テラーノベル
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桃×白
深夜、ホテルの廊下に響く雨音さえ、今のしょうにとっては自分を責め立てる怒号のように聞こえていた。部屋の中は、地獄のような静寂に包まれている。
しょうはベッドの下に座り込み、虚ろな目で床の一点を見つめていた。カバンからぶちまけられた薬のシートが、月の光を反射して不気味に光っている。
🐰「……あは、……またや」
一つ、二つと指で薬を弾く。
最初は、ただ眠れない夜をやり過ごすためだった。それがいつの間にか、心の穴を埋めるための代償に変わっていた。
「しょうくん、今日も最高だったよ!」というファンの声。
「今のラップ、めっちゃ良かった!」というメンバーの声。
そのどれもが、今のしょうの心には届かない。届く前に、自分の中の怪物が「嘘や。お前なんて、ほんまは空っぽやろ」と耳元で囁くのだ。
🐰「……もう、ええかな」
震える手で、残っていた錠剤を次から次へと口に放り込む。
一気に流し込むと、喉の奥が焼けるように苦い。
十、二十……。もはや数えることもやめた。
意識を飛ばしたい。自分という存在を、この世界から一時停止させたかった。
数分もしないうちに、世界が歪み始めた。
平衡感覚が失われ、壁が迫ってくるような錯覚に陥る。同時に、内臓を雑巾のように絞られるような強烈な吐き気が込み上げてきた。
🐰「……ぅ、……げほっ、……っあ」
口元を押さえても、指の間から苦い液体が漏れ出す。
あまりの苦しさに、死にたいと思っていたはずなのに、本能が「助けて」と叫んでいた。
朦朧とする意識の中、履歴の1番上――ないこの名前に触れる。
🐰「……ぁ、な……ちゃ……っ」
🍣『しょうちゃん!? おい、どうしたん!』
電話越しに、ないこの焦った声が響く。しょうはそれに答えることもできず、スマホを床に落とした。
ただ、胃からせり上がる不快感と、全身を這い回る悪寒に震えながら、嘔吐を繰り返すことしかできない。
🐰「……っ、……ぅえっ、……ごほっ、……はぁ、はぁ……っ」
ドアが激しく開き、ないこが飛び込んできた。
視界の端で、ないこが自分に駆け寄ってくるのが見える。でも、焦点が合わない。
🍣「しょう! しっかりしろ! ……クソっ、こんな飲んだんかよ!」
🐰「な、いちゃん……っ、……ごめん、……ごめんな……」
🍣「喋らんくていい、今は全部出しちゃい」
ないこは躊躇なくしょうを抱きかかえ、ゴミ箱を抱えさせた。
しょうは、ないこの腕の中で激しく嘔吐した。胃液と薬が混ざった酸っぱい匂いが充満する中、ないこは「大丈夫、大丈夫だよ」と、何度も何度もしょうの背中を、大きな手でさすり続けた。
🐰「……ぅ、……はぁ、……おれ、……おれなんて、おらんほうが……っ」
🍣「そんなこと言うな! しょうがおらん世界で、俺どうやって笑えばええんよ!」
ないこの声が震えている。
しょうは、自分を支えるないこの腕が、微かに震えていることに気づいた。
いつも冷静で、みんなの道標であるないこが、自分のためにこんなに必死になって、今にも泣きそうな顔をしている。
嘔吐が止まった後、ないこはタオルで初兎の口元を拭い、ぐったりとしたその体をベッドに運び、自分もその横に滑り込んだ。
🐰「……ないちゃん……、きらい、にならんといて……」
🍣「嫌いになんてなれるわけないやろ。……ばかうさぎ。お前、どんなけ一人で溜め込んでんだよ」
しょうは、ないこの胸板に顔を押し当てた。
薬の副作用で意識が混濁し、寒気が止まらない。ガチガチと鳴る奥歯を隠すように、ないこのシャツをボロボロになるほど握りしめる。
🐰「……怖いねん。……明日が来るのが、怖い……。みんなに、がっかりされるのが、……っ」
🍣「誰もがっかりなんてせんし。俺が、世界中の誰よりもお前の良さ知ってる。……やから、もう自分傷つけるな。俺の心が、壊れてまうから」
ないこの手が、しょうの髪を梳くように撫でる。
その温もりがあまりに優しくて、しょうは堰を切ったように声を上げて泣いた。
薬で無理やり麻痺させていた心が、ないこの体温によって解凍され、痛みとなって溢れ出していく。
🐰「ないちゃん……っ、……ないちゃん……!!」
🍣「……うん。ここおるよ。ずっと、お前の隣おるから」
夜が明けるまで、ないこはしょうを抱きしめ続けた。
しょうが不安に襲われて震えるたびに、ないこはその腕に力を込め、「愛してるよ」「必要だよ」と、枯れ果てないほどの言葉を注ぎ込む。
深い、深い闇の底に沈んでいたしょう。
でも、その底には、自分を離さないと決めたないこの、不器用で、でも絶対的な愛があった。
薬の効き目が消え、重たい朝が来る頃。
しょうはないこの腕の中で、数ヶ月ぶりに、泥のような深い眠りに落ちていった。
コメント
2件
本当にありがとうございます‼️‼️ めっちゃ最高です✨✨ 抱きつく2人可愛すぎてやばいです😻😭
優幻
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