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睡蓮
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#異能力バトル
名無の男2
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水瀬葵
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驚喜と、不審の目。
真っ赤なワイドカーペットの両脇に呆然と立ち尽くす兵士たちを横目に、アーシアに手を引かれるがまま城内を進んでいく。
「……あれが私の兄、エドガー・ヴィクトーリア王よ」
アーシアの示した先、謁見の間で玉座に座るは腰まで伸びる赤髪の男性。首や黄金色の装飾の数々をさげ、右腕には頭にあるはずの王冠が通されている。
侍みたいに厳格そうな表情と、屈強な肉体が王たる威厳を醸《かも》し出している。
「アーシア、漸く戻ったか」
「……はい、エド兄様」
エドガーと対面した途端、アーシアの様子が変わった。
声音が、その手が震えている。
ドラゴンを前にしても勇敢だった、あのアーシアが。自分の兄に対して、怯えているのか……?
「どうだった、外の世界は。 見てきたのだろう、その目で。 それら全てが、我らの守るべきものだ。 美しかったろう、そして儚くも感じだろう。 魔物などに、魔族などに、魔王などに蹂躙されぬよう、我々が魔剣を振るう理由だ。 分かったらもう、この様な真似はするな」
「……心配をかけて、すみませんでした」
「……その横の者は?」
「彼はキラ、私の発見した流れ星の『転生者』です」
「なに……?」
城の兵士たちが一斉にどよめいた。
王の風格にクールを保っていたエドガーすら、それを崩して前のめりだ。
「キラとやら、其方が『転生者』だというのは本当か?」
「はい、本当です。 オレは元いた世界から女神マリアの力でこっちに送り込まれた『転生者』、って呼ばれる存在みたいです」
「ならば、その証を示していただこう。 其方が授かった女神の加護をご披露いただきたい」
「それは……」
オレが詰まった様子を見て、途端にエドガーの目の色が変わる。
こっちだって嘘をついているワケではないので胸を張りたいところだが、『転生者』の証である女神の加護を受け取っていないのも事実。
破壊の権能を披露することでしか特別な力を持ってますってアピールはできないが、それをこの場でどうやって見せりゃいいんだ。
火が出せます、水を放てます、雷を呼べますって風に目に見えて分かりやすいもんじゃあないのが悔やまれる……!
「……では其方が『転生者』なら、彼女とは顔見知りか?」
近くの兵士が駆け寄ってロープを引くと、ワインレッドのカーテンが開いて中から鳥カゴに閉ざされた玉座が現れた。
そこには手枷をつけて監禁される、まっさらな純白のドレスを着た少女が眠っていた。
オレは、目を疑った。
その黒髪、その童顔、静かに眠るその表情。
見慣れない格好をしていても見紛うワケがない。
王妃の席に座り、鳥カゴに閉じ込められたお嬢様は、オレの妹。間違いなく、神無月理紗だった。
「理紗ッ!?」
”最近見つかった流れ星はその子だけだもの。
二週間ほど前に斥候部隊が発見して、
今は城の地下で治療を受けているはずよ”
アーシアの話していたあれは、まさに理紗のことだったんだ。
でもあの様子は、治療というにはあまりにも似つかわしくない状況に見受けられる。中の者が目を覚ましても逃げられないように収容し、自由を奪っているようにしか……。
「アーシアよ、お前の居ぬ間にこの者の加護を解析し、驚くべきことが判明した。 『夢幻』の秘めたる魔力は、我々の想像を遥かに超越していたのだ! 我々が測定したのは睡眠中に体外放出された魔力数値のみ。 これは氷塊から放たれる冷気のようなものに等しい。 つまり実際のところ、『夢幻』の持つ魔力は測定された魔力数値の数十倍、数百倍にも及ぶということだ! 底なしの力、まさに無限。 星ひとつ滅ぼすことすら容易い、暦上、最強の『転生者』だ! 寵愛の女神よりの最高級の恩恵! ヴィクトーリアの希望だ!」
「……では、その『転生者』と手を組み魔王軍の征伐へ?」
「否、計画は変わらんよ。 私は明日、『夢幻』を『結晶』にする。 私は彼女の魔力を以て、我ら血族の目指した終着点、究極の魔剣士となる! 私こそが『真の勇者』と成り、私の剣で魔王の首狩りを遂げてみせる!」
「……させねえ」
理紗を『結晶』にはさせない。
そいつはオレの妹なんだ。
オレのせいで、本来関わるはずのなかった『少数派』に権能で洗脳され、こんな危険な異世界に送り込まれてしまっただけの一般人……、オレの恩人なんだ!
「エドガーさん、オレは貴方が『夢幻』と呼んでいるその子の兄です。 血は繋がっていないけど、それでもお兄ちゃんなんです。 オレはその子を元の世界に連れ戻すために、こっちの世界に来ました。 ……妹を危険に晒すワケにはいかない、どうか『夢幻』を、理紗を解放していただくことはできませんか」
「エドお兄様、私からもお願い致します。 その『転生者』はお兄様にとっての私と同じ、彼の家族なのです。 ……それを『結晶』にするなんて、この計画は間違っています! 『転生者』だって、人間なのです!」
「…………アーシアよ、その男に籠絡されたか?」
エドガーが立ち上がる。
「お前も知っているだろう、『転生者』は必ず何らかの欠陥を抱いている。 女神マリアンヌは二物を与えない。 我らの国で保護した最初の『転生者』は、己はレベル999だなんだと謎の妄言を振り回して女を侍らせていたが、幼稚で知能が低く、最後には性病と破傷風で死んでしまったではないか。 昨年の『転生者』は光る鉄の板を操り神と交信する力を持っていたが、己が力を過信し、強大な魔物と対峙して喰われて死んだ。 殺される直前まで、まるで遊戯でもしているかのような言動を残して。 『転生者』はみな、何かが欠けている。 知能指数、死傷への緊張、危機管理能力、計画性、理性。 己が動けば、世間の方が都合良く変動してくれると信じて疑いすらしない。 どいつもこいつも、魔王征伐など夢のまた夢。 女神の加護を扱いきれない愚者ばかり! そして今……、偉大な魔力を持つは彼女はこの通り眠り続け、勇者として使い物にならない。 分かるだろう? 女神の加護を無駄にするわけにはいかない。 私のような力ある者の手に渡った方が国のために、世界のためになるのだ!」
「た、確かにそうですが……、『転生者』様だって、ひとりの人間で……、力のために命を奪うなんて……、ことは……」
エドガーの冷たい目がアーシアを計る。
彼女は小さく震えながら、振り絞った勇気で訴え続ける。
アーシアは、自分を兄の劣化版だと言った。
あんなに悲しいことが言えたのは、兄との実力差から強い劣等感を感じていたからだ。
そんな兄を信頼し、尊敬し、兄弟仲が円満なら話は別だが、アーシア達ははそうじゃなかった。国民と同様に兄へ恐れを抱き、過激化していく思想に反発していた。
だから今、こうしてオレと理紗のために兄に立ち向かうことに、とんでもない勇気がいるはずなんだ。
手に汗をかいて、膝が震えて、動転しそうな頭を冷静に、冷静に……、と抑え続けているんだ。
アーシアがこんなに踏ん張ってんのに、オレが黙ってんのは流石に違えだろ。
王様を前に失礼だとか、異世界の奴らには異世界なりの常識や考えがあるとか、葛藤ならバケツをひっくり返したみたいに次々思いつくが、そんなのを気にしてる場合じゃねえ。
……気にしてやれるほど、お人好しでもねえ!
「妹を返してくれ、エドガー! 」
「……君が本物の『転生者』で、この地を蝕む悪逆非道の魔王を討ち滅ぼすほどの力を持っているのであれば、それも検討していただろう。 しかしながら、どうやらそうではないようだ」
「……オレは、女神の加護ってのを貰ってねえ。 それが『転生者』の証拠になるってのも分かってる。 そいつが魔王? ジャギゼロ? って奴を倒すのに必要なもんだってのも、アーシアから聞いて分かったよ。 ……実際、オレには理紗の代わりになれるような力はない。 それでもオレは、妹を取り戻したい。 一緒に元の世界に帰りたいんだ」
「ヴィクトーリアに舞い降りた希望の存在を我々から取り上げ、元の世界に戻りたい。 が、支払える対価も、魔王を征伐できる代案もない? それを我々が無償で受諾するとでも?」
「っ……!」
そりゃあ、そうだよな。
相手は学校の先生みたいに、直談判すりゃテストでバッテン付けた記述問題の解答に加点要素を検討してくれるような、優しく親身な位置の存在じゃない。
一国の王って立場がファンタジーすぎて実感が湧かないが、特に権力もない力もないポッと出のオレの意見が、しかも相手に何のメリットもない交渉が、王様相手に通るワケがねえ。
「『転生者』であるのに女神の加護を持たず、泥に汚れた布に身を包み、玉座を前にして要求ばかりを述べる。 もしも君が私の立場ならこう思わんかね、まるで奴隷の装いをした無礼者の様だ、とは。 どうなのだ、アーシア。 この男はお前が用意してきた役者ではないのか? お前は私の提唱した『転生者』の結晶化に反対していた。 その邪魔立てに男を連れてきたのだろう?」
「そんなこと……! 彼は本物の『転生者』です! 理由は分かりませんが、何故か加護を得ていないだけで……! 役者などでは……」
「ふん、お前も嘘が下手になったな。 信じられるとでも? 聞くに耐えんよ、そんな出任せ話は」
アーシアが分かりやすく怯んだ。
周りを囲む近衛騎士は顔色ひとつ変えずにオレ達の問答を聞いている。
誰も違和感とか感じねえのかよ、今の話に!
不審人物のオレを下げる話ってだけなら分かる。でも今のは、明らかに妹を見下すみたいな言い方だった。
あれが健全な兄妹の会話かよ?
「……王様。 どうしてアーシアのことをそんな目で見るんだ? それじゃあまるで、ハナから話を聞く気がねーってカンジじゃねえか。 血の繋がった兄妹なんだろ?」
「奴隷が知ったような口を効くな」
「オレは奴隷じゃねえ!!」
「要求と否定だけは達者だな。 しかし、面白い。 国民や有権者はみな、私の顔色ばかりを見て媚びへつらう者ばかりでな。 君のような持たざる者、諸刃の短刀が如き小物はほとんどが門前払いされ、この謁見の間にすら辿り着けないと言うのに、だ。 君はアーシアを懐に引き入れ、私に大口を叩く。 向こう見ずの愚者か、それとも……」
エドガーが顎で合図を出すと、側近の騎士が腰の剣を引き抜いた。
反射的に身構えたオレに対して、騎士はニヤついた表情を浮かべたまま、意外にもその剣をこちらの足元へ優しく転がすように投げてきた。
「……何の真似だ?」
「ヴィクトーリアに伝わる古よりの習わし、決闘だよ。 君が『転生者』なら、勇者と成りうる資質を備えているはず。 過去の『転生者』とは一味違うという証左を、剣で語ってみせよ」
「決闘って……、どうしてそうなんだよ……!」
「『夢幻』を回収したいのだろう? ヴィクトーリアの血統は剣の才に長けていてな、この私を下すことが出来れば、それはヴィクトーリアを超えたことを意味する。 もし私に切り傷ひとつでも付けることが出来たのなら、『夢幻』の結晶化は諦めてやろう。 そしてアーシア、お前の話が虚言でないのなら、この男は奇跡を起こし、その資質を見せ、決闘に勝ちうるだろう。 もしもその様なことになったのなら、二人を認めてやる。 信じてやる。 お前が前に提唱していた、時をかけて『転生者』を育成、訓練するプログラムを検討してやってもいい」
アーシアの奴、そんな計画を……。
エドガーの『転生者』を使い潰す思想に反対するだけじゃなく、同じ人間として扱って活かす方法を考えてたなんて……!
「ただし、この男が決闘で敗北すれば、国策の施行時に必要となる証明書からお前の調印枠を省く。 良いな?」
「そんな、勝手な……!」
「決闘とは古来より、勝負を決し、優劣を決め、そして意を通す、歴史と伝統ある正面よりの交渉法のひとつだ。 お前もヴィクトーリアの血統なら、それを理解しているだろう?」
調印が省かれるってことはつまり、アーシアの承認なくして国の政策ってのを強引に進められるようになるってことか?
そんなことになったら……、これまではアーシアがいたから何とか抑えられていたエドガーの凶行が加速しちまう。
ストッパーの外れたエドガーの、本格的な独裁が始まっちまうってことじゃねえか……!
交渉材料を持たないオレは、やるしかない。
決闘ってのを受けるしかない……!
アーシアだけじゃない、ヴィクトーリアのためにも負けるワケにはいかねえ。
エドガーを破って、理紗と共に現実に帰る。
現実を、取り戻すんだ……!
コメント
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いやあ、アーシアが兄に立ち向かう勇気にぐっときましたね……。自分を劣化版だって言ってた彼女が、キラと理紗を守るために震える手を抑えて抗弁する姿、本当に尊い。エドガー王の「転生者は欠陥品」という偏見も、理紗を鳥カゴに閉じ込める非情さも、しっかりとした世界観の裏付けがあって納得。キラが加護なしでどう立ち回るのか、続きが気になって仕方ないです!