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理事長室を出て、上鳴先輩が案内してくれるまま後をついていく。

ちらりと上鳴先輩の横顔を見ながら、ふと思った。

「先輩って、彼女とか好きな人は居ないんですか?」

さっき理事長は、誰かのことを名前で呼ぶのは珍しいみたいな言い方してたけど…上鳴先輩くらいのイケメンな人なら、彼女の一人や二人…って、2人はダメか。

「…恋人っていうか、女の子と遊んだりとかはするけど…ずっと気になってる人はいる」

え?

上鳴先輩が、片思い…?

こ、こんなにかっこいい人が…っ!すごくモテそうなのに…!

「上鳴先輩なら、きっと相手の方もすぐに振り向いてくれると思いますよ」

小さくガッツポーズをして、本心を言った。

けれど、上鳴先輩は一瞬、苦しそうに顔をゆがめて、口を開いた。

「いや、その子には、今付き合ってる人がいるんだ」

「あっ…ご、ごめんなさい」

僕、無神経なことを言ってしまった…っ!

肩を落とした僕を見て、上鳴先輩はふっと微笑んだ。

「気にすんな。それに、あきらめるつもりは毛頭ないしな」

諦めるつもりはない…?

そ、それって…!

「りゃ、略奪愛はダメですよっ…!」

僕が首を横に振りながら言うと、上鳴先輩は口角を上げていたづらっこのように笑う。

「好きになったやつが魅力のある人間なら、仕方ないだろう。男なら、奪ってでも手に入れたいと思うんだよ」

その言葉に、上鳴先輩がどれだけその相手を思っているのかが伝わってきた。

そういうもの、なのかな…?

で、でもやっぱり、略奪愛はダメ!絶対!

「…そういう出久はどうなんだ?」

ギクッと、効果音が脳裏に鳴り響く。

別に恋人がいるなんて隠すことでもないだろうけど…転ちゃんは男だから、男同士で付き合っていることを言うのには少し抵抗がある。

「僕は…ひ、秘密です」

「なんだそれ、俺は話したのに、自分は言わない気か?」

眉間にしわを寄せて、ぐっと顔を近づけてきた先輩。

「えっ…先輩、近いっ…!」

「…お前、相当目が悪いんだな」

「え?」

「そのメガネ、少し分厚すぎないか?」

僕のメガネを、不思議そうにじーっと見つめている。

伊達メガネだとバレるのには都合が悪い気がして、慌てて首を横に振った。

「そ、そんなことないですよ?し、視力が悪いので、これくらいが妥当です!」

「ふっ、妥当ってなんだ。やっぱりおもろいな、お前」

面白そうに笑う先輩に、ほっと胸を撫で下ろす。

まさかメガネに助けられるとは…話が切り替わって良かった…。

「…あ、そういえば、理事長が言ってた、裏の説明って何ですか?」

「ああ、そうだな。その説明もしないと…」

ふと思い出して質問した僕に、上鳴先輩は話を進めた。

「この学校には、2つの勢力があるんだ」

「2つの…勢力?」

もしかして…。

一瞬にして、上鳴先輩が言おうとしていることがわかった。

「暴走族って、わかるか?」

——–やっぱり。

「はい」

知ってるも何も、転ちゃんも、暴走族に所属している。

この前のトップ——–villainsというグループの…総長を務めているんだ。

引っ越しする前は、転ちゃんやvillainsのみんなと仲良くしていたから、この学園の暴走族が多いこともしっている。

「知ってるんなら話が早いな。この学園には、ナンバー1とナンバー2の暴走族が共存している」

「…え」

転ちゃんたち絡みの話だろうとは思っていたけれど、そこまでは想定外だった。

だって…2トップが共存なんて…できるの?

それに、ナンバー1はきっと転ちゃんが所属しているグループのことだ。

だとすると、もう一つは…Heroesかな?

僕が引っ越す前、ナンバー2だった族だ。

「学校の方針で表では暴力沙汰すら起きないけど、裏ではたまに抗争が起こってるのが現状」

たまに…か。

普通、暴走族同士は合えば一触即発。喧嘩が日常茶飯事だ。

だけど、たしかvillainsとHeroesは前の総長同士が仲良しで、事実上協定が結ばれていた。

今はどうかわからないけれど、そのおかげで仲が保たれているのかも。

一つの学校内に共存できているのも、頷ける。

納得したのもつかの間、僕は上鳴先輩の次の言葉に目を見開いた。

「そしてここからが本番だけど、villainsという属には極力近づかないほうがいい。奴らは野蛮だから、何かあればすぐに手が出るし披閲な方法をとってくる。巻き込まれると危ない」

…え?villainsが野蛮?

そんなはずは…。

みんな優しくて、僕のことを家族のように可愛がってくれる人ばかりだった。

転ちゃんだって、これでもかってくらい優しい。

それなのに、villainsは周りからそんなふうに思われてるの…?

「生徒会はある種、villainsの野蛮な生徒を抑制する意味も兼ねて活動してる。あいつらに権力を握らせるわけにはいかないから、生徒会が校内での権力を握っている形だ」

そ、そうなの…?

そんなに野蛮だと思われているなんて、いったい何があったんだろう…?

「villainsって確か…志村転弧っていう人が総長の、ですか?」

確認しようと、思わず聞いてしまった。

「聞いたことがあるのか?まあ有名だからな。…なんだよ、もしかして志村転弧のファンか?」

なぜか一瞬、先輩が不機嫌に見えたのは気の所為…?

「いえ、そんなんじゃ…」

「あいつは辞めておけ。…恋人がいるからな。お前じゃ到底かなわないような最高の女だ。」

…っ。

びっくり、した…。

だってまさか、先輩が僕のことを知っているなんて。

でも、最高の女って、そんなんじゃ…。

…女?

え、今先輩女って言った?

男ナンデスケド…あれ…?

誰かと間違えてる???

「せ、先輩。その女の人ってどんな見た目ですかね…?」

「…見た目?髪と目は緑で、ショートカットだったな。まあ、一度しか見たことはないけど…」


僕だこれ。


まさか女と間違えられてるなんて…どこでそんな手違いが生まれたんだろう。

僕はただの平凡男子だし、そんなふうに言われるような人間じゃない。

「上鳴先輩、何か知ってるんですか…?」

「あいつの恋人か?…俺だけじゃねえ。デクのことを知らない人間なんか、この学校にはいないだろ」

〝デク〟。

その呼び方に、確信した。

先輩が話しているのは——–僕のこと、だと。

デクとは、僕の通り名だ。

自分でつけたわけではなく、昔いじめられてたときに呼ばれてたんだよね…。

ちなみに、villainsのみんなや、暴走族のみんなは、僕のことをそう呼ぶ。

転ちゃんと幼なじみなら本名を知っているけど、転ちゃんは今も僕のことはデクという。

本名を隠していたのは、事情があった。

別に大した事情じゃないけど、とにかく先輩の言う『志村転弧の恋人』というのは、間違いなく僕のことらしい。

でも…。

「知らない人間はいないって…」

どういう、こと?

僕、そんな有名人じゃないはずだけど…もしかして、転ちゃんが有名だから?

「デクは伝説の女だからな。みんなあいつに憧れたり、恋焦がれたりしてる」

でんせつの、女…?

もしかして、Familieを潰したことかな…?

1年前、villainsがナンバー1になる前にトップだったFamilieというグループがある。

他の暴走族潰しを趣味にしている、最強で最悪と言われたチーム。

転ちゃんたちがFamilieに目をつけられ、壊滅寸前までに追い詰められたことがある。

その時に、僕が助けに行った。

それなんだけど…伝説だなんて言われてるなんて…一体どんな尾ひれがついて噂が広まったんだろう…。

憧れられるような人間じゃないのに…それに…。

「恋焦がれているっていうのは…」

どういうこと…?

「当時のデクを知っている人間は、みんないつに惚れているだろうな。1年前、急に姿を消してから…どいつもこいつも行方を探してるよ」

え、ええっ…!?

いったいどういう状況になっているのか全く分からず、開いた口が塞がらない。

ぼ、僕ちびっ子だしグズだし秀でたところもないのに…みんな勝手な幻想をいだいてるんじゃないかな…。

どうしよう…デクが僕だってバレたら、がっかりされそう…っ。

「俺も探してるんすけど、見当もつかないんだ」

か、上鳴先輩まで…!?

こ、ここにいます!こんなちんちくりんで、ごめんなさいっ…!

土下座したい気持ちになった僕に、追い打ちをかけるように告げられた言葉。

「さっき言った俺の好きな相手なんだ。デクは」

「…っ!?」

か、片思いの相手って…!。う、嘘…!

上鳴先輩、ごめんなさい…。

騙しているような気持ちになって、罪悪感に襲われた。

「どうしたんだ?そんなに驚いて…」

驚きを隠しきれない僕を見て、先輩が不思議そうにこっちを見た。

「い、いえ…その、デクって人と、知り合いなんですか…?」

たぶん噂が一人歩きしちゃったんだ…だって僕、上鳴先輩と会ったことないはずだもん…。

「一方的に、な。助けられたことがあるんだ。本当に…可愛かった。この世にこんなきれいなものがあるのかと思ったよ」

え…あったこと、あるの…!?

それでも好きでいてくれたって…先輩、目が悪いのかな…。

「へ、へー…そうなんですか…」

もうそれしか言えなくて、自然と下がる目線。

どうしよう…なんとしてでも、デクだってバレないようにしなきゃ…。

勝手に伝説にされているなんて迷惑極まりないけど、詐欺罪で訴えられるのは嫌だから隠し通さないとっ…!

上鳴先輩にも、目を覚ましてもらわないと…。

「で、でも、実は大した事ない人なのかもしれないですよね。みんな夢見過ぎなんじゃないですかっ…」

「…おい、でくのことを悪く言うんじゃない」

急に声が低くなった先輩に、ビクリと方が震える。

「す、すみませんっ…」

自分を貶して怒られるなんて…り、理不尽っ…。

「一度しかあったことはないけど、あいつは俺にとって運命のような相手なんだ。デクにとってはそうじゃないかもしれないけど…志村転弧の女だとしても、諦められない」

上鳴先輩…。

本当にどうしてそこまで思ってくれているのかは分からないけれど、少しだけ嬉しかった。

そんなふうに言ってもらえて、嫌な気持ちになるわけがない。

「…デクにあんな男は、ふさわくない」

…え?

ボソリと、上鳴先輩がつぶやいた言葉。

その言葉の意味が分からず、首を傾げる。

「…わりい、話しすぎたな。出久には、なぜか何でも話してしまいそうになる」

上鳴先輩は、口元を手で覆うようにしていった。

気のせいかな…?

聞き返すようなことでもないと思い、このときは特に気にもとめなかった。

「…と、話がそれたが、とにかくこの学校ではその2つの勢力が存在していて、反発しあっている。出久も明日、くクラス発表があるだろうけど、その中でも分かれているだろう。ほとんどの生徒が族に所属しているからな」

そうなんだ…暴走族学校っていうのは、やっぱり本当だったんだなあ…。

「とりあえず話はこれくらいだけど、わかってくれたか ?」

「わ、分かりました…!教えてくださってありがとうございます…!」

「そんなにかしこまらなくていい。ちょうど着いたぞ。ここが出久の寮だ」

いつの間にかついていたらしく、視線を前に向ける。

…えっ、寮って、こんなに豪華なんだっ…!

どこかの高級マンションかと思うほどの作りに、目をぎょっと見開いた。

「寮の生徒以外のものが入れば、センサーが反応するようになっているから、設備も問題ない」

慣れた足取りで入っていく先輩につづいて、エレベーターに乗る。すると、先輩は最上階のボタンを押した。

「ここだ」

「えっ…」

最上階の、一番奥って…。

こんないいところに住まわせてもらっちゃっていいのかな…。

「ちなみに、俺は手前の部屋だ。下の階には生徒会の幹部が住んでる。…今説明するのはこれくらいだな」

「はい!今日はありがとうございました…!」

「俺の役目だから気にしなくていい。楽しい学校生活になるといいな」

ふふっ、そうなるといいな…。

僕は笑顔で頷いて、大きく首を縦に振った。

実は最強な出久くん

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