テラーノベル
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久し振りに母と会って動揺した夜、風磨さんは私を自分の家に連れ帰って話を聞いてくれ、自分が抱えている闇も打ち明けてくれた。
その夜は絶対に両親が来られない場所だし、安眠できるかと思った。
ホテルみたいに綺麗な場所だし、きっと旅行に来たと思って眠れる。
そう思っていたけれど、ショックが大きくて、母になじられた記憶、継父に慰み者にされた記憶が蘇り、平常心でいられなくなった。
呼吸が乱れ、全身が震え、考えないように努めるほど、せせら笑うように二人の顔が脳裏に蘇る。
――これは違う刺激を与えないと。
そう思った私は、風磨さんを利用するようで申し訳なく思いながら、彼のベッドルームを訪れた。
女性から男性の寝室に行けば、勘違いされてもおかしくない。
だから、彼の所へ行くのはある種の賭けでもあった。
けれど風磨さんは冗談で私の気持ちを和ませてくれ、自分で言うのもなんだけど、隣に好きな女性がいるというのに、本当に手出ししてこなかった。
それでも緊張して横になっていると、隣から静かな寝息が聞こえてきた。
――寝た!?
――隣に私がいるのに……、寝た!?
安心すべきなのに、『私ってそんなに魅力がないのかな』と不安に思ってしまった。
呆気にとられた私は、しばらく風磨さんの寝息を聞き、ゴロリと横を向いて彼を見つめる。
狸寝入りしているなら、私が自分のほうを見ていると分かるはずだ。
でもそれからしばらく経っても、彼は健やかな寝息を立てたままだった。
(……変なの)
あれだけ私の事を好きと言って、びっくりするほど急速に距離を詰めてきたのに、肝心な時に手を出さない。
それが風磨さんの〝本気〟なのだろうけど、今まで私が見てきた〝男性〟は、こんな状況になれば、迷わず襲ってくる人たちばかりだったから、本当に意外だった。
(……安心して寝て……、いいのかな……)
念のため、ちょっと風磨さんに触れてみたけど、彼は本当に寝ていた。
(……おかしな人……)
いまだに信じられないけれど、風磨さんが寝ているのは事実だ。
そのあと、気が抜けたからか、緊張の糸がプツリと切れてしまった私も、いつの間にか寝てしまっていた。
その後も風磨さんとの〝同居〟生活は続き、最初は勿論彼を意識したし、緊張した。
風磨さんの家には、バス、洗面、トイレが二つずつあり、彼は最初に言った通り、私用に割り当てた所には決して入らなかった。
家に通っている家政婦さんが掃除に入る事はあるけれど、それ以外では完全にプライバシーが守られた。
会話をしたい時はリビングダイニングでする事になっていて、お互い私室にいる時は、よほどの事でない限り声を掛けないようにしている。
そうやって一週間ぐらい経ったけれど、風磨さんは生活音――ドアを閉める時の音や、足音なども静かだし、引き出しもちゃんと閉じるし、衣服を脱ぎっぱなしにしないと分かった。
ちょっとした事の積み重ねでストレスが溜まるので、意外と大事なポイントだ。
加えて風磨さんは私室を出た正面の壁とエントランスホールに、ホワイトボードをとりつけた。
帰宅したか、今どこで何をしているか、カラーマグネットを置く事で分かるようにしてくれたのだ。
お洒落な豪邸なのに、生活感溢れる物を置かせてしまったという罪悪感はある。
でもとても広い家だし、お互いのプライバシーを守るためにも、そうしてくれたのはありがたかった。
そうやって風磨さんが歩み寄ってくれたから、自分に想いを寄せている人と同居しているのに、変に身構える事なくリラックスして過ごせるようになった。
一か月も経つ頃にはすっかり彼の家に馴染み、風磨さんと結婚してもこのような穏やかな生活が送れるなら、アリだと思えた。
豪邸に住んでいる事も、毎日美味しいご飯を食べられるのも魅力的だけれど、何より風磨さん自身が素敵だ。
一般的に言われる男らしさは、あまりない人かもしれない。
でも決して私を加害せず、権利を尊重してくれるのは重要だ。
当たり前の事だけれど、今までそうしてくれる人は皆無に近かったため、風磨さんといると心から安らげた。
それに彼は話していても、揚げ足をとったり、誰かを馬鹿にしたりしない。
デートしていても店員さんに丁寧な振る舞いをするし、困っている人がいたら自然に助けに行く人だ。
恩着せがましい態度はとらないし、根っから優しい人だとすぐ分かった。
だから、もう意地を張るのはやめた。
――この人の愛を受け入れよう。
決意した私は、〝同居〟から〝同棲〟に変える提案をした。
臣桜
50,509
畝澄ヒナ
119
#短編
五來 小真
29
コメント
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第933話、拝読しました。 「寝た!? 隣に私がいるのに……、寝た!?」という主人公のツッコミ、すごく可愛くてちょっと切なくて、思わず笑顔になりました。今まで男性に加害されてきた彼女が、風磨さんの紳士的な態度に「私って魅力ないのかな」と不安になる心理、とてもリアルでした。そしてホワイトボードや生活音への気遣いなど、風磨さんの誠実さが細やかに描かれていて、「この人の愛を受け入れよう」という決意にじんわりしました。素敵な関係性ですね。