テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
数日後、モトキは、広間に二人を呼び集めた。大老達を警戒し、広間の外の廊下まで、人払いの結界を張っている。
「モトキ、どうしたの?随分と厳重にして…。」
「…何かあったのか?」
二人が、不安そうにモトキを見つめる。モトキは、深呼吸をして、都最大の秘匿について、二人に話した。
「…では、私は、呪いの為に水を飲み続けていたのだね…。そして、禍を鎮める為には…。」
「なんだよそれ…なんで、そんな…どうしようもないのかよ、モトキ!!」
ヒロトが、モトキに掴み掛かる。
「僕だって!!リョウカにそんな事させなくても良いように、この間に幾度も養生所へ出向いて医術や陰陽道で対処しようとしたし、能力だって沢山使った!だけど…だけど……!」
「…止まらないんだね。」
リョウカが、静かに言った。ヒロトは、涙を流して、モトキの胸元にしがみ付いている。
「…分かった、私なら、大丈夫。」
「リョウカ…。御子が生まれるまでは、僕達には何もできないんだ…。」
「…お腹の子は…次の人柱って事か…。」
リョウカが、お腹に優しく手を当てる。ヒロトは、リョウカを抱きしめた。
「そんなのって…あるかよ…!」
「…仕方がないよ、先代達はそうして、ここの都の人達皆んなを守ってきたんだから。」
「リョウカ…!」
「私、少し嬉しいんだ。父上様が、不死沢を独り占めしていた訳ではなかったと、民の事を考えていない訳ではなかったんだと、分かったのが。」
リョウカは、そう言って優しく微笑んだ。
「モトキ、ヒロト、ありがとう。」
リョウカが二人の手を取り、顔を見遣る。
「私と、出会ってくれて、友達になってくれて、ありがとう。愛しているよ、ヒロト。大好きだよ、モトキ。」
ヒロトは、ボロボロと涙を流して、唇を噛み締めている。
「…リョウカ、とりあえずは、御子が生まれるまでは、時間を貰えるから。僕が、その間に終息させられるよう、頑張ってみるよ。絶対に、リョウカを人柱なんかにはさせない。」
「…うん、ありがとう。」
リョウカが優しく微笑む。三人で身体を寄せ合って、優しく背中を抱き合った。
その夜、リョウカは、都から姿を消した。
「モトキ!!」
朝を迎えたばかりのモトキの自宅に、ヒロトが雪崩れ込んできた。
「リョウカが、消えた…!!」
「え…!」
「これが、俺の枕元に置かれてたんだ。」
ヒロトが握りしめてくしゃくしゃになった紙を寄越した。
『ヒロト、モトキ、ごめんなさい。どちらかを選ぶなんて出来ないし、人柱にもしたくない。この子達を産んだ後に、必ず戻ります。それまでは、どうか許して。 リョウカ』
モトキは、震える手でリョウカの置き手紙を読んだ。
「モトキ…どちらかを選ぶって…この子達って、どういう事だ?」
ヒロトが、困惑したような顔で、モトキに問う。モトキは、紙に視線を落としたまま、ポツリと言った。
「…リョウカの腹の中の子は、双子なんだ…。」
「…な…。」
ヒロトが、その場にしゃがみ込む。モトキが、どう声を掛けるか迷っていると、すぐにそんな事は言っていられなくなった。 陰陽寮の臣下が、駆け込んできたのだ。
「モトキ様!失礼致します、大老様がお呼びです…!」
「…わかった。」
「あの、ヒロト様も、ご一緒にと…。 」
「…くそ…っ。」
モトキとヒロトは、すぐに御所の大老達の待つ部屋へと向かった。
「ヒロト!貴様、寝所番も兼ねて帝と共に夜を過ごしていたのでは無かったのか!」
部屋に入り、二人で床に座した途端に、叱責が飛んできた。
「…面目御座いません。」
「おめおめと逃げられおって、この戯けが!」
「モトキ、貴様もだ。何故もっと上手く帝に言い含めなんだ!このような行動を取らせない為に、貴様がいるのだぞ!」
「申し訳御座いません。すぐに、陰陽寮を挙げて、占術にて帝の居場所を探し当て、必ず連れ戻してみせます。」
「モトキ…!!」
ヒロトが反発を見せたが、すぐにモトキに腕を押さえつけられ、言葉を止めた。
「…帝は、不治沢の水を飲まなければ、どの道生き絶えてしまいます。それだけは、なんとしても阻止してみせます故。」
「ふん、帝も少しお考えになればわかる事よ。腑抜けた頭で安易に消えおって。逃げ果せるとお思いか。」
モトキは、ヒロトの腕を押さえる力をより強くして、ここは我慢しろ、と視線を送った。
なんとかその場を収めて、二人は部屋を後にした。
モトキとヒロトは、御所の裏手の野原に来ていた。
「…モトキ、本気で連れ戻す気か。」
「当たり前だろ。不治沢の水を飲まなきゃ、リョウカはこのまま死んでしまうんだ。」
「連れ戻したって!アイツらに犠牲にされるだけだろ!どの道死ぬんだ!」
「そんな事ない!僕が、この流行病を絶対に抑えてみせる!」
「これまでの陰陽師が出来なかったんだぞ!何度も何度も、帝が犠牲になってきたんだ!簡単なこと言うな!!」
「僕には、能力がある!これまでの陰陽師に出来なかったことも、僕になら、出来る。」
モトキは、懐から時計を取り出して、握りしめた。
「…いざとなれば、刻を戻すことだって…。」
「…それは、禁忌の術なんだろ?リョウカが前に言ってた。モトキが、自分を犠牲にしてまで刻を戻そうとしてるって。」
「………。」
「それに、刻を戻した処で、リョウカの呪いは消えない。禍だって、いずれ起こる。何も解決しないだろ。」
「…じゃあ、じゃあどうしろって言うんだ。」
「…俺は、リョウカの意思を尊重する。連れ戻すと言うなら、お前を殺す。」
「…リョウカが、死ぬんだぞ?」
「それでも、連れ戻して、アイツらの好きに殺されるよりはマシだ。」
「落ち着け。とりあえずリョウカを連れ戻して、水を飲ませて生き続けて、時間をかけて解決法を探す方が得策に決まっているだろう。」
「でも、リョウカの子ども達にも、呪いを背負わせるのか?このまま、これからもずっと人柱を続けるのか?」
「それは…。」
「俺は、リョウカを解放したい。この都から、呪いから。それから…俺はあのクソジジイ共を殺す。」
「…冗談だろ?」
「こんな、人柱がいないと栄えないような都、全部ぶっ潰せばいい。リョウカがいなくなって廃れる都なら、それで良い。」
「何万もの人が、死ぬんだぞ?」
「だからなんだ?俺には関係ない。」
「…これは、謀反だぞ、ヒロト。どういうことかわかってるのか…?」
「…わかってるよ、こういう事だろ!!!」
ヒロトの叫びと同時に、青い閃光が迸る。モトキが赤い光と共に印を結ぶと、大きな魔法陣が盾となって現れた。脳を揺さぶるほどの衝撃に身を固めて、モトキが顔を上げると、自分の周りの地面が大きく裂け、土煙が風で流される頃には、ヒロトの姿が消えていた。
モトキの足元には、砕けた時計が散らばっていた。
帝と護衛隊長が行方を眩ませた知らせは、瞬く間に都中に広まった。
能力を持つ者が謀反を企てていると、大老達は恐れ慄いた。すぐに御所の護衛を固め、モトキには御所の最上階で謀反者から大老達を守るよう命が下された。
モトキは、式神に文を乗せて、占術により割り出したリョウカの元へそれを飛ばした。
『ヒロトが、大老達を殺す謀反を企てて、姿を眩ませた。僕は、リョウカを連れ戻し、ヒロトを止めなければならない。どうか、沢の水を飲みに帰ってくれ。まだ、死なないでくれ。』
そう紙に認めて、リョウカへと知らせた。都の空は、稲光が走り、暗く重い雲で覆われていた。
コメント
8件
わわわ、、、!!更新ありがとうございます✨ストーリーがすごく面白くていつも楽しく拝見させていただいてます! もし地雷だったりで無理そうでしたら大丈夫なのですがよければ、クスシキの長編ストーリーで元貴くん受けよりの小説を書いていただけないでしょうか🙏ものすごく書き方が好みなのでやっていただけたら嬉しいです!! 長文失礼しました🙇🏻♀️
うわぁ…不穏っ! でもなぁやっぱ三つ巴なんだよねぇ この世界線なら……うん 話を変えて ヒロトかっこいいじゃん! 戦闘モーションの表現が天才 なに「蒼い閃光」って 本当ありがとうございます
あとがき もうすぐ、フォロワーさんが400人を突破しそうです、有難き幸せです😍 いよいよ、次回が最終回です。 ラストは、あのMVの通りに進めるつもりだったので、この三人を三つ巴の関係にする必要がありました。 モトキは、政府側として、そしてリョウカの命だけを考えて連れ戻したい立場。 リョウカは、子どもを守る為だけに政府から逃げて身を隠す立場。(ただし、自分の犠牲は厭わない)