少し前にあげたものを加筆修正したものです。前の作品に♡やコメントありがとうございました。
このお話もよろしくどうぞ。
テレビの収録を終え、お疲れ様、と労いあってそれぞれが帰路についた。明日は午後からだし、と久しぶりに恋人の涼ちゃんと二人きりの時間を取ることができそうで、昨日の段階で家に誘いOKをもらっていた。
車に乗り込んで、涼ちゃんの隣を陣取った。
嬉しくてにやけそうになる。マスクって便利だよね。
マネージャーが送ってくれる車の中で珍しく涼ちゃんから手を握ってきて、俺の目をじっと見つめた。あ、これは誘われてるな、と受け取って、ぎゅっと握り返す。嬉しそうに目を細める涼ちゃんがかわいくて、じわじわと身体に熱がこもった。
俺の家で一緒に降りて、手を繋いだまま部屋へと急ぐ。玄関の鍵を開けて、何かに追われるように部屋にもつれ込んだ。
「元貴……ッ」
「ちょ、りょ、んんっ」
涼ちゃんが靴を脱がないままに俺を壁に押し付けて、そのままの勢いで口を重ねた。驚きはしたものの、意外と性に淡白な涼ちゃんに求められるのが嬉しくて、細い背中を抱き締めて舌を絡ませる。
くちゅ、と音がするほどに唾液が粘着性を持った頃に唇を離すと、涼ちゃんが俺をぎゅうと抱き締める。
嬉しいけれど、微かな違和感。確かに仕事が忙しくて最近ご無沙汰だったけど、今日の涼ちゃんはどこか切羽詰まった様子だった。
「……抱いて?」
ひどく熱のこもった掠れた声で耳元で囁かれ、ぐっと腰を押し付けられると、固くなった涼ちゃんの中心を感じた。
こういうときに限ってちょっと面倒なブーツなんかを履いていて、思わず舌を打つ。涼ちゃんが、はやく、と熱っぽい目で俺を見て、それでもおかしそうにくすくすと笑う。
やっとの思いでブーツを脱ぎ捨て、荷物をソファに放り投げてそのまま寝室に直行する。ベッドに涼ちゃんを押し倒して身体にまたがり、シャツを脱ぎ捨てた。
見つめ合ってキスをして、涼ちゃんを脱がせて、指や口で愛撫しながら性急に俺自身を埋め込んだ。痛くない? と訊くと、痛くてもいいから、なんて甘美な言葉を吐き出してくる。
さらに、いつもは恥ずかしがって声を抑える涼ちゃんが、びっくりするほどに激しく乱れて、俺も我慢できずにその身体を何度も貪った。いつも我慢できないけど、俺の理性がいつもよりもどろどろに溶けたのは、涼ちゃんが
「元貴、っあ、キス、してぇ……ッ」
と強請り、
「ぁ、もっ、と、おくぅ……ッ」
と煽り、
「は、ぁ、ッ、あと、つけ、てほし……っ」
と誘惑したからだと思う。
涼ちゃんの薄い腹を撫でればびくびくと震えて精を吐き出し、きゅうきゅうと締め付けられて呆気なく果てる。引き抜いてゴムを交換しようとする俺の手を止めた涼ちゃんが、それ、要らない、と言ったけれど、感染症等の危険性があるからと宥める。
それに不満げに眉を寄せたが、俺の首筋に痕が残るほどに噛み付くことで満足したらしい。だいぶ痛かったから涼ちゃんの内腿や背中にたくさん歯形とキスマークを残してやった。
散々抱き合って一息ついた頃、涼ちゃんの腹の虫が鳴いて、さすがにご飯にしようか、と身体を離す。照れくさそうにうん、と頷いた涼ちゃんが、シャワー浴びてくる、とよろよろとベッドから降り……落ちた。
「いっっだッ!」
「ちょ、大丈夫?」
「誰のせいだと……何笑ってんの」
じとと睨まれるけど、全然怖くない。むしろ可愛くてつい笑ってしまって、拗ねたように涼ちゃんが口を尖らせた。
誰のせいって俺のせいでしょ? 最高じゃん。
ベッドに手をついてよいしょ、と立ち上がると、ちょっとふらつきながらも歩いていく。男らしいと言うのか、全裸だけど気にしないようだ。
ふとドアの前で立ち止まって、シーツを交換する俺を振り返る気配がする。
「……元貴」
「うん?」
「……ん、あとでいいや」
廊下のライトで逆光となり涼ちゃんの表情は見えなかったけれど、なんとなく泣いているような気がした。声をかける前にバスルームへと細い背中が消えていく。
あとで言ってくれるのを待つとして、とりあえずシーツを替えてご飯を作ろう。
「ねー元貴ー」
「なーにー」
シャワーを浴びた涼ちゃんが俺の作ったきのこパスタを喜んで食べて、ソファで二人並んで座ってまったりと過ごしていると、間延びするやわらかな声が俺を呼んだ。
「別れて欲しいんだけどいい?」
明日焼肉食べたいんだけどいい? と同じトーンで告げられた言葉の意味が分からなさすぎて、流石の俺もなんの反応もできなかった。
「……は?」
頭が真っ白になって、かろうじて絞り出した声はひどく掠れていた。口の中が急激に渇いていくのを感じる。
「ここに置いてある俺の荷物は捨ててくれていいし、あ、合鍵も返すね」
固まった俺に目もくれず、お揃いのキーホルダーがついた俺の家の鍵をジーンズのポケットから取り出してリビングの机に置いた。かしゃん、という音が虚しく響く。
「うちにある元貴の荷物はどうする? 必要なら送るし、要らないなら捨てるけど」
「ちょ、ちょっと待って涼ちゃん、何言ってんの!?」
「何って別れたいって言っ」
「それが意味分かんないんだって!」
「うるさ、そんな大声出さなくても聞こえるって」
呆れたように眉を寄せる涼ちゃんが、で、荷物どうする? と首を傾げる。
隣に座る涼ちゃんが、何か得体の知れない存在に思えて、ゾッとする。
「……なんで」
「なんで? なんでか分かんないの?」
「わかんねぇよ!」
なりふり構わず肩を掴んで怒鳴りつけると、ご近所迷惑だって、と涼ちゃんがため息を吐いた。
「……自分の思い通りにならないといつもそうやって怒鳴るよね。すっごいワガママだし自分が絶対的に正しいと思ってるし。そう言うとこ、けっこう疲れるんだよ。元貴にとっては都合のいい相手がいなくなって不便かもしれないけどさ」
涼ちゃんが言葉を重ねるたび、頭の中がクリアになっていく。
さっきまで俺の下でかわいく喘いでいたのと同じ声が、俺を言葉で刺していく。
「……つまり、今まで、嫌々付き合ってくれてたわけだ?」
「そりゃぁね。Mrs.のボーカルに言われたらねぇ」
「さっきまで散々俺に抱かれてたくせに?」
「あははッ、……いい思い出になったでしょ? 好き勝手できてさ」
温度のない目で涼ちゃんが笑う。それは確かに侮蔑で拒絶だった。
あぁ、これが悪い夢だったらいいのに。
全然面白くも楽しくもないのに、口からは乾いた笑いが吐息としてこぼれた。
最後のつもりだったからあんなに声を上げてたわけ。
最後にするから何度も何度も強請って煽ってきたわけ。
意味が分からない。何も考えたくない。
「……出てけよ」
「じゃぁ別れてくれるんだね?」
「好きにしたら」
わかった、と涼ちゃんが頷いて立ち上がる。ソファに置いてあったコートを掴んで、俺の横を通り過ぎていく。
いつもだったらTシャツ短パンとかのルームウェアなのに、来たときと同じ服装に着替えてたのは、最初から帰るつもりだったんだ。
「元貴、冷蔵庫のプリン、食べといてね」
「うるせぇよ!」
涼ちゃんの声に机を殴りつける。
こう言うところが、駄目だったんだろうか。
遠くの方でドアが閉まる音が聞こえ、場違いに明るい、お湯が沸いたことを知らせるメロディが流れた。
続。
コメント
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見るの遅くなりました!! 前のエピソード?あって前も良かったのがより良くなって最高でした✨