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奇蹟あい
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#勘違い
かませ犬S
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#男主人公
パラレル・ゲーマー
173
にとり
1
俺は帰り道と反対側に足を向けた。
新高堂書店から衡陽路をそのまま西へ400〜500メートルほど進み、西門(宝成門)の跡地を通り過ぎる。
台北の地理は昨夜学習済みだ。
石動ご自慢の数多のモードの中に、マップモードは備わってなかった。
(重要機能だろうに)
治安が良いとされている中心地だけあって、こちらを窺う気配は複数あれど動きはない。
気づかぬふりをして、さらに西へ進むと淡水河に架かる台北橋が見えてくる。
歩きながら考える…
このまま橋を越え川を渡ると、内地人が極端に減り、本島人や原住民が暮らす地だ。
流石に女学生が向うのは怪しいよな…
橋を渡らずに淡水河沿いの街道を歩くことにしよう。
なんとなく、風情が物思いに耽る少女っぽくないか?
さあ、誘拐犯よどんっとこい、捕まってやるぞ!
***
「桜花です。ただいま戻りました」
台湾総督官邸に戻り、二階の南東の第一起居室(リビング)で本を読んでいた石動に挨拶をする。朔間はまだ総督府から戻ってないそうだ。
「桜花さん。遅かったね。柚木さんが先に戻って来たので心配したよ」
「ひとりで河原で読書する女学生を演じておりました」
少し考えが甘かった…
新高堂書店で購入した本を護岸で、暗くなるまで楚々と読んでいたが。
気配はすれど、誰も現れることはなかった。
(誘拐犯の根性なしめ!)
「…なるほど…開始早々でどうにかなるものじゃないからね」
「気配はありましたので、ルーチンとして数日続けてみます」
警戒された可能性がある。だが数日同じ行動を続ければ、そういう行動をするターゲットと思われる可能性もある。
本屋に通い、河原読書を続けてみよう。
「わかった、朔間さんには私から伝えておこう」
「ありがとうございます」
「この件が終わるまで女中はしなくていいそうだ、部屋で休むといい…
それと、身体に異常があれば直ぐに言ってくれ。
メンテナンスが必要な場合があるからね」
「…わかりました。
では部屋で休ませていただきます」
そう言って俺は離れの和館にあてがわれた寝室に戻るが、教科書や今日買った本を置いて、台湾総督官邸の裏手へと回る。
そこには池や築山を配置した大規模な回遊式庭園(日本庭園)となっていて、木々も多い。
俺は小振袖をたすき掛けにして、その場で軽くトントンと垂直に跳ねる。
この身体は基本性能が高いが、一部は強化魔法を掛けた元の俺より劣る部分もある。
思ったより動いたり、動かない箇所を把握し、“俺”に馴染ませる必要があった。
イザという時に差異があると生死に関わるからな。
構造が男と女というだけでもバランスが異なるし…ははは。
月明りの中、木々の間をすり抜けるように駆ける。
ギリギリで躱して走ってるつもりだが僅かに掠る時がある。
重心が前後左右に移動しやすいしバランスが悪い、男の身体から女の身体になったせいだ。
パワーは悔しいがこの身体のほうが上だろう。
リーチが減って目測が変わるのは痛いが、コンパクトで高機動なのは、利点と思うようにする。
ジャンプして3メートルの高さの木の枝に掴まって枝の上に立ち。そのまま次の木に飛び移る。
この身体実は普通の人間より重い、パワーやそのパワーに堪える構造をしている筈なので質量があるのだろう。中身はどうなってんだろうか…なんか怖いな…爆発したりしないよな?
それでも、木の枝を揺らさずに飛び移るのは俺の技術だ。
木から飛び降り、しゃがみ込んで内太腿にホルスターで吊るしたブローニングを行灯袴の下から引き抜く。
右手で握り左手でグリップエンドを支え下を向けながら、木々の中を緩急をつけて身を隠して走る。
完全なイメージトレーニングだが、知らない武器をアサルトモードに頼らず身体に覚えさせたい。
戦闘に関して、理屈のわからない動きを勝手にされるのはよろしくない。
30分ほどそうやって身体を動かす。
呼吸は多少荒くなるが、乱れはしていない。
汗は運動量に見合ったかきかたをしている。髪の毛が頬に張り付く。汗は冷却を兼ねているんだろうな…
「柚木さん。どうされました?」
俺は背後を見ずに、先ほどからこちらを見ていた視線の主に声を掛ける。
「桜花お嬢様ですか?」
「はい」
「従業者待機所で待機していたら、なんか気配がしたので見に来ました」
(あれ、俺気配消えてなかった?)
「気配ですか?」
「はい、木々に影が見えたので…」
この暗闇で俺の動きを気取られた?
「ちょっと運動をしておりました」
「まるで挺身奇襲隊のようでした。総督からは桜花お嬢様は、御庭番の家系だと聞いております」
「お、お庭?」
(庭師のこと?)
「はい、木に登って枝ぶりを見てました」
「は?」
目を丸くする柚木。
「ん?」
あれ?なんか間違った?
「「……」」
「あの、柚木さんもこの暗闇でよく私の動きがわかりましたね?」
「家は猟師の家系で、怖くて泣いているのに狩りに連れ出されてましたから…」
「…ああ…でも、賊だとは思われなかったのですか?」
なんか目に浮かぶんだが…
「そうですね、賊にしては殺意がなかったのと、普通の賊の動きではなさそうだったので。様子を見てヤバそうなら警備隊長の下に駆けこむ予定でした」
「気配とか、殺意とかわかられるのに、なんで軍人で事務なんですか?」
「恥ずかしながら、徴兵検査で体力が基準に届かず、乙種とされたのと、入隊後の適性検査で毛筆の字と算術を買われ事務方に配属されました。
なので今回のような任務につける桜花お嬢様を尊敬いたします」
「はあ…」
そんなキラキラした目で見られても…
「見学しててもいいですか?」
「…えと、ご随意に…」
(???)
コメント
1件
第7話、読み終えました。桜花がひとりで河原読書を続ける作戦、まだ誰も現れないもどかしさがじんわり伝わってきますね。個人的に一番惹かれたのは、身体の違いを実感しながら木々の間を駆けるトレーニングの場面です。男の身体から女の身体に変わったことで重心が変わり、リーチが減った感覚――そういう細かい調整の描写があると、世界がぐっとリアルになります。最後に柚木さんに見つかって「ご随意に…」と流される流れ、なんともいえない空気感が好きです。続き、気になります。