テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ルシファーの光によって繋がれた、72層の魔界。
その最も深い場所に、彼は居た。
最下層に暮らす悪魔は、彼一人だけ。
階層の支配者を魔王と呼ぶのなら、彼も紛れもなき魔王であろう。
彼の名は、”アモン”。
沈黙の魔王とも呼ばれる存在である。
普段なら、ここでは彼の独り言しか聞こえないはず。
しかし、今日は珍しく話し相手が居た。
「輝夜一人じゃ、魔界で生き延びるのは不可能にゃん。アモンの助けが必要にゃん」
彼と話すのは、電子精霊の”ニャルラトホテプMk-II”。
魔界のどこかに飛ばされた輝夜を助けるため、アモンに協力を仰いでいた。
しかし、アモンは首を縦に振らない。
「僕がここを離れられるのは、せいぜい2~3分が限界だ。居場所も分からない彼女を助けるのは、流石に難しい」
彼には、ここに留まらなければならない理由があった。
「にゃん! アモンが輝夜を選んだにゃん。心配じゃないのかにゃん?」
「……確かに、適任だと思ったんだ。ゲーム内で見せた、あの動きから判断してね」
アモンがゲームをプレイしていたのは、”強い人間”を探すため。
仮想空間で行われる戦いなら、現実でのセンスをそのまま拝むことが出来る。
そして彼は、”スカーレット・ムーン”というプレイヤーに目をつけた。
「でも実際の彼女は、とても戦えるような人間じゃないんだろう? 君の報告によれば、日常生活すらままならないとか」
「……それは、そうにゃん」
輝夜の現実での非力さは、マーク2もよく分かっている。
だからこそ、こうやって助けを求めてやって来た。
「――これで、”世界が終わる”かも知れないんだ。僕が力を貸すからには、それに相応しい者じゃないと」
アモンは動かない。
この世界の奥底で、ただその時を待つ。
◆◇
流行りのレザーコートに、黒のショートパンツ。それにフェイクテールも欠かさずに。
輝夜は、完全に悪魔になりきっていた。
「さぁ、着きましたよ」
そんな彼女がカノンと一緒にやって来たのは、街の一角にある”テックマスターのアジト”。
まるで、軍事施設のような巨大な建物である。
「随分、他と雰囲気が違うな」
「一応、この階層では”最も力のある組織”ですから」
瓦礫の街には不釣り合いなほど、彼らのアジトは立派な建物だった。
その周辺には、構成員らしき悪魔達がたむろしている。
服装も、かなりまともな格好をしていた。
「わたしから離れないでください」
「ああ」
二人は、建物のゲートへとやって来る。
「中に入るには、虹彩と魔力認証が必要なんです」
「めちゃくちゃハイテクだな」
周りは瓦礫の山だというのに、ここだけテクノロジーのレベルが違っていた。
「リーダーの”アトム”は、有力な魔王との繋がりがあるそうです。なので、サイボーグのような先端技術や、このようなセキュリティシステムがあります」
「……よく分からんが、凄いな」
機械の前に立ち、カノンがセキュリティをクリアする。
「さぁ、行きますよ」
「……ああ」
いよいよ、輝夜は敵陣へと乗り込んだ。
◇
テックマスター。
先端技術を駆使する、魔界のギャング組織。
そんな意味の分からない集団の本拠地に、輝夜は足を踏み入れていた。
いくら悪魔っぽい服装をしているとはいえ、やはり輝夜の容姿は目立つのか。
周囲の悪魔たちからの視線が痛い。
やはり流行っているのか、彼らもレザー系のファッションに身を包んでいた。
多くの悪魔たちは、輝夜とカノンを遠巻きに眺めるだけだったが。
すると、一人の悪魔が近寄ってくる。
「よう、カノン。死んだんじゃなかったのか?」
「見ての通り、生きていますよ」
自転車和尚
1,650
#かぐや姫
相舞藻子
2,708
#転生
高天原ヒロ
3,069
高天原ヒロ
13
現れたのは、スキンヘッドの屈強な悪魔。
輝夜が今まで出会った中で、一番身体が大きいかも知れない。
これみよがしな筋肉が、輝夜の癇に障る。
「それで、そっちの嬢ちゃんは?」
「入団希望者です」
「へっ、そりゃいい」
スキンヘッドの悪魔が、ジロジロと見つめてくる。
輝夜は、完全にシカトしていた。
「それにしても、今日は随分と人が集まっていますね。街でも、仲間を見かけませんでしたし」
「ああ。どうやら大規模な作戦があるらしい。お前たちの集めた、”ヒューマンスキン”の適格者を探してる」
ヒューマンスキン。
文字通り、擬態用の人皮のこと。
体格など、それに見合った悪魔を選んでいるのだろう。
スキンヘッドの悪魔と、適当に会話を終え。
カノンと輝夜は移動を再開した。
「……大規模な作戦って?」
「さぁ」
カノンも、詳しい情報は知らないものの。
何となくの察しはついていた。
「恐らくは、”姫乃を落とす”つもりかと」
「ッ」
「我々は、そのための準備を進めてきましたから」
姫乃が、鉄壁の街とされる理由はいくつかある。
悪魔の侵入を許さないセキュリティに、万が一に備えた特殊部隊の存在など。
そしてもう一つは、”外部からの転移”を遮断する技術を有していること。
それにより、今回のような例外的な侵入はともかくとして、大規模な”侵攻”は完全に無効化していた。
しかし、悪魔にも学習能力はある。
その鉄壁の防御を破るために、幾人もの悪魔が送り込まれてきた。
「――数十人のヒューマンスキンを送り込み、破壊工作で街の防衛機構を無力化。そして、こちらから大量の兵隊を転送し、一気に街を侵略する。……恐らくは、そのような作戦になるかと」
これから起こる出来事を、カノンはそう予想する。
「テックの構成員は、200人を優に超えています。しかも、ほぼ全員がサイボーグによる強化済み。果たして、あの街の戦力で撃退できますか?」
「……それは」
いくら、姫乃とはいえ。街中に200人を超える悪魔が現れたら、きっとひとたまりもないだろう。
「たとえ少女を救出したとしても、あの街に戻るのはオススメしません。十中八九、あそこは”地獄”になるでしょうし」
それだけの力が、彼らには存在する。
なにせ”悪魔”なのだから。
「……」
カノンの話を聞いて、輝夜は拳を震わせる。
姫乃には、影沢たちが暮らしている。
もしも悲劇が起きるのなら、それを黙って見過ごすわけにはいかない。
「カノン。わたしに協力するって、言ったよな」
「ええ」
「ならその作戦、止められないのか?」
そんな輝夜の言葉に、カノンは思考を巡らせる。
「……転移装置さえ破壊できれば、侵攻は阻止できるでしょう。しかし、100人単位の兵隊を送るとなれば、ここにある設備では足りないはず。……ともかく、もっと情報が必要ですね」
「そうか」
誰を倒せば、何を壊せば。
それで解決するほど、この問題は小さくない。
これから起こるのは、紛れもない”戦争”なのだから。
◆
「なぁ、武器とかは無いのか? 流石に丸腰は怖いぞ」
これから栞を救い出して、なんとか人間界へと帰還する。
上手く事が運べば、一切の衝突無しで行けるだろうが。
最悪の事態に備えて、輝夜は自衛手段が欲しかった。
「……確かに、万が一ということもありますし。少々、武器庫から拝借しましょうか」
栞のもとへ向かう前に、二人は武器庫へ向かうことに。
そこはさながら、ミリタリーショップのようだった。
壁には大量の銃火器が掛けられており、テックマスターの軍事力が垣間見える。
これらを装備した悪魔が200人も攻めてきたら、一体どれほどの命が失われるだろう。
「カノン? 珍しいな、お前がここに来るとは」
顔のデカい、強面の悪魔が武器庫を管理していた。
「この子は新入りなんです。非力ですが、手先は器用らしいので。手頃な武器を用意してください」
「なんだ、そういう事情か。てっきり、お前もついに武器を使うのかと」
「いえ、必要ないので」
カノンは、テクノロジーに頼らなくても十分に強かった。
ゆえに、武器を持つどころか、”サイボーグによる強化すら”行っていない。
「ははっ。お前のそういう所、俺は嫌いじゃないが。……気をつけろよ?」
「と、言いますと」
「分かってるだろうが、うちのメンバーは下級悪魔ばかりだ。無論、お前を良く思わない奴だって少なくない」
「……肝に銘じておきます」
テックマスターは、”弱い悪魔”による集団である。
足りない能力を、サイボーグ技術で押し上げること戦っている。
輝夜には知る由もない事だが。
この組織において、カノンという悪魔はかなり微妙な立ち位置にあった。
「それでお嬢さん、年はいくつだ?」
「15です」
「おっと、そりゃ若いな。ここに入るってことは、よっぽどの事情でもあるのか?」
「えぇ、まぁ」
強面の悪魔と話しながら。
自分の正体がバレないか、輝夜はヒヤヒヤする。
「それで、なにか希望はあるのか? 近接用の武器が欲しいのか、それとも銃か」
「……”切れ味が鋭くて、軽めの刃物”は?」
「そうだな、探してみよう」
輝夜からの要望を受けて、悪魔は武器の棚を探しに行った。
「わたしは、少し情報を集めてくるので。輝夜さんはここに居てください」
「あぁ、了解」
輝夜が武器を選ぶ間、カノンは情報収集を行うことに。
しばらく輝夜が待っていると。
強面の悪魔が、何やら重厚な箱を持ってくる。
「これなんてどうだ?」
箱を開けると、中に入っていたのは”二本のナイフ”。
両方とも同じデザインだが、それぞれに青と黄色のラインが引かれていた。
「”上”から送られてきた、特殊装備の試作品だ。悪魔同士での戦いで優位に立てるらしいが、うちには需要がないからな」
「……なるほど」
輝夜でも扱えそうな、手軽なナイフ。しかも、対悪魔用の装備だという。
どういう仕組なのかは分からないが、まさに求めている一品である。
「青い線が入ってる方は、”高周波ブレード”になってる。説明書によると、BAパッケージを貫くほどの威力があるそうだ」
「BAパッケージ?」
「ああ、知らないのか。俺たちが地上で戦う時に使う、”特別な鎧”のことだ。人間の血液を材料に、高度な魔法で構築されてる」
「……」
輝夜の脳裏に浮かぶのは、何度か見た記憶のある”赤い外殻”。
最初に遭遇したプライヤと、カノンやレパードも使っていた。
「それでこっちの黄色い方は、刃に”強力な電流”が流れるらしい。大人の悪魔も、一撃で戦闘不能に出来ると書いてある」
青と黄色、二つのナイフにはそのような機能が搭載されていた。
高周波ブレードで敵の装甲を貫き、もう一方の電流で無力化する。
それにより、理論的は二発で悪魔を倒せることになる。
「とはいえ、扱いはかなり面倒だぞ? なにせナイフを二回も、それも同じ場所に当てないと倒せないんだからな。……まぁ、相手が武装してないなら、電流の方だけで十分だが」
悪魔は基本的に、人間よりも遥かに優れた能力を持っている。
素手で鋼鉄の壁を突き破り、壁を駆けて屋根にも上れる。
こんなナイフのような、小手先の武器に頼る必要はなかった。
とはいえ、輝夜にとってはうってつけの武器なので。
試しにナイフを握ってみるも。
「……案外、重いな」
普通の人間にとっては、かなり軽い部類に入るのだろうが。
致命的に非力な輝夜には、それでも重く感じてしまった。
ただ持つだけなら問題ない。するつもりはないが、料理にも使えるだろう。
しかし、これを武器として扱って、なおかつ敵に当てる必要があるとなると、非常に難しいものがある。
「これで重たいとなると。正直、嬢ちゃんに使える武器はないぞ?」
ここに存在するのは、全て悪魔が使うための武器。
ペットボトルの蓋も開けられない輝夜では、そもそもの土台が違っていた。
「さっさと、改造手術を受けたらどうだ?」
「……そうですね、検討します」
それで強くなれるのなら、サイボーグになっても構わない。
しかし、そんな時間の余裕もなかった。
今の自分でも使えるような、手軽な自衛手段が欲しい
そんな事を考える輝夜に、
「――なんなら、”アドバンス”でも使ってみるか? 確実に寿命が減るから、無論オススメはしないが」
不可能を可能にする、悪魔の囁きが聞こえた。
◇
輝夜が武器庫で待っていると、情報収集を終えたカノンが戻ってくる。
「おや、武器は無いんですか?」
「ふふっ、よく見てみろ」
スラリと伸びた輝夜の足。
その両方の”太もも”に、黒いナイフホルダーが装着されていた。
「……なるほど」
装着されている位置も位置なので、カノンは若干気まずそうに視線をそらす。
輝夜の所有するアイテムが、”ナイフ以外にもある”とは知らずに。
「それで、どうだった?」
武器庫の外で、輝夜はカノンの集めた情報を聞くことに。
「予想通り、姫乃に大規模な侵攻を行うそうです。それで今、ヒューマンスキンの部隊を”加工中”とのことです」
「なら、こっちに送られてきた連中は?」
「あの少女以外は、もう手遅れでしょう」
人の外皮などを剥ぎ、悪魔を覆うように加工する。それにより、呪いを無力化出来るらしいが。
とても、正気の方法とは思えなかった。
「とはいえ、侵攻にはまだ猶予があります。今のうちに、少女の救出を行いましょう」
「ああ」
ここから先は、どう転がるのか分からない。
穏便に、バレずに事を進められるのか。強硬手段が必要になるのか。
なにはともあれ、助ける以外の未来はあり得なかった。
「それにしても、本当に無条件で協力してくれるのか?」
「ええ、もちろんです」
「……成功したら、”足くらい”なら触っていいぞ?」
「結構です」
いつの間にか、提示する対価が安くなっていた。
「でもそれだと、お前に何のメリットも無いんじゃないか? ……いいのか? 仲間を裏切るのに」
なぜ、カノンがここまで協力してくれるのか。
なにが彼を”心変わり”させたのか。
輝夜には、理由が分からない。
「――ありますよ、メリット」
しかし、カノンはこの裏切りを、無駄とは考えていなかった。
なぜなら、もっと欲しいものが出来たのだから。
「んん?」
自らを純愛派と呼称する彼が、一体”何のため”に行動するのか。
疎い輝夜には、それが分からなかった。