カードキーを差し込み、部屋の中に入る。
「わっ…!広い…!」
一人部屋とは思えないような広さに驚きながら、あちこちを探索。
2LDKの室内は、本来2人用なのかと思うほど広々。
キッチンも広いし、料理するのも楽しそう…!
理事長が言っていたとおりすべての部屋に内鍵がついていて、至れり尽くせりだった。
それにしても…まさか〝デク〟の名が、あんな広がりを見せていたなんて…。
転ちゃんの恋人ってこともあってだろうな…変装してきて正解だったのかもしれない…。
上鳴先輩のことを騙しているようで心が痛んだけど…今はまだ僕がデクだとカミングアウトする勇気はない…。
ただ転ちゃんやvillainsのみんなと会いたいって理由で来たけど…前途多難になりそうだ…。
…ダメダメ、初日からこんなマイナスな気分になっちゃ。
よーし、今日はまず、荷解きをして部屋を片付けるぞ~!
そういえば、今は僕しかいないんだから、もう変装は解いてもいいだろう。
ウィッグと眼鏡を外し、カラコンも取る。
はー、スッキリ…!
さ、片付けるぞ!
ぱちっとほおを叩いて、僕は荷解きを始めた。
終わった…!
すべて終わった頃にはすでに外は暗くなっていて、お腹がぐうっと音を立てた。
食料品の買い物は明日行くとして、今日は簡単なもので済ませよう。
お母さんがたくさん送ってくれた軽食を食べ、お風呂に入る。
今日はもう寝ようかな…と思ったとき、スマホが音を立てた。
画面に映し出された、【転ちゃん】の文字。
慌てて電話に出ると、スマホ越しに転ちゃんの声が聞こえた。
《デク、今何してるの》
転ちゃんのその優しい声色に、1日の疲れがスッと消えていく。
「そろそろ寝ようかなと思ってたところだよ」
《そっか》
「転ちゃんは?」
《俺も。寝る前にデクの声が聞きたいなと思って》
その言葉に、嬉しくなった。
ふふっ、てんちゃんは、まだ、僕がこの学園に居ることを知らない。
こんなに近くで電話してるなんて、思ってもないだろうな…。
びっくりする転ちゃんの顔を想像するだけで、笑顔がこぼれた。
転ちゃん、喜んでくれるかなっ…。
早く、会いたいなあ…。
転ちゃんとは、もう半年以上会ってない。
半年前、転ちゃんが九州に来てくれたとき以来だ。
転ちゃんは月に一度僕に会いに行くなんて行ってくれたけど、交通費のこともあるし、いつかは帰れる予定だったから会うのは控えていた。
会ったら、離れがたくなっちゃうし…。
でも、これからは毎日だって会えるんだ。
「僕も、転ちゃんの声が聞きたかったよ」
《可愛いこと言わないで、会いたくなるから》
「ふふっ」
もうすぐ会えるよ、という言葉を飲み込み、代わりに微笑んだ。
《デク、声が眠そう》
「そうかな?」
《うん。今日はもうおやすみ。また明日も電話するね》
「うん、おやすみなさい」
《大好きだよ、デク》
その声を最後に、電話が切れた。
本当は今すぐにでも会いに行きたいけど…。
上鳴先輩がああ言ってたし、教室に会いに行くことができない状況じゃ今は会いようがないな…。
校内では、転ちゃんがいないか常に目を凝らしておかなきゃっ…。
転ちゃんにも、早く見つけてもらえますように…。
そんな事を考えながら、僕は幸せな気持ちで眠りについた。
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