてたの?」

「……ごめん、」

「別に怒ってへんよ笑、でも早く泣き止んで欲しいかな。」

「今日のことは1回忘れちゃおうよ。明日からまた仕事あるんやろ?」

「大丈夫だよ、ないちゃん達も認めてくれたやん。」

「…うん、ッ」


グスグスと年甲斐もなく鼻を鳴らす音が聞こえてくる。俺はなんだかいたたまれなくて、彼の嗚咽から逃げるように背中を向けた。



《つづく》

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