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【笑うあの子の裏事情】
Episode.10 あいつ
《🎼📢side》
朝は、声で始まる。
怒鳴り声。
皿がぶつかるような音。
何かが机に叩きつけられる音。
目を開ける前から、もう分かる。
───またか。
ゆっくり目を開ける。
視界に入るのは、変わらない天井の色。
少し黄ばんだ白。
いつもと同じ匂い。
同じ光の角度。
二段ベッドの上。
身体を起こすと、木のフレームが小さく軋んだ。
梯子に足を乗せて、ゆっくり降りる。
二段ベッドの下。
……空だ。
でも、昨日より毛布が奥に寄っている。
それだけで分かる。
帰ってきていたんだろう。
それで、またどこかに行った。
それで終わり。
どこに行ってるのか。
何をしてるのか。
───知らない。
俺は視線を横にずらす。
部屋には机が二つある。
一つは整っている。
ノート、教科書、筆箱。
全部まっすぐ揃っている。
もう一つは───物が積まれていた。
空のペットボトル。
プリント。
壊れたシャーペン。
いつからあるのか分からない漫画。
そして、綺麗な石。
机というより、物置みたいだ。
俺は何も言わず、部屋を出た。
階段を降りる。
声が、さっきよりはっきり聞こえる。
「どうしてああなるのよ!」
「甘やかすからだろ!」
朝からうるさい。
でも、これが普通だ。
リビングに入れば、どうなるかも分かっている。
───また、比べられる。
あいつがいないところで。
あいつが悪いみたいに。
*
俺は玄関に向かう。
靴を履く。
扉を開ける。
外に出た瞬間、
冷たい空気が肺に入った。
冬の空気。
少し痛いくらい冷たい。
でも───家の中よりはマシだ。
少しだけ、楽。
歩き出す。
曲がり角に差しかかったとき、
🎼👑「……あ、まニキ!おはよ!」
声が飛んできた。
振り向くと、みこと。
マフラーを巻いて、手をポケットに突っ込んでいる。
髪の一部がぴょんと跳ねていた。
寝癖。
……別に言うほどでもない。
🎼📢「おは」
短く返す。
みことは隣に並んだ。
🎼📢「すちは?」
聞くと、みことは困ったように笑う。
🎼👑「すっちーは寝坊だって。 先行っててって!」
またか。
🎼📢「……週何回寝坊してんだよ」
🎼👑「だってすっちーだもん」
みことは肩をすくめる。
まぁいい。
ちゃんと学校に来るなら、別にいい。
二人で歩く。
冬の朝は、息が白い。
学校に着く頃には、生徒が増えていた。
*
教室に入る。
「おはよー」
「いるま、おは!」
「宿題やった?」
「今日の数学テストやばくね?」
声がいくつも飛んでくる。
宿題?終わってる。
テスト?余裕。
そう言えるくらいには、やっている。
だから困らない。
席に座る。
ふと、頭をよぎる。
───あいつ、どこいんだろ。
別に、気にしてるわけじゃない。
ただ、
今日も姿を見ないなって。
それだけだ。
《🎼🌸side》
保健室の扉が、勢いよく開いた。
🎼☔️「ねぇねぇらんくん!」
🎼🌸「先生ね」
🎼☔️「らんくん!」
🎼🌸「はいはい」
振り向くと、こさめ。
今日も変わらない笑顔。
そして───今日も変わらない傷。
腕。手の甲。膝。
新しい擦り傷が増えている。
🎼🌸「……座って」
🎼☔️「はーい!」
ぴょん、とベッドに座る。
俺は消毒液を準備しながら聞く。
🎼🌸「今日はどこで転んだ?」
🎼☔️「えーっとねぇ……」
こさめは少し考えて、
🎼☔️「覚えてない!」
と、にこっと笑った。
……覚えてないわけがない。
でも、追及する気にはなれない。
俺はコットンに消毒液を染み込ませ、
腕の傷に触れる。
その瞬間。
🎼☔️「ねぇねぇ見た?!昨日の金星!」
いきなり声が弾んだ。
🎼🌸「金星?」
🎼☔️「うん!!」
こさめの目がきらきらしている。
🎼☔️「昨日ね、めちゃくちゃ明るかったんだよ!」
🎼🌸「どこで見たんだ?」
🎼☔️「屋上!」
🎼🌸「……屋上?」
🎼☔️「うん!」
悪びれた様子はない。
🎼☔️「金星ってね、夕方とか朝に見える星なんだよ!
“宵の明星”とか“明けの明星”って呼ばれるの!」
俺は包帯を巻きながら頷いた。
🎼🌸「よく見つけたな」
🎼☔️「だって明るいもん!」
満面の笑み。
🎼☔️「金星ってね、月の次に明るいんだよ!」
🎼🌸「そんなにか」
🎼☔️「うん!」
そこまで言ってから、こさめはふっと笑った。
🎼☔️「……あ、でもね」
急に話題を変える。
🎼☔️「昨日、めっちゃ寒かった!」
🎼🌸「そうだな」
🎼☔️「屋上、風やばかった!」
こさめは肩をすくめる。
🎼☔️「耳ちぎれるかと思った!」
🎼🌸「そこまで?」
🎼☔️「うん!」
そして急に真面目な顔になる。
🎼☔️「でもね、冬って好きなんだ」
🎼🌸「そうなのか?」
🎼☔️「うん!」
こさめはベッドの上で足をぶらぶらさせた。
🎼☔️「空きれいだし!」
少し間を置いて、
🎼☔️「あとね、空気も好き」
🎼🌸「空気?」
🎼☔️「冬の空気って、冷たいじゃん」
こさめは手を広げる。
🎼☔️「息吸うとさ、
肺の奥までスーってする感じ!」
俺は少し笑った。
🎼🌸「分かる気がする」
🎼☔️「でしょ!」
こさめは嬉しそうに頷く。
🎼☔️「あとねあとね!」
また勢いよく続ける。
🎼☔️「冬の朝の匂いも好き!」
🎼🌸「匂い?」
🎼☔️「うん!」
こさめは目を細める。
🎼☔️「なんかさ、
静かな匂いしない?」
俺は少し考える。
🎼🌸「……冷たい感じ?」
🎼☔️「それそれ!」
🎼☔️「らんくん分かるじゃん!」
🎼🌸「先生」
🎼☔️「らんくん!」
……訂正する気が失せる。
俺は包帯を留めた。
🎼🌸「よし。終わり」
🎼☔️「ありがと!」
こさめは腕を眺める。
🎼☔️「らんくんってさ」
🎼🌸「ん?」
🎼☔️「手当てめっちゃうまいよね」
🎼🌸「仕事だからな」
🎼☔️「でも優しい!」
俺は苦笑した。
🎼🌸「普通だよ」
🎼☔️「普通じゃないよ」
こさめは少し首を傾けた。
🎼☔️「だってさ」
少しだけ声が小さくなる。
🎼☔️「痛くないもん!」
その言葉に、
俺は一瞬だけ手を止めた。
でもすぐに笑って言う。
🎼🌸「それはよかった」
こさめはまた、にこっと笑う。
🎼☔️「ねぇらんくん」
🎼🌸「なに?」
🎼☔️「今度さ」
少し身を乗り出してくる。
🎼☔️「昼休み、屋上行こうよ!」
🎼🌸「俺が?」
🎼☔️「うん!」
こさめは楽しそうに言った。
🎼☔️「風めっちゃ強いけど!」
🎼🌸「それは誘う理由になってるの?」
🎼☔️「なるよ!」
自信満々。
俺は小さく笑った。
🎼🌸「……考えておく」
するとこさめは、満足そうに頷いた。
そしてベッドからぴょんと降りる。
🎼☔️「じゃ、今日は行きたいところあるから!」
扉のところで振り返り、
🎼☔️「らんくんまたね!」
🎼🌸「先生ね」
🎼☔️「らんくん!」
そう言って、
こさめは廊下を走っていった。
保健室に静けさが戻る。
俺は、さっきまでこさめが座っていたベッドを見る。
そこに残るのは、
小さな体温と、
包帯の白さ。
そして、
あの子が言った言葉が、ふと頭をよぎる。
───痛くないもん。
俺は小さく息を吐いた。
🎼🌸「……そっか」
窓の外には、
冬の光が静かに差し込んでいた。
next.♡1000
コメント
5件
かすり傷が増えても痛くないと言い張ざるを得ない環境に慣れてしまっている☔️くんだけど、 それでも🌸くんの手当が痛くないのは、本当のことなんだなって言うのがよく分かる... 続き、楽しみにしてるねん🫶🏻︎💕🙂🎐
翠黄についてもきになる。けがした原因知らないって言うのは思い出したくないだけなのでは??((妄想。てぃあちゃん天才
今更気づいたことだけど…茈君と瑞ちゃんって、2人とも星座について詳しいよね あぁ…考察(妄想)が捗ってしまう… なんだろ…茈君は学校や家での場面が多い反面、瑞ちゃんは保健室での場面しかほとんど見ない気が… 茈君は色んな居場所があるけど、瑞ちゃんは居場所があまり無い…… そんな妄想をしてしまった。 神作の提供ありがとうございます(定期)