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「あ、そうだ。さっき下のロビーでいつきくんのこと待ってる人いましたよ?」
「え? 誰? 親かなんか?」
「ううん、なんか見たことある、どっかの取引先の女の人。渡したいものがあるからって、こんなちっちゃいクリスマス仕様の紙袋持ってましたよ」
「うわ、それ絶対手作りクッキーじゃん」
「中学生じゃないんだから……。どうしよう、これからだいきとデートなのに」
ちらっとだいきの方を見ると、案の定、獲物を見つけた猛獣みたいに目がキラリと光った。正直、今の俺にはそういうアプローチが少し面倒くさい。だいきなら、この状況を「処理」してくれるんじゃないかって、つい期待してしまう。
「俺、行ってきます!! いつきくんとの時間を、誰にも邪魔されたくないので!!」
片手をピシッと上げて、だいきは風のように部署を飛び出していった。本当に、元気で裏表のないやつだ。
「いいんですか? 結構な美人さんでしたよ。後悔しても遅いですよ?」
りゅうせいが気持ちの読めない表情で追い打ちをかけてくる。なんだかなぁ。だいきのことといい、その人のことといい、なんで俺を誰かとくっつけたがるんだよ。
俺だってもう、自由に相手を選んでいい立場になったんだけど。
「バカだなぁ、りゅうせい、察してあげなよ」
「おい、余計なこと言いそうだな、お前」
「うわっ、出たよ。裏のいつきくん。りゅうせい知ってる? この人、実は……」
「マジで、お前……!」
あーこわいこわい、と怖がるフリをしていっちゃんがデスクに戻る。本当に、お前、まだ仕事が残ってるはずだろ。余計な話を広げてる暇があるなら手を動かせ。
「なんかぁ、悔しいですぅ。俺の知らないところで、いっちゃんもだいきくんも、いつきくんと仲良しだぁ……」
唇を尖らせて、拗ねたフリをする。……久しぶりだな、りゅうせいのそんな顔。まるでトゲが刺さる前の、あの頃に戻れたみたいで、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「いつきくん!! 手作りじゃなくて、高級店のチョコだった!! 連絡先書いてあったカードはゴミ箱に捨てといたから! さ、一緒に食べよ!」
爆速で戻ってきただいきが、戦利品を掲げてニコニコと笑う。言っていることはなかなかにエグいが、どういうやり取りをしてそれを受け取ってきたのか、正直見に行けばよかったと少し後悔した。
「ちょうど四つあるじゃん。いつきくん、どれがいい?どれでもいいから、いつきくんが食べさせて?」
「あーん」と口を開けて待機するだいき。その無防備な口内へ、いっちゃんが横から適当に掴んだチョコを力任せに放り込む。
「んぐっ……! 喉に詰まって死ぬかと思ったわ!」
「クリスマスに死ねるなんて幸せですね?」
相変わらずの二人のやり取りを眺めていると、ふと熱い視線を感じた。
見ると、りゅうせいがじっとチョコの箱を見つめている。
「りゅうせいも食べたいの? 相変わらず食いしん坊だな」
ふふ、と笑って、一番甘そうなホワイトチョコに手を伸ばす。……いや、待て。ここで俺が食べさせる流れは気まずいか。
「……あ、えっと」
箱に残ったチョコは、あと二つ。
これを、どう渡すべきか。普通に箱ごと差し出せばいいだけなのに、なぜか指先が少しだけ震えた。
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