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「ちょ、ちょっと待ってくださいっ、録音はダメですってば!!」
スタジオの隅っこ、背中を壁にぴたりとつけた入野自由が、顔を真っ赤にして叫んでいた。
「大丈夫大丈夫!個人鑑賞用だから!」
手にスマホを構えたのは江口拓也。
その横では木村良平が録音アプリを立ち上げてニヤニヤしている。
「“んっ”って声、今日のが一番良かったから!これは保存版!」
「自由くん、サンプルボイス集めてるから協力して?」
浪川大輔は堂々とICレコーダーを取り出してスタンバイ。
「そんな集め方ある!?ていうかマジでやめてっ!!」
——その時だった。
「ふーん……自由の声って、そんなに価値あるんだ」
背後から低く落ち着いた声がして、全員がぴたりと動きを止める。
「……神谷さんっ」
声の主は、腕を組んで冷ややかに一同を見つめる神谷浩史。
「……なんか問題起きてる?」
「い、いえ、あの、その、ちょっとしたバラエティノリで……!」
と浪川が慌てて機材を隠す。
「はぁ……」
神谷はため息をつくと、入野の横にすっと立って、そっと肩を引き寄せる。
「こういうの、嫌だったら、ちゃんと言えよ。……俺は、守ってやれるから」
「……か、神谷さん……」
突然の優しさに戸惑いながらも、入野は小さくうなずいた。
「っち、いいとこ持っていくな〜」
と悔しそうにする良平の横で、宮野がぽつり。
「……ねぇ、でもさ、俺が一番最初に気づいたんだよ?自由の敏感さ」
「え、それって何? 先駆者としての権利?」
と江口。
「うん、だから“俺が一番自由の声にふさわしい”ってことで、みんなには遠慮してもらって……」
「いやいやいや!!ダメだから!?そういう所有権みたいな主張!!」
入野は再び顔を真っ赤にして叫んだ。
しかしその横では、録音機材をしまうどころか、むしろより高性能なマイクを持ち寄る連中が増えていた——。
「これ、スタジオ用のコンデンサマイクで試したら、もっといい音で録れるんじゃない?」
「自由の“ひっ”の波形、すごい綺麗だったよ」
「俺、それ壁紙にした」
「もはや音じゃない……!?」
こうして今日も、入野自由は“声優界一、録られたがられている声”として新たな伝説を作っていくのだった——。