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やがてタクシーは一際豪勢な造りの家の前に停まった。家と言うよりは「御屋敷」という言い方がぴったりな三階建ての建物だった。
正源が車から降りようとすると、運転手は後部座席のドアを自動で開けようとはせず、運転席から素早く外へ出て、車体を回り込んで自分でドアを開けた。
正源が車から降り立つと、運転手は目の前にある家の門を右手を掌を上にして伸ばして指し示しながら、うやうやしい口調で言った。
「お待たせいたしました。こちらでございます」
どうやらタクシー運転手の間でも広く知られている名家というところなのだろう。
正源は緊張を必死で隠して、玄関のインターフォンのボタンを押した。頭の上で「ジーーー」という機械音がした。防犯カメラのレンズがズームしているようだ。
インターフォンから女の声が聞こえた。
「はい、どちら様でしょう?」
「藤本正源と申します。ご供養に参りました」
「お待ちしておりました。どうぞ」
まるでヨーロッパの貴族の館にあるような、金属製の背の高い門扉が自動で左右にスライドして開いた。門から家の玄関までは優に五十メートルはあった。
自分の寺が二つは入るな、この敷地に、と正源はため息をついた。敷地の一角にはこれまた高級そうな乗用車が二台も並んでいて、正源は自分の安っぽい電気自動車でやって来なかった事を、心底よかったと感じた。
まだ正源が玄関のドアにたどり着いてもいないうちに、表面に彫刻を施したドアが内側から開き、半袖のワンピースの上にエプロン姿の中年の女性が出てきて、正源を招き入れた。
草履を脱いで玄関からすぐ近くの応接間に通され、テーブルの上では、冷たい飲み物が入った金の縁取りがあるグラスが、既に表面に汗をかいていた。
使用人らしいその女性は、「すぐに旦那様がおいでになります」と告げて、部屋を去った。
壮麗な壁紙や、値打ちの見当がつかない、応接間の壁の絵画などを正源がぼんやり眺めていると。ドアがノックされ、恰幅のいい、いかにも育ちの良さそうな中年紳士が入って来た。
彼は黒い礼服に身を包み、黒いネクタイこそしていなかったが、葬儀に臨んでもおかしくない上等なスーツに見えた。深々とお辞儀をして正源に言う。
「これは暑い中、遠くまでご足労いただきまして、恐れ入ります」
正源も一旦ソファから立ち上がって礼を返した。
「いえ、こちらこそ、ご依頼いただき恐縮です」
男は自分の服装を見下ろしながら正源に訊いた。
「いや、ロボットの供養など初めてなもので。こんな格好でよろしいでしょうか?」
「はい、問題ありません。人間の葬儀ならともかく、そういう事は気持ちの問題ですから」
「それは良かった。では、あちらの子ども部屋で準備は出来ております。どうぞ、こちらへ」
コメント
1件
ああ、読んだ読んだ!「ロボットの供養」って、なんかもうこの時点でめっちゃ気になる設定だよな。正源さんが緊張してるのが伝わってきて、こっちまでドキドキしたわ。あのタクシーの運転手が自らドアを開けて指し示す感じとか、高級車並んでる描写とかで「あ、格が違う家なんだな」って一発で分かるのがうまい。そして「こんな格好でよろしいでしょうか?」って供養を前にした紳士の台詞が、人間の儀式とロボットのあいだの線引きを考えさせてくれて、いいなと思った。今後の展開、これまでと変わってくる予感がしてワクワクしてる🔥