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【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します
ご本人様方とは一切関係ありません
「青さんは桃さんの全肯定bot」という私の理想の青桃を突き詰めようとしたらできあがった話です
感情論?精神論?心理戦?(どれも違うかも笑)で重めな話なので、甘々いちゃいちゃでライトな青桃をお好みの方には刺さらないかもしれません
桃さんがモブと付き合っている描写があるので、苦手な方は自衛してください
これも2年ほど前に書いた作品なので、メンバー同士の呼び方が今と異なっている部分があります…ご容赦ください
スパダリ攻め(青)×ネガティブ思考受(桃)
「しばらく忙しいんだっけ?」
隣の男が漏らしたそんな言葉に、俺は車の助手席から降りようとしていた動きを止めた。
自宅マンション前に停止した車の窓からは、薄い月明かりが差し込む。
たったそれだけの灯りしかない暗い車内。
小首を傾げて運転席の男に視線を戻した。
「来月ライブあるから、色々忙しくなるけど」
「次いつ会える?」
「…いつかなぁ」
ごまかしたかったわけじゃない。
ただ本当にスケジュールがぱっと頭に蘇ってこなかった。
でもどちらにせよ、それほど予定が空いているわけでもない。
「じゃあ分かったら連絡ちょうだい」
「ん」
小さく頷いて、もう一度ドアに手をかけようとした。
その瞬間、「ないこ」と改めて呼びかけられる。
まだ何かあるのかと、眉を寄せてもう一度振り返った。
その振り向きざまに温かい「何か」が唇を掠めていく。
キスされたのだと認識したときには、もう相手はこちらに乗り出していた身を戻したところだった。
自分のシートにその背を預け直している。
「…外でこういうのやめろって言ったじゃん」
「いいじゃん、一瞬だし外真っ暗だし」
唇の端を持ち上げて笑うその表情に、思わずため息が漏れる。
こっちはどこで誰に見られているか分からない立場にあるっていうのに。
顔出しをしている芸能人ほどではないけれど、これでも常日頃から周囲には気を配っていないといけない立ち位置にいる。
「ごめんって。…連絡待ってる」
最後に頭を一撫でされた。
吐息まじりに小さく頷いて、俺は今度こそ本当に車から降りた。
スニーカーを地面につけると、途端に夜の冷たい風に全身がさらされる。
思わず身震いしそうになりながら、降りたばかりの車のドアを静かに閉めた。
黒塗りの車はハザードランプを数回点滅させて走り去っていく。
それをその場に立ち尽くしたまま見送ったのは、感情よりも義務感ゆえだ。
そうして視界から車の影が完全に消え失せた頃、ようやく俺は目の前の自分のマンションを振り返った。
中に入ろうとして、視界の片隅に気配を感じる。
思わず勢いよく振り仰ぐと、そこには目を見開いてこちらを見つめている水色の瞳。
そしてその隣には、長身の青い髪。
「……」
思わず今日一番の盛大なため息を吐き出し、俺は頭を抑えた。
そんなこちらの様子には構わず、ほとけっちが泣きそうな目でこちらを見ている。
「な、ないちゃん…今の誰…!?」
面倒くさくなった事態に、俺はあの時さっさと車を降りてしまわなかったことを痛いほどに後悔した。
メンバーの家は、互いにそれほど遠くない。
だから前を通りかかることもあるし、路上でばったり出くわすこともある。
…だから、人目につくところで変なことはするなってあれほど言ってあったのに。
注意すべきは炎上狙いの第三者だけじゃなく、身内でもあるのだ。
「ないちゃん…さっきの誰なの?」
とりあえず、取り乱し気味のほとけっちを家の中に入れた。
…いや、正確に言うと押し入られた。
首を竦めてそんなほとけっちにコーヒーを差し出しながら、「彼氏ー」とあっけらかんと答える。
「かか、彼氏!? え、前見た彼氏さんと違うんだけど!?」
「…どんな人だっけ、それ」
2.5人用のソファに座ったほとけっちの隣…まろにもコーヒーを手渡しながら俺は首を更に捻る。
「え、なんかジムのトレーナーやってるとか言ってた人…」
「あーそれ3人前の彼氏」
「3人!?」
ほとけっちの甲高い声が、いつもより更に上擦った。
目を白黒させ俺を見据えた後、救いを求めるように隣のまろを振り返る。
「そんな驚く? 1ヶ月も前の話だし」
「いや普通の人は1ヶ月で3人も恋人変わんないから!」
思わずといった感じで声を荒げるほとけっち。
その隣でまろは、俺から受け取ったマグカップを眉を寄せて見やった。
「ないこ、ミルクないん?」
「今切らしてる。ブラックで我慢して」
「えぇー」
「まろブラックで飲んでることもあるじゃん」
「今日は甘めの気分なんやけどな」
「ちょっといふくん、今僕がないちゃんと話してるから邪魔しないで!」
俺とまろがのほほんとコーヒーの話をし始めたことが、ほとけっちの逆鱗に触れたらしい。
今それどころじゃないでしょ!?と説教まじりに言われる。
「ないちゃん、その…ポンポンと恋人かわって…大丈夫なの? なんか逆恨みされたりとか、変な別れ方しちゃったりとか…」
少し遠慮がちに言うほとけっちは、懸命に言葉を選んでいるようだった。
それがおかしくなって俺は小さく笑みを零す。
「ないよ。人は選んでるし、一応俺の中でもルールはあるから。二股とかはかけないから期間は被ってないし、既婚者とか恋人がいる人とは関係もたないし」
「……」
「外では変なことしないように言ってあるし」
「いやでも、さっきキス…してたよね!?」
「あぁ、あれは俺も想定外。次から気をつける」
へらりと笑って応じる俺に、何をどう言えばいいのか迷ったらしい。
ほとけっちは、隣のまろに縋るように目線を移した。
涼しい顔でコーヒーに口をつけたまろは、それがまだブラックであることが不満なのか一瞬だけ眉根を寄せる。
「いふくん、何か言ってよ…」
「え? 何かって何を?」
「ちょっと! 今までの話聞いてなかったの!?」
「いやさっきお前が邪魔するな言うたやん」
肩を竦めて、まろは熱めのはずのコーヒーをそのままぐいと一気に飲み干した。
ごちそうさまとテーブルにカップを戻し、ゆらりと立ち上がる。
「帰るわ。話長そうやし」
「え! ちょっと!!」
「ないこやっていい大人なんやから好きにさせたれよ」
ほとけっちを見下ろしてそう言ってから、まろはくるりと俺の方を向いた。
「明日のミーティング午前中やったよな?」
「うん」
「了解。じゃあまた明日」
ひらひらと手を振って部屋を出て行くそんなまろの後ろ姿を、ほとけっちはしばらく恨めしそうに眺めていた。
玄関のドアがパタンと閉まる音がしたのを聞いてから、改めて俺の方に向き直る。
マグカップは口をつけないままテーブルに置き、ほとけっちにしては珍しい…難しい顔をしていた。
「ないちゃん…お願いだから自分をもっと大事にしてよ…」
そんなことを言うほとけっちは、まるで自分のことのように傷ついた目をしていた。
さっきまでまろが座っていた辺りに腰を落ち着けて、俺はほとけっちの隣でコーヒーを一口啜る。
「大事にしてるよ」
「どこが!?」
「だって俺、自分が1番かわいいもん」
声を荒らげかけたほとけっちを制するように、俺はそんな風に言葉を継いだ。
「自分がかわいいから、自分が1番傷つかない方法を取ってる」
太ももの上に両肘をつき、両手でマグカップを包み込む。
そのままもう一口飲み込むと、コーヒーの芳醇な香りが鼻を抜けていった。
それでも味が全く感じられないのは好ましくない話題のせいだろうか。
「ほとけっち、今好きな人いる?」
急に話題を転換したような俺の言葉に、ほとけっちは一瞬戸惑ったようだった。
だけど俺が冗談でそんなことを尋ねたわけではないと分かったんだろう。
ここでいつもの雑談のときのようにごまかすと失敗すると思ったのか、躊躇した後にそれでもはっきりと頷いて返す。
「その相手とさ、うまくいく未来って簡単に思い描ける?」
今度は返事がなかった。
俺の言葉の真意を探ろうとしているのと、本気で自分のことを振り返っているんだろう。
パチパチと瞬きを深く繰り返しながら、隣で俺の顔をまっすぐ見つめ返す。
「俺の好きな相手はさ、絶対俺のことは好きになんないの」
続けた言葉は、今初めて口にしたものだった。
心の中に常にありながら、できれば一生口にしたくなかった言葉。
「…だから…その人が振り向いてくれないから、他の人とあんな無謀な付き合い方してるの…?」
また言葉を丁寧に探しながら、ほとけっちはそんな問いをこちらに投げて寄越した。
唇の端を歪めて、俺はそんな言葉に意味ありげに笑う。
それだけで肯定と取ったのか、ほとけっちは水色の髪を揺らしながら少し悲しそうに眉を下げた。
「それって何で…? 自分を見てくれないその人に、意識してもらいたくてやってるってこと?」
思いもよらない言葉が続いて返ってきて、俺は思わず吹き出しそうになった。
「嫉妬させたい、それで振り向かせたいってこと? 違う違う」
こういうところが若いなぁ、と思う。
多分ほとけっちは、曇りを知らない。
まだまっさらにきれいなままで、純粋さが眩しくも感じられた。
…大して実年齢は変わらないはずなのに、この差はなんなんだろう。
俺は一体どこで穢れて荒んでしまったんだろう。
「忘れたいんだよ、一刻も早く」
伏せ目がちに続けて、俺は手にしていたマグカップをそっとローテーブルの上に戻した。
「そいつさ、俺が誰と付き合おうがどれだけ恋人がポンポンかわろうが、欠片さえも気にしないわけ。それこそ今ほとけっちが友達として…仲間として心配してくれるようなことも一切ない」
…そう、それはまるで友達以下の扱いだ。
だからそのたびに思い知る。
あぁこいつの中に俺は存在しないんだ、と。
俺の隣に誰がいようが一切興味なさそうで反応を示さないあの目は、この先もきっと俺を映すことはないんだろう。
「そうやって、俺のこと何とも思ってないんだって思い知れば思い知るほど、諦めるしかないじゃん。俺が誰と次々付き合おうが見向きもしないあいつを見れば、その分だけ諦めに近づくじゃん」
だから、自分に言い聞かせたい。これ以上想い続けたところで無駄だと。
一刻も早く忘れて、この気持ちをなかったことにしないと無駄な時間だけが過ぎ去っていくんだと。
我が身かわいさで何が悪い? そうやって保身に入ったって誰にも責められる謂れはない。
「…そんなの…悲しいじゃん…」
ポツリと呟いたほとけっちが、泣きそうな目で俺を見る。
「何でそうやって決めつけるの!? 頑張れば…その人だって振り向いてくれるかもしれないじゃん! 未来のことなんてないちゃんにだって分かんないよ!」
…あぁ…本当に、こういうところが「若い」。
目を閉じてふーっと細く息を吐き出してから、俺は再びほとけっちの整った顔を見つめ返した。
「決めつけてるんじゃなくて、『知ってる』だけ」
それが現実だと、理解してしまっているだけ。
「そいつさ、いつも俺のこと全肯定すんの」
言いながら、皮肉な笑みを浮かべてしまう。
今ここにいないあいつに対して。そして、自分自身に対して…。
「『ないこは間違ってない』『ないこのしたいようにしたらいい』…そればっかり」
周りの人が聞いたら、それを「優しい」と評するのかもしれない。
…でも、俺はそうは思わない。
「全肯定ってさぁ、ほとけっち」
改めて呼びかけると、水色の瞳に正面から自分が映っているのが分かる。
「全否定と同じなんだよ。…結局俺のことなんて何も認めてくれてない」
何をしても、何を言っても咎められることもなく受け止められるだけ。
俺が犯罪に手を染めても、あいつなら本気で最後までかばい倒すんじゃないだろうかなんてことすら思う。
「…ないちゃん…その人って…」
ほとけっちがそう言いかけたとき、ローテーブルに投げ出していた俺のスマホがブルッと震えた。
着信を知らせるそれに目線を送ると、さっき別れたばかりの相手からだった。
恐らく家に着いたという報告だろう。
「さっきの『彼氏』から電話かかってきた」
画面をほとけっちの方に傾けて示し、俺はにこりと笑ってみせた。
「続きはまた今度でいい?」
…嘘だ、続きなんてない。
言外にこの話は終わりだという意図を読み取ったのか、ほとけっちはため息まじりに一つ頷くとゆっくりと立ち上がって部屋を出て行った。
コメント
4件
大人らしいと言えばそうかもしれませんが激重ですね…こういう青桃さんも新鮮で魅入ってしまいます✨✨ 全肯定を逆にしてみれば全否定と同じようなもの…考えたことがありませんでした…言葉はやはり深いなと思わせられてしまいます😖😖 心理描写が多くて考えさせられるようなお話大好きなので何時までもお付き合いさせてください!!!
初コメ失礼します! 別サイトでこちらの作品を拝見させて頂いたんですが、本当に大好きすぎて5週ぐらいしましたッッッ!!テラーノベルの方でも拝見できて嬉しいかぎりです! あおばさんの作品は全て、複雑で細かい感情が自然と読み取れるのでとても不思議です.... これからも拝見させていただきます!
今までテラーに投稿してきた過去作の中では一番重ためのシリーズになります。でも好きなんですよ…こういう心理描写メインのお話を書くのが。 あと「好き」だけじゃない人間らしい感情を表現したいが故に、少し青さん桃さんの心理が分かりにくくなってしまうかもしれません…。特に青さんは一筋縄ではいかなそうです笑 こんな拙いシリーズではありますが、お付き合いいただけたら嬉しいです