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その夜、麻衣は自宅で証拠を再検討した。
しかし、どれだけ見ても、写真や書類は本物にしか見えない。
明日こそは警察に行こう。
そう決心した矢先、携帯電話が鳴った。
「麻衣、大変!」
由美の慌てた声が聞こえた。
「どうしたの?」
「さっき、あなたが見せてくれた写真の男性がテレビに出てたの。詐欺師として指名手配されてる!」
麻衣の血の気が引いた。
「その証拠、絶対に警察に持参しちゃダメ! あなたが共犯者として疑われるかも!」
麻衣は愕然とした。やはり、昨夜の男性は詐欺師だったのか。そして、その背後には玲香がいるのだろう。
「由美、ありがとう。助かった」
電話を切った麻衣は、証拠の封筒をゴミ袋に捨てた。
麻衣が警察に偽の証拠を持参すれば、今度は麻衣が犯罪者として逮捕されていただろう。
翌日、麻衣は会社から正式な解雇通知を受け取った。
理由は、同僚に対する誹謗中傷および証拠捏造。
そして、その週の週末、麻衣にとって最後の打撃が待っていた。
健太から連絡があった。
「麻衣、会えるか? 最後に話したいことがある」
麻衣は覚悟を決めて、家を出た。
二人は公園で会った。
健太の隣には、玲香が寄り添うように立っていた。
「麻衣、紹介するよ。俺たち、付き合うことになったんだ」
世界が止まった。麻衣は言葉を失った。
「玲香さんが、君のことをずっと心配してくれてたんだ。君が不安定になって、俺との関係も壊してしまって……」
健太は申し訳なさそうに言った。
「玲香さんは、君の友人として、君を支えようとしてくれていた」
玲香は優雅に微笑んだ。
「佐倉さん、私たち友達でしょう? あなたの幸せをこれからも願ってるわ」
「友達?」
麻衣の声は震えていた。
「あなたが私から奪ったものを数えてみましょうか? 仕事、恋人、友人たちの信頼、そして私の人生……」
「佐倉さん、何を言ってるの?」
玲香は困惑したふりをした。
「あなたが自分で壊してしまったんでしょ? 私は何もしていないわ」
健太も玲香の肩を持った。
「麻衣、もう止めよう。玲香さんは君のために一生懸命だった。君がそれを理解しないから……」
麻衣は二人を見つめた。
玲香は被害者を装い、健太は完全に騙されている。
「……分かったわ」
麻衣は静かに言った。
「もう何も言わない」
麻衣はその場を去った。すべてが終わった。
その夜、麻衣は一人でアパートにいた。
窓の外では雨が降り続いている。
携帯電話に着信があった。知らない番号からだ。
「もしもし」
「佐倉麻衣さんですね」
男性の声だった。
「重要なお話があります。今すぐお会いできませんか?」
「もう騙されません」
麻衣は冷たく答えた。
「誤解されているようですが、私は本物の探偵です。氷室玲香の悪行について、決定的な証拠を入手しました」
麻衣は興味を示さなかった。
「もう結構です」
「待ってください! 氷室玲香は明日、あなたを完全に破滅させる計画を立てています。このままでは、あなたの人生は本当に終わってしまいます」
麻衣は通話を切り、携帯を置いた。
もう何も信じる気になれず、ベッドに横たわった。
夜中の2時頃、麻衣はふと異音に気づいた。
玄関の方からかすかに音がする。
恐る恐る玄関に向かうと、ドアの隙間から煙が漂ってきていた。
「火事?」
麻衣は慌ててドアを開けようとしたが、ドアノブが異常に熱い。
外は既に火の海になっているようだった。
ベランダから外を見下ろすと、建物の1階部分から炎が上がっている。
住民たちが避難している姿が見えた。
麻衣は急いで貴重品をかばんに詰め込み、ベランダから避難しようとした。
しかし、非常階段に向かう途中で、足を滑らせてしまった。
雨に濡れた金属製の手すりから手が離れ、麻衣は5階の高さから転落した。
落下する瞬間、麻衣は一つの確信を得た。
これは事故ではない。玲香による計画的な殺人だったのだろう。
放火も、濡れた手すりも、すべて仕組まれていたのだろう。
「玲香……」
麻衣の意識は暗闇に沈んだ。
気がつくと、麻衣は見慣れた天井を見上げていた。自分のアパートの寝室の天井だった。
「夢?」
麻衣は慌てて起き上がり、時計を確認した。午前7時30分。そして日付は……
「3か月前?」
麻衣は混乱した。
カレンダーを確認し、携帯電話の日付も確認したが、間違いなく3か月前の日付になっている。
テレビをつけると、ニュースでも同じ日付が表示されている。
「これは……タイムリープ?」
麻衣は信じられない現実に直面していた。
確かに死んだはずなのに、3か月前の自分に戻っている。
鏡を見ると、火傷の跡も、転落による傷も何もない。
完全に3か月前の状態に戻っていた。
「本当にやり直せるの?」
麻衣の心に希望の光が差した。
今度こそ、玲香に負けない。すべてを取り戻してみせる。
急いで支度をして会社に向かった。
エレベーターで32階に上がり、営業部のフロアに足を踏み入れる。
「おはようございます、佐倉さん」
予想通り、玲香が完璧な笑顔で声をかけてきた。しかし、今度は麻衣も負けていない。
「おはようございます、氷室さん。今日も一日よろしくお願いします」
麻衣は意図的に明るく振る舞った。
玲香の次の手を知っている今、先手を打つ必要がある。