テラーノベル
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「今回の日経の暴落は、過去類を見ないものだった。でも、僕たちが訴え続けることによって、適切なヘッジを入れたり、投げ売りをさせることはなかった。僕はこのあたりで下げ止まって回復していくと思う。根拠と言われても困るけれど、現に先物が下がらなくなった。今日のニューヨークの動向を見て、明日ヘッジを切る。まだ落ちそうならヘッジを追加する。インデックスの損失分だけ対処する。だから不要な売買はしなくていい。なんとしても乗り切るから、そこ、徹底して」
「はい!」
睦月君以外のみんなはしっかりとした表情で応えていた。信頼関係がきちんと築けている証拠だ。
「それと、フジノの件。未来スーパーに僕のアイディアをパクられたって話はしたよね? 調査を進めようと思うんだ。潤、頼むよ」
「もう手は回してる」
「さすが一流秘書。仕事が早い」
大脇さんの回答に睦月君は満足そうに笑った。
「パクったアイディアで未来スーパーが採択され、フジノと組んでもかまわない。僕は、僕のやり方でこの玉子焼きを世界に広めるよ。TENGAが先陣切って、マルヨーを救済する。みんな協力してくれるね?」
みんなうなずいた。この玉子焼きの缶詰おいしいから、海外でバカ売れするとか、未来スーパーを選んだら、フジノは見る目ない、海外進出なんか失敗するとか、いろいろ言ってくれた。
「あっ! 先物が――」
スマートフォンを操作していた一番年配の社員の方が叫んだ。
うそ……。まだ下がってしまうの……?
「上がり始めました!」
「よし! だったらヘッジを切る準備を。お客さんに連絡して! 明日の朝いちばんに処理してもらえるように!」
「「了解!!」」
みながそれぞれ持ち場に戻って行った。
よかった。これで睦月君の心配も解消できるね。
「頑張ってね。お邪魔になるといけないから、帰るね」
「佑里香さんありがとう。落ち着いたらちゃんと僕たちのこれからを話し合おう。待っていてくれる?」
「ええ。待ってる」
睦月君が微笑んでくれた。幼い頃から変わらない笑顔で。
彼の笑顔に心がとくっと動いた。
もう離れたくないって、素直に思えた。
忙しくなりそうなので私は見送りも辞退して家に戻った。
明日もお弁当届けると約束して。
これからずっと、睦月君の帰りを待つの。
ようやく置き去りにされていた8年の心が動き始めた気がした。
コメント
1件
さぶれさん、今回の第85話、金融のスリルと佑里香さんの心の揺れが絶妙に重なっててすごく良かったです…!特に「8年の心が動き始めた」っていうラストの一文、胸にじんわり来ました。睦月くんの仕事への信頼と、それを見守る佑里香さんの静かな強さが伝わってきて、この二人の関係がどう変わっていくのかすごく気になります。ただ、お忙しい中でお弁当届け続ける佑里香さんの健気さにもぐっときました🥀
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