テラーノベル
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香水を手首に付けた。
ラベンダーの香りがほのかに鼻をくすぐった。
ふふ。あの人と同じ香り。
朝方。喫茶店に行った。
珈琲を注文する。
窓から見える景色は私の涙腺をくすぐった。
――ねぇ。あなた。あなたがよく見ていた景色はこれだったのね。
珈琲が机に置かれた。
マグカップとミルクとシロップ。
いつもはミルクを入れて飲んでいた。
でも今日はいつもとは違う気分。
なにもいれずに飲んだ。
いつもより少し苦味があった。
でもその奥に酸味を感じる。
――これが珈琲の良さか。
マグカップを軽く回し珈琲を意味もなく混ぜた。
薫りがたつのかな。
そんなことを考えながら。
お昼にはショッピングモールへ行った。
トイレットペーパーがなくなりそうだったな。
そう思いつき足を早めた。
しかしその道中で目が止まった。
「ゲームセンター。」
1人呟いた。
そういえば学生のころ彼とよく来たなぁ。
そんなことを思った。
足をゲームセンターへ向けた。
アームがついているゲーム機。
あまり1人ではしないんだけど。
今日は気分がいいから。
百円玉を一枚いれた。
機械には犬の大きなぬいぐるみが入っている。
ワクワクする気持ちを抑えボタンを押した。
持ち上がった。
高揚する気持ちは頬を緩ました。
そのままぬいぐるみは受け取り口へと落ちていった。
犬のぬいぐるみを抱き締め、買い物を続行した。
――ねぇ。あなた昨日はごめんなさい。
家に帰ったら伝えよう。
そう心に決めた。
とあるマンションの一室の扉を開ける。
そこに男物の靴。
こちらへ向かってくる足音がする。
胸を抑え。地に足をつけ待ち構えた。
正面の扉が開いたとき。
私は犬のぬいぐるみを突き出しながら。
言った。
「「昨日はごめんっ。」」
2人の声が重なった。
目の前にいる男性は最愛の人。
男の手には大きな猫のぬいぐるみがこちら見つめるように抱き締められていた。
2人は一緒に吹き出した。
お互いにそのぬいぐるみどうしたの?
とか。
明日デートに行こうよ。
とか。
ただ。ゆっくりと時間が流れた。
未来の話。
今日の話。
昨日の話。
一つ一つ口にするだけで心が少し軽くなった。
朝、目が覚めた。
男が言った。
「ねぇ。俺の好きな香水嗅いでみてよ。」
そういって容器をこちらに差し伸べてきた。
私は容器に少し鼻を近づけた。
「うん。いい匂い。―私にもつけてよ。」
男は嬉しそうに言った。
「うん。」
男は私の手首に香水を振り掛けた。
ラベンダーの香りがした。
そういえば彼からこの香りがよくしていたな。
私は彼から香水を受け取り彼の手首に香水を振りかけた。
またラベンダーの香りが鼻をくすぐる。
香水を棚に置いて、部屋を出た。
今日はどうする?
喫茶店は?
いいね。映画とかは?
それもいいな。
彼と2人で歩みを進めた。
私の指からは切なく優しく
ラベンダーの香りが微かについたままだった。
コメント
1件
ああ、素敵なエピソードでしたね…。ラベンダーの香りで始まって、ラベンダーの香りで終わる構成が美しいです。特に、ゲームセンターで取ったぬいぐるみを突き出しながら謝るシーンが胸にきました。お互いにぬいぐるみを抱えてるって、なんて可愛い和解の仕方なんでしょう。日常の小さな風景の積み重ねが、二人の関係性をじんわりと浮かび上がらせていて、読後感がとても温かかったです。続きが気になります…!