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確かに酒が入っている様子はないが、この夜中に疲れるテンションだ。
本人はストレス解消のつもりだろうが、巻き込まれる方としてはたまらない。
「よし。神経衰弱にしようね、有夏。よぉーし、がんばるぞッ☆」
「ゾッ☆……?」
ゾッと青ざめる有夏を無視して、なんだか突然始まってしまった。
「負けた方は、罰ゲームとして秘密を言うんだよ。分かった? 有夏」
「はぁ、何そのルール」
神経衰弱という名称が既にイヤだと、首を振る有夏の意志など完全に無視だ。
幾ヶ瀬はさっさと座卓を部屋の端へ寄せて、床にカードを裏向けに散らし始めた。
「ホントにやんのかよ。で、秘密って? 何? ヤなんだけど?」
物覚えが悪いと自覚があるのだろう。
有夏はカードを並べる幾ヶ瀬の邪魔をする。
じたばた手足を動かしながら床を転がった。
「コラ、有夏! やめてって」
「しんけいすいじゃくはイヤだ! 有夏の心もすいじゃくする!」
「はい? 何言ってんの、有夏?」
散らばったカードを整えながら幾ヶ瀬、真顔である。
「……急に我に返るんじゃねぇよ」
「いや、有夏の小さな脳がショートしてるのが面白くて」
「小さな脳って言うんじゃねぇ」
そうこうする間にトランプは並べられた。
「んじゃ、俺からね」
幾ヶ瀬は浮き浮きした様子でカードをめくった。
「ハートの2と……あっ、スペードの10かぁ。しょうがないな。じゃあ、俺言うね」
「なにを?」
「……ずっとずっと胸に抱えてた秘密を言うんだよ」
「重っ! えっ、負けたらじゃなくて、都度? 毎回ヒミツをぶちまけんの? 無理だよ。有夏、そんなにヒミツ抱えて生きてねぇもん」
「……脳が小さいからねぇ」
「あぁ? 今何て言った?」
「………………」
返事がない。
「幾ヶ瀬?」
カード2枚を元の位置に戻し、幾ヶ瀬はにやにやと笑っていた。
「ごめん、有夏……俺には秘密がある」
呑まれたように有夏も黙り込む。
深夜の2時近く──。
幾ヶ瀬はこんな話を始めた。
「中学の時、有夏と俺のリコーダー……こっそり交換した」
「えっ……」
衝撃である。とんでもない爆弾である。
有夏の声がかすれた。
「ごめんねぇ、有夏。ずっと謝りたかったんだ」
「りこーだー……笛? どういうこと? えっ……」
「魔が差したかなぁ。好きな子の笛をペロペロしたいって男子中学生の夢じゃない☆ あははっ、でももう時効だよね」
「現実に聞いたことない。ギャグ漫画のヘンタイの十八番を、まさかコイツが実践しようとは……」
有夏の視線は虚ろだ。
「そんな顔しないで、有夏♡ 今や笛どころじゃないものをペロペロしてるんだからっ☆」
「あっ、急に眠気が……」
予想を超える衝撃発言に、小さな脳の回転が止まってしまったか。
さぁ有夏の番だよと促されて、機械的にカードをめくる。
「スペードの7とダイヤの7って……有夏、ヒキがいいね。ハイ、有夏さんに1ポイント!」
「いちぽいんと?」
自分の知る神経衰弱のルールとはかなり違う展開だと、有夏は戸惑いの表情を浮かべたまま。
謎テンションの幾ヶ瀬はさっさと次のカードを引いては派手なリアクションで宙を仰いでいる。
また外れたらしい。
「俺の秘密をもう1つ。俺ね……」
「……何だよ」
こうなると嫌な予感しかしない。
「高校ん時、有夏の体操服盗んだんだ」
「ハイ、キタ! くると思った! 笛の次は体操服、そしてタオル。ヘンタイの所業ここに極まれり!」
「……思い返せばどうかしていた。今思えばタオル→体操服→笛ってのが正しい順番じゃないかな」
「おお、怖い。ヘンタイなりに正しい順番とか言いだしたよ」
この瞬間。半袖Tシャツの有夏は一気に冷気を感じたか、自らの両腕をかき抱く仕草をする。
「あ、大丈夫! ちゃんときれいに洗って返しといたから。気付いてなかったでしょ。有夏って昔から物の管理が雑なんだもん☆」
ハイ、有夏の番だよとの声に、再び手が反応することはなかった。
有夏の目が死んでいる。
「有夏? 大丈夫? やっぱり有夏には神経衰弱は難しかったかな。しかたないな。続きはまた今度にしよっか」
100%の笑顔でカードを片付ける幾ヶ瀬。
有夏のバカははじめから~♪
だって脳味噌カラッポだもの~♪
なんて、失礼極まりない鼻歌を口ずさんでいる。
「あー、何かスッキリしたな。心の底にこびり付いていた澱が消えたみたい。アハハ! そうだ、有夏、キスしよ」
しかし、有夏の目は死んでいる。
「ありかー? しようよぉ、キス」
つかまれた腕を、有夏は反射的に振り払った。
「嫌です。しません。寄らないでください」
「えっ、何で敬語……? あっ、プリン、そろそろ固まったかな。食べようか」
「食べません。来ないでください」
「有夏さん?」
フラリと立ち上がった有夏はそのままベッドに倒れ込んだ。
目をカッと見開いている。
「ねぇ、有夏さん? 怒ったの? ごめんよぅ……」
幾ヶ瀬はベッドの縁に手を添えて恋人の名を呼び続けた。
その時間、10分程であったろうか。
「あり……」
すぐに幾ヶ瀬の寝息が聞こえてきた。
仰向けに転がったまま硬直する有夏。
目を見開いて天井を見詰めている。
「……コイツがキテるのは知ってた。でも、有夏が甘かった。思ってた以上にヤバい奴だった」
スヤスヤと、実に平和な寝息が聞こえてくる。
とりあえず布団をかけてやったのは、有夏なりの優しさか。
夜が明けると幾ヶ瀬は、己がやらかした暴挙に頭を抱えることになる。
深夜テンション……恐るべし。
「こうして秘密が暴かれる」完
「つぎのあさ」につづく
※ヘンタイのお話を読んでくださってありがとうございます※
※新しいお話は、また週末から更新します。よかったら見に来てね※