テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
K side
深夜0時。
金曜の深夜に仕事が入るのは緊張する。
時々めんどくさい酔っ払いが絡んでくるからだ。
先週はお説教系の奴が来たな…
その時は、一緒に入ってた◯◯さんが上手く誘導して帰らせたけど、今夜は1人で番なのだ。そうゆうのに上手く対処できないから心細い。
変な人が来ませんように…。
そう願いながらオーナーに頼まれた書類整理をしている。この時間帯はお客さんが少ないので事務仕事をやらなければいけない。
K「えっと…どこだっけ…」
自分の背丈より高い棚から目当てのファイルを探す。雑に色々積んであってなかなか見つからない。
K「もぉーちゃんと整理してよ、あ!あった!」
バサバサバサッ…ゴツッ!!!
探してた物を引き抜こうとした瞬間、分厚い書類も大量に落としてしまった。
K「!!!うぅ…ったぁ……」
頭と顔に命中してしまった。
ジンジンと痛む。
床には書類が散らばっている、最悪だ…片付ける手間も増えてしまった。
K「うわっ…」
鏡を覗き込むと頬が擦れて赤くなっている。額もたんこぶができているようだ。
その時、
ピロピロン♪ピロピロン♪
このタイミングで入店の合図。
K「うわ、まじか…」
店内の防犯カメラを映し出しているモニターを見るとフラフラしたサラリーマンがゾンビのように徘徊している。
このまま帰ってくれますように…!
店頭に出ずにやり過ごす方法を選ぶが…、
『うぉぉぉい!誰かいないのかぁ?!』
ドリンクコーナーから出した缶チューハイを手に叫んでいる。
最悪だ…
さっさとお会計して帰ってもらおう。
K「お待たせしましたー」
そそくさとカウンターに立つ。
そのサラリーマンは真っ赤な顔でフラフラしながら俺の顔を舐め回すように見る。
『へぇぇぇ、前髪長ぇなぁぁぁ…!そぉんな身なりで通用すると思ってんのかぁぁぁ?!』
出た。説教系の酔っ払い。
濃いアルコールの臭いが鼻を突く。
『俺ぇの時代はなぁ!』
何も言わずこのまま大人しくしてればいつか帰ってくれるだろう。
適当に相槌を打ってやり過ごす。
そうして5分(体感30分)経った頃だろうか、
『ぉまえー!!!聞いてんのか?!?!』
いきなりぶち切れられ、腕を強く掴まれる。
K「っ…痛いです…やめてください…」
怖い。
『やめてじゃぁねぇよ!!反省してんのかぁ?!』
K「っ…!」
掴んだ腕を強く揺さぶられる。
痛い、怖い。
誰か……
「ん?誰が何を反省するんですか?」
『ぃっ!!いててててててててぇっ…!!!!』
耳にしたことのある声の方に顔を向けると、
ルイさんが酔っ払いの背後に立ち、俺を掴んでいた手をもぎ取って見事に関節技を決めている。
目が据わって表情が無い。
…すごい怒ってる。
R「おい、聞いてんだけど。反省するのは誰かって…」
『いぃっ…!やめ、やめろぉぉ…っ』
酔っ払いの顔が苦痛に顔をしかめる。
K「ルイさ…もう、大丈夫なんで…」
R「カノンさん優しすぎ、俺の気が済まない。大事な人がこんな事されて」
大事な人…?一瞬フリーズしたが酔っ払いの悲痛な声で現実に引き戻される。
『ご、ごめん!ごめんなさい!ゔぅ腕が折れる!』
R「はぁ?折るつもりですけど」
K「ルイさん…!」
ルイさんの手をほどこうとするがビクとも動かない。 すごい力…ほんとに折れちゃう。
俺のせいでルイさんを加害者にしたくない。
K「…ッほんとに…ッもう…だいじょおぶですから…ッ…」
涙が頬を伝う。さっきの擦り傷に触れてヒリヒリと痛む。
R「っ…!
おい、あんたこの店に二度と来んな」
どすの聞いた声でそう言うと相手を突き倒す勢いで手を離す。
酔っ払いは謝りながらバタバタと逃げて行った。
R「カノンさん、ごめん、やり過ぎた」
首を横に振る。
ルイさんが来てなかったらどうなってたか。
K「…いえっ…ありがとうございました…」
一難去った安堵で足の力が抜け、しゃがみ込んでしまう。
R「カノンさん?!」
そしてふと思う、何で深夜のコンビニにルイさんが?
顔を上げてルイさんを見る。本物だ。
飲み会に参加していたから頬がピンクで、スーツが少し気崩れてて…なんか色っぽい。
R「…大丈夫…?」
K「ぁ!!…すみません、安心しちゃって」
力なく笑う。
R「…待って。カノンさん。顔から血が出てる」
またあのトーンの低い声。怒ってる。
K「あぁ!これはさっき書類整理でやっちゃったやつで、あのおじさんじゃないですよ…!」
R「…そうですか、事務所に救急箱ありますか。手当てしましょう?」
R side
カノンさんの涙で我に返ったものの、まだ怒りが収まらない。自分で作った傷だと聞いてもアイツのせいにしか思えなくなる。
でも今は、自分の感情は置いといてカノンさんのケアが優先だ。
確かに事務所の床には書類が散らかっていた。
踏まないようにつま先で歩きながらカノンさんのあとについて行く。
R「ふふ、随分やらかしましたねー」
K「そうなんですよーっオーナーには常々片付けるように言ってたのに…」
全く…と溜め息をつく。
K「あ、あったあった。救急箱も埋もれてました…笑」
R「俺やりますよ」
K「っえ…!大丈夫です、鏡、あるんでっ」
カノンさんの頬が少し赤くなる。
その綺麗な顔に触れたい。
R「俺、手当て得意なんです。やらせて下さい」
K「ぇー…………じゃぁ…お願いします…」
カノンさんに触りたいが為に嘘をついてしまった。誰かの手当てなんて、今までした事があっただろうか。
救急箱を渡す手が少し震えているように見える。
強引だったかな。でも嬉しい、ドキドキする。
R「痛かったら言ってください」
消毒液を含ませた脱脂綿を傷のある頬に充てがう。反対の頬は自分の手で包み込んでいる。
うわぁ…カノンさんの肌柔らかくてスベスベ…。
カノンさんはというと、目が合わないように少し俯いてまつ毛を震わせている。まるで仔犬みたいだ。
K「…ッた…」
R「ごめんなさいっ痛い、ですよね」
K「…大丈夫ですっ我慢します…ッッ…」
カノンさんが痛みに耐える姿に少し興奮してしまう。
キス、したい…。
突如として衝動に駆られる。
頬を包んでいる手を動かし、上を向くように促すと上目遣いのカノンさんと目が合う。
紅潮した頬、潤んだ目、戸惑ったような顔。
そこへ口角の上がった可愛い唇が目に入ってしまって、
K「…ル、ルイさん…?」
もう我慢できない。
そう思って顔を近付けようとしたら、
ピロピロン♪ピロピロン♪
K「ぁっ、お客さんきた…!」
カノンさんがそそくさと立ち上がり行ってしまう。
ガラガラッ…ピシャ
ドアが閉まると共に、
(…うわぁぁぁぁ!)
恥ずかしやら邪魔が入って悔しいやらで
心の中で絶叫する。
ミシッ…
椅子の背もたれに体重を預けて天を仰ぐ。
情けない…。
カノンさんの手当てを優先すべきだったのに、
自分の欲に負けてしまった。
しばらく自責の念に駆られていると、
コンコンッ ガラッ
K「…ルイさん、お客さんじゃなくてオーナーでした」
どことなく明るい表情を浮かべているカノンさんが入ってきた。
オ「こんばんは。なんか湯本くんがお世話になったみたいですみませんね」
初老の男性が入ってくる。
R「いえ、たまたま立ち寄ったものですから」
オ「君さ、毎朝来てくれる子でしょ。格好良いからさぁ、店で話題になってて 」
R「あ、イケメンってよく言われます笑」
オーナーさんはカカカと大きな声で笑う。気さくな人だ。
オ「そうそう、いつも買ってくカルボナーラ、売り切れないように発注数増やしたんだよね、湯本くんが」
K「っ!それは…っ」
カノンさんの顔が一気に赤くなった。耳まで赤い。
オーナーさんは言っちゃいけなかった?と戸惑っている。
R「嬉しい、そうだったんですね。ありがとうございます」
途中から売り切れずに買えてたのは、カノンさんのおかげだったのか。意外と俺の事見ててくれてた?
飛び跳ねて喜びたい気分だったが、平静を装って礼を言う。
オ「それじゃあー、僕がこのあと湯本くんと一緒に入るから、川島くんはもう帰って大丈夫!」
仕切り直すようにオーナーさんが声を張る。
とても離れがたいが、カノンさんに手を出そうとする俺よりはオーナーさんと居たほうが遥かに良いだろう。
R「ありがとうございます。じゃあ、また来週、来ますね」
オ「ご贔屓ありがとね」
K「…ありがとうございました…」
R「あ、カノンさん、オーナーさんにちゃんと手当てしてもらって?」
カノンさんは黙ったままコクコクと頷いている。
心残りがあるような不燃焼な感じだったが、オーナーさんの笑顔に見送られて店を出る。
夜風が冷たい。 春はもう少し先だな…。
立ち止まって夜空を見上げていると遠くから声がする。
目を向けるとカノンさんが走ってこっちに向かってくる。
K「…ルイさんっ…ハァ…あの…」
肩で息をしながらカノンさんが俺の目の前で止まった。
R「どうしました?!」
K「ハァ…さっきはほんとにありがとうございました…えっと…」
呼吸を整えてから再び話し始める。
K「俺…今日は何にもいい事が無い最悪な日だって思ってたんです。
怪我するし、絡まれるし…笑」
フフッと自虐的に笑う。
K「でも、ルイさんにまた会えて、守ってもらって…良い日でした。酔っ払い親父にお礼が言いたいくらいです笑」
こんなスラスラ話す人だっけ。意外に思いながらも、カノンさんの気持ちが知られて嬉しい。
R「いや、俺は一発ぶちかましたかったけどね笑」
その言葉に笑うカノンさんに心が和む。
良かった、飲み終わりに立ち寄って。
いつもだったら酔いつぶれて記憶無くしたまま帰宅するんたけど、カノンさんのくれた謎の健康ドリンクのおかげで珍しく頭が冴えてたんだよね。
何より、カノンさんに会いたかったし。
そりゃ行くよね。
K「じゃあ…店に戻らなくちゃなんで、また…」
R「うん、また来週ね」
もっと一緒に居たかったな。
K「本当にありがとうございました、帰り、気を付けて」
R「うん」
カノンさんは最後に深々とお辞儀をすると、
店の方へ走って引き返していった。
やっぱり大好きだなぁと思いながらカノンさんの姿が見えなくなるまで見送った。