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「城咲さーん、おはようございまーす」
看護師が病室に入ってきた。
陽の光が漏れているピンク色のカーテンを開けると、病室は一層明るくなった。
「晴れてよかったですねー!」
看護師が明るく話しかけながら、手際よく点滴の針を外した。
「旦那さん、お迎えに見えてますよ」
顔をのぞき込みながら、細い二の腕にやっとのことで血圧計を巻き付け、指先を酸素濃度を測るパルスオキシメーターで挟む。
その数値をチェックし終えたところで、
「アキちゃん」
新品の車椅子を押した男が病室に入ってきた。
「あ、ほら。旦那さん」
看護師が笑顔で彼女をのぞき込む。
「退院、おめでとうございます!」
看護師が笑顔で振り返った先には、
満面の笑みの城咲律樹が立っていた。
◇◇◇◇
介護タクシーから車椅子ごと亜希子を下ろした律樹は、運転手に金を払って軽く手を上げた。
「さ、ついたよ。アキちゃんが来てくれるのは初めてだよね」
広い駐車場を抜け、段差は少し持ち上げながら庭に入る。
「建てたのは古いけどリフォームしたから、リビングも寝室も、お風呂もトイレも、みんな新しくて綺麗だよ。アキちゃんもきっと気に入ってくれると思う」
律樹は一方的に話しながら車椅子を押して歩いた。
「今日はご馳走を用意したんだよ。っていってもアキちゃんが何が好きなのかわからなかったから、僕の好きなものになっちゃったけどね」
そう言いながら城咲は、ズボンのポケットから取り出したハンカチで、彼女の口の端から垂れる唾液を拭いた。
「早く食事にしたいんだけど、実はその前に見せたいものがあって。ちょっとだけ付き合ってもらってもいい?」
彼女に反応はない。
「きっとアキちゃんも驚いてくれると思うんだ」
城咲は鼻歌を歌いながら、車椅子を押し続けた。
「ほら、ここだよ」
城咲は車椅子の両サイドについているブレーキをかけると、隣にしゃがみこんだ。
「見事でしょ?」
そこには真っ赤なバラが競うように咲き乱れていた。
彼女の片方だけ無事に残っていた目が見開かれる。
複雑骨折をし、変形してくっついた指が、痙攣する。
「……ぁ……」
潰れた声帯が、わずかに声らしい何かを発する。
「うん。綺麗でしょ」
律樹は微笑んだ。
「特別な肥料を使ってるからね」
律樹と彼女の視線の先には、
土の上に綺麗に並べられた5つの頭があった。
「――――」
彼女のほとんど歯が残っていない口が、
にやりと笑った。