テラーノベル
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あたりを見渡しても真っ暗で、自分の身体すら見えない。しんと静まり返った暗闇がいやにうるさいような気がした。
「嘘だろ…」
もしかして触れたことでアトランティスから出てしまったとか…?あれで大切なものを置いた判定だったのかも…、
いやだ、いやだっ!せっかく気づけたのに!せっかく思い出せたのに!
涼ちゃん、涼ちゃんに会わないと。会いたい、会いたい…、戻らなくちゃいけないんだ。落ち着け大丈夫、きっときっと戻れるはず…
ふとどこか遠くから小さな喧騒が聞こえてきた。一人ではない、何人かの人々の話し声が聞こえる。
頼む、どうかアトランティスにつながっていてくれ、と必死に願いながら、声を頼りにその方向に歩き出した。その視線の先に洞窟の出口を見つけた時のような、眩しい小さな光が見えはじめ、あっという間にその光に飲み込まれて眩しさに目を閉じた。
がやがやと、さっきよりも鮮明に声が聞こえてくる。恐る恐る目を開くと、
「え、…」
目の前に広がるのは、深海の淡い青色とはまるで別世界だった。
眩しいほどの白い石で作られた巨大な神殿、空に向かって伸びる塔、水路を流れる透明な水、市場には見たこともないような色とりどりの布や果物が並んでいる。そんな中を長い布のような衣装を身に着けた人々が、笑い合いながら歩いていく。
なんだろう、ここは…。初めて見る場所だけど、すごく見覚えがある。
少し遠くに見えるひと際大きな神殿をみて、はっと気づいた。ここは、アトランティスか…?
「…すごい…こんなに、生きてたんだ…」
呆然と立ち尽くした。あれ程寂れて海に沈んでいたのが嘘みたいに、活気と笑い声にあふれていた。
きっとアトランティスが神に沈められるより前のことだ…どうなってるんだろ…
ふと目の前が暗くなって顔を上げると、誰かの体で視界がいっぱいだった。
「うわっ」
ぶつかるーー
そう思って強張った体にはいつまで経っても衝撃はやってこなかった。過ぎていった男性は何事もなかったように向こうへ歩いていく。
まさか、…
手を伸ばして、そばを通った人の体を触ろうとした、が、その手は何にも触れられずに空を切った。
「触れない…、多分声も聞こえてない…。映像を見てる感じなのかな。やっぱ現実じゃない、過去の記憶なんだ。」
歩いていく人々を見ていると、皆同じ目をしていた。吸い込まれるような深い蒼。涼ちゃんと同じ目だった。
さー、と風が吹き、場面が移り変わった。
広場で、左右に分かれた男たちが言葉を交わしている。あの光の花が咲く広場。光の花の代わりに、小さい青い花が咲いていた。
どの人も涼ちゃんと同じ目をしている。なにか難しい顔で話し合っているようで、ところどころ会話が聞こえてきた。
『……、今ならあの島に攻め入れます、我が軍隊なら…、』
『、あの島には大量の資材があるらしい……』
『……穀物の栽培も盛んだとか……』
『………しかし反対派が……』
『………殺せばいい、…問題ない……』
急に出てきた物騒な言葉にどきりとする。内容からして、どうやら近くの島に戦争を仕掛けるつもりらしい。その戦争に反対してる人たちともめてるのかな…?
てか殺すって…、十分豊かに見えるけど、奪いとらなきゃいけないほどなのか?自分勝手な理由しかないじゃないか。
美しい花々と白い神殿の神秘的な景色に、黒いしみを落としたように、男たちだけが異物に思えてしかたなかった。
また風が吹き、今度は一人の銀の髪を持つ人の後ろ姿が映し出される。何かを書いているようで、時折落ちてくる髪の束を耳にかけている。その姿が何か見覚えがあった。
突然その人が何かに呼ばれたかのように振り向き、長い髪の隙間から見えたその顔に驚愕した。
「涼ちゃん…!?」
瓜二つ、どころか僕の記憶の中の涼ちゃんと少しも違わない。いつも通りの綺麗な形の唇をすっと上げて、微笑んでいる。
会いたかった。でも、そこにいるのに、声は届かなくて、涼ちゃんの目はこちらを向くことはなくて、もどかしさに歯をきしませる。
後ろの扉が開かれる音がして振り返ると、一人の青年が立っていた。そのままこの部屋へと足を踏み入れ、涼ちゃんの目の前で止まった。そして、片膝をつき、手を差し伸べる。その男と涼ちゃんが、あまりに絵になりすぎて、悔しいような泣きたいような、今すぐこの場から離れてしまいたくなった。
『リョウカ様、部屋にこもってばかりでは息が詰まります。海へ行きませんか?』
その言葉の後、景色がゆらりと町の中に変わった。涼ちゃんが道を通るたびに、わあっと歓声が上がる。それに涼ちゃんは照れくさそうな顔をしながらありがとうと手を振っていた。時々涙を流しながら駆け寄ってきて、涼ちゃんの手を握りながら、感謝の言葉を繰り返す人までいた。
涼ちゃんは一人一人の目を見て話を聞き、転んでしまった子供には手を差し伸べていた。そして口々に聞こえる「リョウカ様」という声。
涼ちゃんは一体何者なんだろう、どうして今は、沈んだアトランティスの案内役になってるんだろう…
やがて海岸に出てきて、その男と涼ちゃんが歩いているのが見えた。涼ちゃんの表情を見てぎゅうっと胸が痛んだ。
なんて嬉しそうな顔してんだよ。俺はそんな顔見たことないよ。
並んで歩きながら、涼ちゃんと男は戦争の話をし始めた。
『…父様もよく言ってるんだけどさ、戦争なんてしちゃいけないんだ。海に血を流しちゃいけない。僕らはポセイドンの血を引いてるんだから。欲に溺れず、海と民を愛すべきなんだ。
それなのに…軍隊ができて、武器が作られて…家臣たちにも戦争派が増えていっている…』
二人の口ぶりからして、どうやら青い瞳の者たちは、海の神ポセイドンの血を引く一族で、その一族が生きるアトランティスという国の王が、涼ちゃんの父親っぽい。つまり、涼ちゃんはもともとアトランティスで生きてた王族ってこと?
そんなの一言も聞いたことなかった。全然僕は涼ちゃんのこと、知らなかったんだ。
男が口を開く。次の瞬間そこからこぼれ出た言葉に、頭をがんと、殴られたような衝撃を受けた。
ーー『人ってもともと二人で一つだったんですって。その運命の相手を見つけるために恋をするんです。…俺達もそうだったらいいですね。』
一言一句、違わなかった。あの日海岸で、あの子が言った言葉。
涼ちゃんに会ったら聞こうと思ってた、あの日、僕にそう言ったのは涼ちゃんだったんでしょ?違う?
時間軸はよく分かんないけど、あの子は涼ちゃんだったんでしょ?
それはこいつが言ったことの受け売りだったの?なんのために、あの日僕にそんなこと言ったの?僕は結局、その男の代わりだったの…?
涼ちゃんが微笑む、二人の距離が近づいていく、
やめろ、いやだ、やめてくれ、
頭の中の涼ちゃんが、黒く塗りつぶされていくように、ひどい吐き気とともにがらがらと崩れていった。
二人の唇が重なる。どうしてあなたの隣が僕じゃないんだろう。
そんな思いが海の波にさらわれていった。
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追記… ゼンジン当たりました!!😭🥹(注釈付きの席でしたが…) ライブ初参戦なので大緊張… 嬉しい!めっちゃ楽しみ!皆様楽しみましょうね🥰