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ピアーニャの『雲塊』ごと星間移動で飛び続け、木製模型の戦闘機から謎のエネルギー弾を連射するアリエッタ。
飛行速度は宙を走るドルナ・ノシュワールより速いので、徐々に近づいている。
「うおおおおお!」(ぴあーにゃの為にも、負けられない!)
「ひいいぃぃ!」
そして、どうにか止まってもらおうと、縋り付きながら祈っているピアーニャ。しかし目の前の女神には、祈りが全く正しく届かない。
「アリエッタ、えっと、めっ」
「だいじょぶ!」(ちょっと待っててみゅーぜ! 今回は僕が頑張るから!)
「ぜんぜんダイジョブじゃなーい!」
ミューゼ達を手伝えるという手ごたえに、すっかりテンションの上がったアリエッタは、なんか変な動く星をミューゼ達の敵とみなし、破壊するという目的を持った事で、ばっちり暴走していた。
もちろんそんな娘の精神状態を、精神世界にいるエルツァーレマイアも察知している。
《いいよいいよその調子っ! さっすが私の娘! 悪い害獣なんて、やっつけちゃいなさい!》
周囲の破壊程度は些細な事であるかのように、全力で応援していた。こちらはアリエッタが自分の力で解決しようとしているのを見てテンションが上がっている。どうやら娘の成長が嬉しいようだ。
「はぁ、どうしよっかなぁ……」
ネフテリアはちょっと優雅にため息をついて、慌てるピアーニャを眺め…るふりをしながら、四つん這いでアリエッタの様子を見るミューゼのスカートの中を覗いていた。
悪寒を感じたミューゼが体勢を直すと同時に、ピアーニャの方に視線を移す。
「総長がんばれっ」
「オマエもなんとかしろよ!」
「やってますけどー、無理なんですよぅ」
「あきらめないでくれよっ」
アリエッタに対して力ずくで止めるという手段はとりたくないので、諦めが早い。
しかしその時、突然アリエッタの攻撃が止んだ。止めたのは……なんと精神的に限界なパフィだった。
「うぅ……アリエッタ……」(よく分かんないけど、落ち着くのよアリエッタ。そして怖いから私を抱きしめて欲しいのよ)
「ぱひー……」
長時間の星間移動で弱っているパフィに声をかけられたことで、アリエッタは冷静さを取り戻した。そしてパフィの手を握り、考えを巡らせる。
(そうだよ、遊んでる場合じゃないんだ! ぱひーがこんな事になってるのって、あのでっかいリスが、いつの間にか何かしたせいかもしれない。だったら……ぱひーの代わりに僕が全力で仕留める!)
なんと的外れな推測で、最悪の結論を導き出してしまった。
そのままパフィの頭をそっと抱き、元気を出してほしいと願いながら、いつもされているようにナデナデした。
「ぱひー」(待っててね。すぐに助けてあげるからね)
「アリエッタ……」(ああ…天使の抱擁なのよ。興奮しちゃ駄目なのよ。理性を保つのよ、私)
いままでの恐怖はどこへやら。アリエッタのふにっとした柔らかさを顔で堪能し、ちょっとヨダレを垂らしている。
もちろんアリエッタ以外にはバレバレで、ちょっと引かれていたりする。
「ぱ、ぱひー……!」
アリエッタは勇気を振り絞り、パフィの額にキスをした。
『あっ』
(背伸びしたちびっこからの応援……くらいに思われてるだろうけど、今はそれでいいよ。絶対にあいつをやっつけるから、見ててね!)
「……あ…あ…ありえっ……」
何か言おうとしているパフィをそっと置き、凛々しい顔つきでドルナ・ノシュワールの方へと向き直った。
背後からパタリと、何かが倒れる音が聞こえると、アリエッタは歯を食いしばり、誰にも聞こえない程の小さな声で、呟いた。
『ママ、力を貸して』
《まかせなさい!》
中にいるエルツァーレマイアの返事が聞こえた瞬間、アリエッタの髪が虹色に変化する。ヨークスフィルンで見せた、アリエッタにエルツァーレマイアの力を送るという力技である。
その姿を見て、ミューゼとネフテリア、そしてピアーニャは息を飲んだ。
「あー……アリエッタちゃん、本気っぽいわ」
「相変わらず綺麗ねー」
「や、やめてくれやめてくれヤメテクレヤメテクレ……」
生身では非力なピアーニャは、女神に縋りついて祈るしかない…のだが、肝心の本人も、その親も、勘違いを重ねた上に、祈りの言葉が通じない。
なお、パフィは既に血の海に沈んでいる。額へのキスで鼻から愛が溢れてしまい、幸せそうな顔で気を失っているのだ。
(待っててぱひー。仇は討つよ)
悲しい事に、やったのはお前だ!と言える人物は、存在しない。
アリエッタは1枚の板を取り出し、真下に向けた。すると、『雲塊』がその動きを完全に止める。
「えっ……ちょっ…うごかないんだが!?」
「あ、いつもの動き止める板」
続いて、筆を取り出し、空中に絵を描き始めた。絵を描く為にリモコンで足場の動きを完全に停止させたのである。
(みゅーぜの世界は魔法の世界。だったら魔法陣を作ってしまえば、思い描いた通りの効果を発揮する……だよね、ママ)
エルツァーレマイアの力を借りたアリエッタは、前回の事で自信がついたのか、『ちゃんとイメージすれば何でも出来る』と信じ込んでいる。それはアリエッタの中で常識となり、能力となるのだ。
もちろんアリエッタは正しい魔法陣など知らない。しかしそんな事は関係無い。
(丸描いて~。もう1つ小さな丸を~っと。小さい方から大きい方に拡張っと。これなら外せないし、避けられないね。ついでに回転も入れてみよう)
何やら不穏な事を考えながら、魔法陣っぽい絵を2つ繋げていく。そして出来上がったのは、メガホンのような形の立体魔法陣モドキだった。
その片側の小さい方に戦闘機の模型を浮かべ、スタンバイ完了。
「ふんす!」(よーし、炸裂弾フルパワーチャージ)
コントローラーを操作し、戦闘機に力を溜める。しかも先程と違い、模型のチャージに加え、アリエッタからの力の供給の追加している。その為、溜める音が先程より高く大きくなっている。
「ミューゼオラ! コレとめてくれ!」
「無理です怖いです! アリエッタ落ち着いてぇ!」
「うわぁ……」
音だけで危険を察知したピアーニャ達だが、巻き起こる力に圧倒され、アリエッタに縋りついて叫ぶのが精一杯。
ネフテリアに至っては、もう諦めている様子。帰ったらどう報告しようかと思いながら、成り行きを見守っている。
ヴィイイイイィィィィ
(もうちょっと…一撃で仕留めるんだ……)
「コレぜったいヤバいやつ! おい、ちょっとアリエッタ!」
「?……!」
何を思ったのか、アリエッタは片方の手でコントローラーを持ち、もう片方の手でピアーニャを引っ張り、抱き寄せた。
そのまま逃げていくドルナ・ノシュワールの方に向き、真剣な顔つきになる。
「ちがうんだ、そうじゃないんだ、おねがいだからやめて……」
(ぴあーにゃも見てるし、頑張るぞ。だいぶ離れたけど、あれくらいなら射程範囲内だ)
そしてついに、アリエッタの攻撃準備が整った。その事を察したピアーニャの不安と恐怖も最高潮に達した。
「てぇーっ!」
「いやあああ!!」
ブオォッ!!
アリエッタがボタン部分から指を離した瞬間、戦闘機を接続した魔法陣の大きい方から、最初の1撃とは比較にならない程の大きさの光線が発射された。しかも回転という、通常ではあり得ない現象まで起こしている。
そんな非常識な光が、準備中の隙に遥か遠くまで逃げていたドルナ・ノシュワールに一瞬で到達。
(ゲームとかに習って、軽いホーミングもつけといてよかった)
もうやりたい放題である。
攻撃の瞬間に察知したのか、ドルナ・ノシュワールが振り向き、光を視界に捉えた。が、叫ぶ間もなく光の奔流がその巨体を飲みこみ……その場で炸裂した。
「ぎゃーーー!」
「うわぁ……」
「あはは……」
「……アリエッタ…ぐへへ」
「うん!」(よっしゃ大成功!)
思い思いのリアクションを口にし、その光景を眺めた。破壊による衝撃波はビームに対して垂直方向に円状で広がった為、アリエッタ達の方にはちょっと体勢を崩す程度の衝撃しかなかった。
しかし周囲の星はしっかりと巻き添えになっている。ピアーニャとネフテリアはそっちの方が気になっていた。人がいない事を祈るのみである。
「ぱひー…」(やったよ。仇はとったよ)
アリエッタはコントローラーを置き、後ろで寝ているパフィに寄り添った。別に死んでもいなければ、ある意味とても元気なのだが。
炸裂した光はすぐに収まり、元の宙の明るさへと戻っていった。
ミューゼがアリエッタに頼んで、雲の停止を解除してもらい、ドルナ・ノシュワールの破壊跡へと直接移動。
光が収まったその場所には、ドルナ・ノシュワールの残骸が浮かんでいた。土、岩、草木がバラバラになって宙に漂っている。いくつか大きな塊が残っており、その中でも1つだけ、ピクピクと動いている塊があった。
「何あれ気持ち悪っ……え、あれ? 毛?」
様子を見る為に接近したその物体は土の塊。そこから数本の黒く長いモノが生え、うち1本は途中で切れている。そのどれもが、先端に行く程、透明になっていた。
『ヒゲじゃん!』
ミューゼ達は一斉に理解し、思わず叫んでいた。
なんとドルナ・ノシュワールは粉々に破壊されたが、鼻とヒゲの部分だけが辛うじて残っていた。しかも生きているようだ。
……と思ったその時。
ぽんっ
「ぷっ!」
まるで飛び出るかのように、小さな生き物…ノシュワールが姿を現した。
『なんかでたー!?』
またも声を揃えるミューゼ達。
しかも現れたノシュワールは全身が半透明で、全てのヒゲの先が無い。
「あれって」
「本体よ! ミューゼ、杖貸して!」
だらけていたネフテリアが立ち上がり、置いてあったミューゼの杖を手に取った。ドルナ・ノシュワールの本体まで距離がある為、操る魔法が得意なミューゼよりも、放出型の魔法が得意なネフテリアの方が適任なのだ。
加えてミューゼの杖にはアリエッタの絵が描いてある。ドルナ本体を討伐するには必要不可欠なのである。
「【魔連弾】!」
相手が素早い小動物ということもあり、速度のある連射型の魔法を放った。強靭な動物ではないので、これが当たれば確実に仕留められる。
しかし……
「ぷっぷぷっ」
外れた魔力弾が周囲に当たり、ドルナ・ノシュワール慌て始める。近くの元ヒゲである鉱石に近づき、顔面を擦りつけた。
「ん?」
狙いを定めているネフテリアが首を傾げた。
というのも、先端の無いヒゲの方から、鉱石に溶け込むように、ドルナ・ノシュワールの体が沈んでいくのだ。同時に元ヒゲの形をしていた巨大な鉱石が変形し、丸くなっていく。
「うそん……」
「なるほど、ドウカとはこういうコトか」
やがてそれは、全身が黒い鉱石で出来た、大きなドルナ・ノシュワールとなった。
「ぷぅ?」