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62.☑
元夫が帰還したその後で ⑥
元夫はどうしても単身赴任したかった。
私はどうしても行ってほしくはなかった。
私たちの元に居て欲しかった。
私は好きな夫の邪魔もしたくはなかった。
どうしようもないじゃないの。
だから別れた。
異性関係の心配ばかりしているような生活は嫌だった。
◇ ◇ ◇ ◇
俺はあっちでもやらかして、由宇子はきっと
自分の選択は間違ってなかったと改めて思ったことだろう。
自分としては微塵も浮気心はなかったとの想いが胸の内にあるが。
微塵も?
自分の胸に今一度問うてみる。
異性と同じ部屋にいることに対する心地よさは?
ゼロだったとは言いがたいかも。
しようがないじゃないか。
若くて綺麗な同僚と1つ同じ部屋にいたのだ、少しくらいうきうきした
気持ちになっても。
だが由宇子はそういうのも嫌だったのだろう。
まさしく浮かれた気持ちさえも。
俺の気持ちは全部由宇子に向けていて欲しかったということ。
それは裏返して突き詰めてみれば、俺は由宇子からそれほど
愛されてたってことだ。
今なら分かる。
こちらに帰って来て事情を知った同僚から言われた言葉。
「奥さんも付いて行ければよかったのにね」
当時俺は逆にそこには拘っていなかった。
むしろ喜んでた節があるくらいだ。
思い切り独身のように仕事ができるって。
俺って詰んでたんだな。
63.☑
元妻と今の夫、そして子供たちの姿を見て・・からその後 ①
あんなに仕事が好きだった俺。
なのに、どうにも意欲が湧かない。
独身になったのだから……
身軽になったのだから……
もう子供のことや家庭のことにも時間を割いて欲しいと懇願
されることもなくなり、煩わしさから解放され
思い切り仕事が出来るというのに全くヤル気が出ない。
おかしいじゃないか!
単身赴任と同じようなもんじゃないか。
この8年間シングルと同じような生活でガンガン仕事を
こなしてきたのに。
いや、違う。
同じなんかじゃないことは、己が一番よく知ってるだろ?
確かに独り身で子供や妻のために時間を割く必要もない。
だけど大きく違うものがあった。
父親として慕い夫として頼りにしてくれてた子供や妻が
もう俺とは違う誰かを慕い、頼りにしているっていうこと。
他所に幸せを求めて俺の元から去って行ったということ。
今の俺は誰かに慕われるでなし、頼りにされるでなく
愛してくれる家族がいないっていうこと。
俺はこんなことになるまで、こんなにも家族の存在が
俺を元気付け、安心感をもたらしてくれるものだと
気付けなかった。
仕事を思い切りするには、家族のことは足枷にこそなれ
ブラスにはならないと傲慢なことも考えていたけれど
ものすごい勘違いもいいとこだった。
子供たちと妻がいたから仕事に生きがいを感じることができ
ヤル気も出ていたんだ。
そんな風に自分の大いなる思い違いを後悔している時に
あるシーンが唐突に蘇った。
64.☑
元妻と今の夫、そして子供たちの姿を見て・・からその後 ②
それは単身赴任を受ける話をした日の元妻の姿と反応だった。
俺は妻のことを知らず知らずのうちに、蔑にしてたのだろう。
あの時、由宇子は俺に何かをポソッと呟いてた。
俺はソコを華麗にスルーしていた。
どうして今になってそのシーンが蘇ってきたのだろう。
大事なことだからかもしれない。
俺は由宇子の呟きを思い出そうと努力した。
何度か記憶を手繰り寄せてはその声無き声を聞き取ろう、
思い出そうとした。
まずは前後の会話を思い出すことからはじめてみた。
◇ ◇ ◇ ◇
「ねぇ、会社からの強制じゃないなら単身赴任は止めてもらえない?
私も子供たちを連れて一緒に行ければいいけれど、こちらで
自営(税理士)のお客様もたくさんついてるし、子供のこともあるし
何年で帰ってこれるかだけでも確定していれば、策も練らられる
けれど、それも分からないでしょ?
中途半端でまたこちらに帰って来ることを考えたら、就学時期を
跨ぐ形になる子供たちにも大きな負担を強いることになるし
だからってあなたにすぐにひとりで行かれたら私、不安だわ。
いろいろと……」
64-2☑
「今までだって単身赴任のようなものじゃないか!
申し訳ないとは思うけど、長時間勤務や出張で子育てには
参加できてないし、ただ寝に帰ってるようなものだしね。
心配しなくてもあんまり君たちの環境は変わらないと思うよ?」
あっ、そうだった。
俺のこの台詞の後、元妻が何かぼそっと言ったんだった。
俺は頭の中で繰り広げられる過去の会話の中の肝心の元妻の
次の台詞をじっと待った。
「そっか、ならいいや。
もういらないや」
あの時は聞く耳持たずスルーしていた元妻の言葉が
すっと耳にはっきりと入ってきた。
「ならいいや、もういらないや」
あの時元妻は俺のことをもういらないとはっきり言っていたのだった。
大切な元妻からの大事な言葉をいとも簡単にスルーしてた
自分の態度に頭を抱えたくなった。
頭の中がガンガンしはじめ、胸が苦しくなってきた。