5月×日、夜。
この日の日記は、長くなったから、二回にわける。結論から言うと、前に君の母親が言った言葉はすべて本当だった。
君と俺を会わせたくないのも、残念ながら、本心だったそうだ。
だけどそれは全部、俺を思ってのことだった。
事故から一年間、目を覚まさなければ、君はもう……。目を覚ますことは、ないという。
仮に目を覚ましても、脳へのダメージは大きく、前の君とは別人になると医師から告げられたそうだ。
「だからね、凪斗くん」
震える声が、あの日の君に重なった。
『凪くんがいない学校なんて、つまんないから。辞めようかと思ってる』
頼む、あきらめないでくれ。
「琴音のことは、もう忘れて。凪斗くんには、幸せになってほしいの……」
幸せに、なる?
俺、ひとりで?
無理だよ、そんなの。
だって、君がいないと。君が俺の隣に居てくれないと。俺は、幸せになんて、なれないんだ。
俺にとって君は……。
輝かしい光で、人生の道しるべで、明るい未来で、俺のすべてだった。
6月×日。
もう大丈夫。だから、安心して?
最近は、ちゃんと勉強をするようになったんだ。なんなら、前よりもっと本気で勉強するようになったくらい。
キッカケをくれたのは、君。ほんの数ヶ月前、君が言った言葉を夢を思い出したからなんだ。
『動物のお医者さんになりたい』
君が目を覚ました時、俺が君の力になりたいと思った。君が夢を諦めなくて済むように。勉学の遅れを取り戻せるようにと。
俺が代わりに勉強しようと思う。君の疑問に答え、君の希望に応える。それが、今の俺の夢。
たとえその時、君の隣にいるのが俺じゃなくなったって、かまわない。君が笑顔でいてくれるのならば。
だから君に、俺のすべてをくれてやる。
青春と呼ばれる日々も、身につけた知識も。
バイトで稼いだ金も、身も心も全部、全部。
心の中のきれいなもの全部かき集めて、君に贈りたい。
俺にできることは、なんでもします。だから、お願い。どうか、目を覚まして。
俺はただ、もう一度。君の名を呼びたいんだ。君の親が名付けてくれた、君に一番ふさわしい、その名前を。
「待ってるからな、琴音……」
コメント
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一緒に過ごす未来を信じて、まるごと人生をあげられる相手。何年先でもいいので、是非名前を呼んであげて欲しいですね……そううまくはいかないかもしれないですが、読者としては願ってしまいます
彼女のために青春を、全てを渡す、純愛ですね!