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(え~っと、これくらいで……もう一発……)
キュインキュイン
先端の向きを修正した模型が、再び攻撃準備を始める。
その背後では、ミューゼ達が揃って茫然としている。アリエッタを止める事が出来る者はいない。
「ぷぃ……」
アリエッタの力を感じ取る事が出来るのか、はたまた動物として本能で危険を察知したのか、ドルナ・ノシュワールは遠く離れた模型の光を、恐怖に満ちた瞳で見つめていた。
「ぷーっ!」
『発射!』
シュゴォッ
ドルナ・ノシュワールの叫びと共に、2発目の極太ビームが軽い気持ちで放たれた!
しかし、修正した方向に大きく逸れ、その先にあったとぐろ状の星に直撃。ど真ん中に大きな穴を空けてしまった。
かなり遠くなので当たったという事しか分からなかったが、それを見てしまったピアーニャは……
「な゛ーーーーーっ!?」
当然ながら大絶叫。
続いてミューゼとパフィが我に返り、ネフテリアは顔を真っ青にしてマンドレイクちゃんに抱き留められていた。
「むぅ……」(傾け過ぎたか……難しいな)
「ああああありえった! 待つのよっ! めーっなのよ!」
「ふえ?」
パフィの「駄目」に反応し、アリエッタが無垢な顔を傾げて振り向く。一瞬その表情にふにゃりと怯むパフィとミューゼだったが、ここは大人としてビシッと言わねばならぬ所である。
ネフテリアからの「どうするの?」という視線を背に受け、ミューゼが思い切って手を伸ばした。
「うっ……」
「う?」
「うりうりうり~! そんな危ない事しちゃ、め~なんだよ~!」
「あうっふ!? にゅはははは!」(くすぐっ…みゅーぜくすぐったいいぃぃ!!)
「叱らないんかいっ!」
ミューゼとパフィに、アリエッタに手をあげるという選択肢は存在しない。とりあえず攻撃を止めさせる為に、捕まえてくすぐり始めたのだ。おまけにミューゼに抱きしめられて色んな所に当たっている。
さらに、慌てて逃げようと前方に手を伸ばすと、丁度くすぐりに加わる為に移動してきたパフィの、よりによって柔らかい凶器を掴んでしまうというハプニングも発生。そのせいで更に混乱し、一切の抵抗が出来なくなってしまったのだった。
「はぁ…はぁ…うくぅん……」(みゅーぜぇ、ぱひぃー、らめぇ……)
「なんか目にうっすらハートが見えるような……気のせいよね。幼女ができる顔じゃないもんね」
ネフテリアは、その表情を見なかった事にした。
ミューゼは力尽きたアリエッタを膝枕しつつ、くすぐっている間に手から離れていたコントローラーを拾い、これは何かを聞いてみた。
「あぅ……ううん」(名前ちゃんと考えてなかった。さっきは戦闘機って言っちゃったけど、そんな大層な物じゃないしなぁ。オモチャだし)
(首を振るってことは名前が無いって事かな。まぁのんびり待てばいいか)
「って、のんびりしてるバアイじゃない! おうぞ!」
ほのぼのし始めていたのを、ピアーニャが止める。その理由は、
「追うって……あっ! ノシュワール!」
「おおぅ、逃げてるのよ」
アリエッタの攻撃に怯えたドルナ・ノシュワールが、いつの間にか宙を脱走していた。
「ロンデル達は?」
「ゼンインかわからんが、とべるヤツらがヒナンさせてるな」
走り去る星から溢れるように、小さなモノが点々と浮かんで、傍の星に向かっているのが見える。ドルナ・ノシュワールから…というより、極太ビームに危険を感じたシーカー達である。
その中にロンデルも入っており、実は全員脱出に成功していた。
「どうやったのかは分かりませんが、おそらく総長とネフテリア様による攻撃です! 追跡の動きがあれば、巻き込まれないよう後ろからついていきますよ!」
ロンデルだけは元凶を察していたが、一旦ピアーニャとネフテリアに濡れ衣を着せることで、その場を収めた。上司と王族を犯人に仕立てあげるのに、一切の迷いが無い。
ドルナ・ノシュワールに攻撃性が無い事に少し安心し、日ごろの恨みを込めて、この後の面倒事…もとい判断を委ねたのである。シーカー達の安全確保のついでではあるが。
そんな事になっているとは知る由も無いピアーニャはというと……
「あのヨウスでは、ロンデルたちがツイセキするのはむずかしいだろ! ここはわちらがノシュワールをおうぞ!」
慌てた様子で、ドルナ・ノシュワールを追う事を提案。返事を待たずに『雲塊』を動かし始める。
「えっ……めんど──」
「あ゛?」
「ミューゼ! パフィ! アリエッタちゃんを抱えて! 出発するわよ!」
まったりしていた影響で怠け癖が付き始めていたネフテリアを睨み、先程まで滞在していた泡のある星へと引き返す。
顔が本気になっているのを見て、ミューゼ達は口をつぐんで指示に従っていた。
星へとたどり着くが、雲から降りる素振りも、周囲のシーカーに声をかける事も無く、そのまま星間移動のポイントへ。
無言で目標を設定する装置を触り、無言で雲ごと飛び立った。
「総長どうしちゃったの?」
「ひぃぃぃっ! はやいはやいはやいはやい……」
気迫に圧され、ミューゼ達がアリエッタを抱えながら縮こまっている。パフィの方は別の理由もあるが。
そんな中、ネフテリアは冷静さを取り戻し、ピアーニャを見た。
「ピアー…」(あ~こりゃ怒ってるわ)
(アイツゆるさんアリエッタゆるさんどうにかしてオシオキしてやるうぅぅぅ!)
ピアーニャは焦っていた。
それもその筈、アリエッタが他所のリージョンを明確に破壊したのだ。保護者の1人としての責任や、リージョンシーカーの総長としての立場もあり、穏やかではいられない。
せめて危険なドルナ・ノシュワールだけでもこの手で始末しなければと、その向かっている方角にある星を目指して、星間移動ポイントをセットしたのである。
その焦燥に気付いていないアリエッタは、まだまだやる気満々。ミューゼに抱きかかえられたまま、しっかりとコントローラーを握っていた。
(おお、なんかよく分かんないけど、あのリスっぽいのを追いかけてるな。つまり撃ち落とせって事かな!)
先程接近した時に、『リス』は生物ではない事を理解している。そしてどうやら、破壊しようとしているらしい…という結論にも至っている。
概ね間違っていないが、方法までは分からない。分からないのであれば、今出来る手段で攻撃するのみなのだ。
(よーし手伝うぞー! 攻撃開始!)
ババババババババッ
『ちょおおおっ!?』
コントローラーを操作して、追跡中のドルナ・ノシュワールを撃ち始めた。今度はエネルギーを溜める事なく、連射である。
最初は命中しないが、撃ちながら修正する事で、逃走する星の後ろ姿に当たり始める。
「ぷううううっ!?」
「やめええええっ!」
やっている事はほぼ掃射。当然、当たらなかった弾は遠くに飛んでいき、運悪く流れ弾に当たる星もあったりする。
それを見るたび、ピアーニャが悲鳴を上げていた。
「アリエッタ! うつな! やめてくれえええ!」
妹分に呼ばれたアリエッタは、一旦攻撃を止め、後ろのピアーニャを見た。
言葉は通じなくとも、その苦悩に満ちた顔を見て、ハッとする。
(ぴあーにゃ……)
「………………」
その真剣な眼差しと見つめ合い、手に持ったコントローラーをギュッと握り、心配そうに見つめ返す。
ピアーニャはアリエッタの幼い(と思っている)良心に、必死に瞳で訴えかけた。
(おねがいだ。キケンなコトはしないでくれ……カミのチカラでハカイなどされては、ひとたまりもないのだ。おとなしくエをかくだけでいいんだ!)
その訴えは、マンドレイクちゃんの膝の上で寛いでいるネフテリアに届いていた。
「あれは…とりあえず引っ込んでろって、目で言ってるわね」
「あ、やっぱり? アリエッタ分かるかなぁ……」
要約して呆れている2人の横では、乗り物があっても星間移動のスピードに慣れないパフィが、うーうー唸って雲にへばりついている。
『パフィうるさい』
「ひどっ!?」
緊迫感溢れる幼女達を静かに見守れず、ついうっかり文句が漏れてしまった。
そんなやり取りをしている間も、ピアーニャは必死に「これイジョウはやめてくれ」と、女神に祈っていた。
そしてついに祈りが届いたのか、アリエッタが優しい笑顔を見せた。
「だいじょぶ!」(アイツは僕がやっつけるから心配ないよ!)
違うそうじゃない。祈りが全く届いていない。
拳をぐっと握り、やる気を見せた後、いつの間にか少し近くなっていたドルナ・ノシュワールの背中に向かって、ミニ戦闘機を使って猛攻撃を仕掛けたのだった。
ガガガガガッ
「ま゛あああああ!!」
「ぷーーーっ!」
宙にピアーニャとドルナ・ノシュワールの悲鳴、そして破砕音が響き渡った。
ピアーニャが思わずアリエッタにすがり付き、ちがうちがうと訴えかけるが、アリエッタはその頭を撫でてさらにやる気を見せてしまう。どうやら怖がっている妹分に頼られていると思っている様子。
呆れながら見守っているネフテリアはというと、大きな尻尾が削れていくのを見て、止めるべきか迷っていた。
(これって、アリエッタちゃんをサポートした方が、良いような気がしてきたなぁ……うーん)
ただしサポートしたところで、アリエッタが思った通りに動くかどうかは、また別の問題である。
「これはもう、言葉をある程度覚えないと、お出かけとか控えた方がいいわね」
「えっと……はい、そうですね」
流れ弾に当たって抉れる星々を見て、ミューゼとネフテリアは教育の大切さをいつも以上に思い知ったのだった。