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アイスの棒を舐め終え、ギロチンは静かにゴミ箱へ歩いた。
床を踏むたび、靴底からカチリと金属音が響く。
冷たい棒を捨てたあと、
しばらく何かを考えるように、両手を見つめていた。
アキがコーヒーを啜りながら、その様子に気づく。
「どうした、ギロチン」
ギロチンは、
欠けた頭の奥に“何か”が浮かんだみたいに、目を瞬かせる。
そして、少しぎこちない声で言った。
「……“ください”って、言うと……優しい、くれる。
……もっと、欲しい」
「もっと?」
「……言葉。
言葉、もっと欲しい。
……教えて、アキ」
その瞳は、刃のように冷たいはずなのに、
ほんの少し“光”が差したように見えた。
アキは一瞬、言葉を失った。
彼女の中にある“死と静寂”の奥に、
確かに小さな“学ぼうとする命”が芽吹いている。
「……そうか。
じゃあ、まずは……“ありがとう”だな」
ギロチンは首を傾げる。
「ありが、と……」
「“ありがとう”。
誰かが優しくしてくれたら、そう言うんだ」
ギロチンは数秒かけて、その音を舌の上で転がす。
「……あり……がとう……」
音の途中で金属がこすれるような音が混ざる。
それでも、言葉は確かに“形”になった。
アキは小さく笑う。
「そう。それが、“人の言葉”だ」
ギロチンは、
その言葉を何度も繰り返した。
「ありがとう。……ありがとう」
まるでその音を心に刻みつけるように。
そして、ふとアキを見上げ、
欠けた唇を、ぎこちなく動かした。
「……アキ、教えて。
もっと、言葉。いっぱい。
……“静かじゃない”音、好きになりたい」
アキはゆっくり頷く。
「いいよ。少しずつな」
ギロチンは小さく、胸に手を当てる。
「……これ、“心”って言う?」
「そうだ」
ギロチンは、うっすらと笑う。
金属の刃が光を反射して、
まるで本当に、微笑んでいるように見えた。
「……“心”、ありがとう」
アキはカップを置き、
小さく頭を撫でた。
「それは“ありがとう”の使い方、ちょっと違うけどな」
ギロチンは小首を傾げたまま、
嬉しそうに、何度も言葉を転がした。
「ありがとう、アキ。
……ありがとう」
――その声は、刃の音の奥に、確かな“生”の響きを持っていた。