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こんなにも複雑な心情を書けるあおば様が尊敬でしかありません…どうしてこんなにもリアル味が強いのでしょう🤔✨✨ 青さんに話に行くのも水さんなりの優しさと気遣いですよねっ💕 そして青さん手を伸ばしたら握り返す……ということは…、!?✨✨ 桃さんを分かりきった上での全肯定だったことが衝撃的です……読めば読むほど深くてのめり込んじゃいます😖🤍 投稿ありがとうございます!!!😭😭💕
ももくんの言いたいことも分かるけど、青くんが桃くんのためを思ってるのもわかる…難しい関係ですよね…水くんも桃くんのために頑張ってるのもわかる…今回もいいお話でした!これからも頑張ってください!!
【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します
ご本人様方とは一切関係ありません
スパダリ攻め(青)×ネガティブ思考受(桃)
青視点
キーボードを叩くカタカタという音だけが静かな部屋に響く。
仕事で使う資料のフォーマットを一から作成し直すという作業を始めて、既に数十分は経過していた。
作業が思ったよりも遅々として進まないのには心当たりがある。
…いつもならこんな資料作成、15分もあれば終わらせられるはずなのに。
ブルーライトカットの入った眼鏡を外し、デスクの上に雑に投げる。
その時、ちょうど玄関のインターホンが鳴った。
どうせ来ることは分かっていたから鍵は開けてある。
向こうも入る許可を得るというよりは、「来たよ」という挨拶程度にしか思ってないんだろう。
こちらの返事を待たずにそのままドアがガチャリと開かれた。
「何で先に帰るかなぁ!」
そのまま俺の作業部屋まで来たほとけは、頬を膨らませながら抗議した。
部屋の扉を開けるなりのそんな言葉に、俺は首だけ傾けて振り返る。
椅子の背もたれが軋んでギッと音を立てた。
「お前の話長そうやったもん」
立ち上がりながらそう言うと、ほとけは不満そうに唇を歪めた。
それを追い出すように促し、ソファがある部屋の方へ押しやる。
冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して投げ渡すと、危うく取り落としそうになりながらもほとけはそれを両手で受け止めた。
「で、どうする? 来月のライブ」
今日はそもそも、ライブでの青組の絡みの打ち合わせをする予定だった。
そのためにほとけが俺の家に来ることになっていて、スタジオでのレッスン後…移動している間にないこに遭遇してしまった。
「いや、そんなこと後回しでいいじゃん!」
興奮気味で喉が乾いたのか、ほとけはがなりながらもペットボトルの蓋を開ける。
そのままグビグビと中身を喉に流し込んでから、俺に向けて苛立ちまじりの声で続けた。
「それよりいふくん、ないちゃんのこと心配じゃないの!?」
少し大きめのソファ。
ほとけの隣に座って、俺はローテーブルにライブの資料をいくつか置いた。
ボールペンと蛍光ペンも並べ、打ち合わせの準備を整えながら首を傾げる。
「心配って何?」
「だからぁっ…ないちゃんがあんな自暴自棄な感じで次から次へと恋人替えるの、どうかと思わない!?」
「さっきも言うたやん。ないこやって子供ちゃうんやから、やりたいようにやらせたらえぇやん」
それよりこっち、と言外に促しながら目の前の資料を指さしたけれど、ほとけは首を縦に振らなかった。
俺が指し示す資料を少し脇に避ける。
「いふくんってそうやってないちゃんのこと全部受け入れるよね」
「…なに、どういうこと」
「仕事のときはともかくとして、プライベートでないちゃんが間違ったことしてても指摘したり正したりしそうにないよね」
それって本当に仲間で友達なの? と、水色の瞳が厳しい色をたたえる。
「次々に恋人替えたないちゃんが、変なヤツ…変なことに巻き込まれたらどうするの? 炎上沙汰になるだろうし、何よりないちゃんが傷つくじゃん」
「自己責任って言葉、知っとる?」
ほとけがすぐに打ち合わせをする気がないのはよく分かった。
持っていたペンを放り、俺は吐息まじりにそう言う。
「大人なんやから、何かあったらないこが自分で責任取るやろ」
「何かあってからじゃ遅いじゃん! いふくん何でそんなに冷たいの? 何で平然としてられるの?」
声を荒げるほとけは、ソファの上で少しだけこちらに身を乗り出した。
それと同じだけ俺は体を反らす。
そうでもしないと胸ぐら辺りを掴まれそうな気がした。
「いふくんはいつもそうやってないちゃんのやることに口出しもしないで受け止めるだけだよね! いふくんのその全肯定は、全否定と同じだよ!?」
鋭い目でこちらを見据えながらのそんな言葉に、俺は思わず「…はっ」とあしらうような笑みを漏らした。
「何それ、誰の受け売り?」
聞かなくても本当は分かっているけれど。
俺の問いには答えず、ほとけは上がりかけた息を整えるようにソファの背にその身を戻した。
そしてそれから、俺から少し目線を外して足元のラグマットを見据える。
「…ないちゃん、好きな人がいるんだって」
「そらそうやろ、彼氏おるやん」
「違うよ、そうじゃなくて…! 本当に好きな人が別にいるけどその人は絶対振り向いてくれないから、あんな自分の身を削るような付き合い方してるみたい」
「…へぇ」
感嘆詞は字面ほどの感動を含まず、心のこもっていない響きを伝えて消えた。
「それ聞いて僕、その相手を振り向かせたくて嫉妬させるためにわざとあんな付き合い方してるのかと思った」
「くそがきの発想やん」
思わず笑ってしまった俺だったけれど、ほとけは笑い返しはしなかった。
真顔でもう一度俺を見据える。
睨むような目は今度はもう逸らされなかった。
「でも、違った。ないちゃんは…そうやって他の人と付き合っていくうちに、早くその人を忘れたいんだって」
「……」
「それ聞いても何も思わない? お願いだからいふくん、ないちゃんにあんな自分を傷つけるようなこと辞めさせてよ。僕は無理でも、いふくんなら相棒だしないちゃんも言うこと聞いてくれるかもしれないでしょ?」
続いたほとけの言葉に、俺は今度こそ盛大なため息を漏らした。
ソファから投げ出していた足を組み、決して褒められるような態度ではないだろう。
「それこそないこが自分でどうにかすることやん」
俺の言葉をまた冷淡だと受け取ったのか、ほとけは更に眉間の皺を濃くした。
「他人がどうこう言うんは簡単やけど、そういうんは自分で気づかな意味ないねん。ないこの性格やと特に」
「…どういう意味…?」
問いには答えず、俺は唇の端を歪めて小さな笑みを返した。
それをどう取ったのか、ほとけは目を見開く。
「いふくん、もしかして…」と震えそうな声で続けた。
「ないちゃんの好きな人…誰だか知ってるの…?」
遠慮がちとも言えなくはない問いに、俺は横目でその水色の瞳を一瞥した。
それからソファの背に更に深く身を沈め、「…ほとけ」と改めてその名を呼ぶ。
「打ち合わせする気ないんやったら帰れよ」
いつもなら「何でそんなこと言うの!」とか「もう!だからいふくんキライ!」なんて大声を上げて騒いだことだろう。
だけどこの時、ほとけは何かを諦めたようにソファから立ち上がった。
「…今日は帰るね」
この空気感で打ち合わせなんてできるわけがない。
互いにそう思っていることが読み取れる。
ほとけは素直に小さくそう言い置いて、部屋から出て行った。
…ほとけに言われるまでもない。
ないこの考えていることなんてとっくに知ってる。
どういうつもりであんなことを続けているのか、どんな思いで好きでもない女を抱いたり愛してもいない男に抱かれたりしているのか。
それを辞めさせることは簡単かもしれない。
俺が多分、「あの」たった一言を言えばそれで済む。
だけど、それに何の意味がある?
ないこは恐ろしく自己肯定感が低い。恋愛面に関しては特に、だ。
周りが何と言っても…俺が何を言っても、多分心の奥底から信じることはできないだろう。
「自分なんか」そうやって自身を否定するあいつが、他人からの励ましや好意を言葉通り受け入れることはきっと容易じゃない。
それはきっと、他人に言われてどうにかなるものじゃない。
自分で気づき、自分からその一歩を踏み出さなければ意味がない。
そうでないといつか自分自身の負の影に足元を掬われる。
完全に受け身の態勢でいればいるほど…誰かに手を引いてもらうだけでいればいるほど、後々の苦しみは肥大する。
自分が本当に「欲しい」と思って手を伸ばさなければ、何の意味もない。
自らその手を伸ばしてきたなら、その時はいくらでも握り返してやれるのに。
…俺も、ほとけくらいの年の時ならあいつと同じように考えられたんだろうか。
前向きで、恐ろしいくらいに純真無垢に。
ただ自分が好きだと思えば、それを伝えるだけで満足できるほど無知に。
「……くだらね」
ふと胸に湧いたそんな考えに、また無感動な呟きが漏れた。