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レイブは足掛け三年の間言われ続けてきた『魔力に邪念を込めるな』と言う自らの師匠お馴染みの説教を聞かされて、今更ながらに反省一入(ひとしお)である。
既に赤い糊(のり)も取れて白銀の光を映す自分だけのナイフ、ゼムガレの刀身を見つめながら後悔の言葉を口にしたのである。
「そっか、自分の邪念を補完してくれる筈(はず)の糊、タンバーキラーを塗布していない状態で、歪(いびつ)な気持ちを込めた魔力を送り込んだナイフが、大好きなヴノからこんなに汚らしい靄(もや)を発生させてしまっていたんだね…… そうだ、この黒々とした靄は僕の醜さを映しているんだね…… くっ、恥ずかしいよ、僕は何て醜い存在だったんだ! 無垢な心のままでなければ魔術師の仕事は出来ない、そうだと言うのにぃ…… そうだっ! ジグエラ曰く、後悔はそのままでは何の意味も無いんだったな! 反省し過ちを改める、確か人間が成長する為には不可欠な言葉、そう言っていた筈だぁ~! ならばっ! 込めよう、今すぐにぃっ! ゼムガレよ、無垢に徹した我が魔力をその身に受けて答えよっ! 最早何も望まないぞっ! 無垢の魔力っ、フルチャージっ!」
ザクッ! ズバァッ! ブッシュ~ゥッ!
『ピッ! ピギィーッー!』
レイブが無垢の魔力を込めた瞬間、周囲に鳴り響くのは巨大な豚猪(とんちょ)、獣奴(じゅうど)界で伝説に成り掛けていたヴノの酷く弱々しい悲鳴であった。
「えっ、えええっ? 何これぇっ!」
レイブの叫びも当然である。
彼が手にして魔力を込めたゼムガレのナイフは、その白銀の刀身を数倍、いいや十数倍に伸ばして、丁度真上に位置していたヴノの下顎、のみならず、その上に位置していた上顎をも綺麗に刺し貫いていたのだった。
途端に勢い良く溢れ始める黒い靄は、視界を奪って尚、余り有るほど黒々とした濃密な物だったのである。
強靭な防御力を誇る獣奴だからこそ、その身を貫く刃の傷みは又、格別な物だったのであろう。
狂ったようにピギピギブヒブヒ叫び捲るヴノの下顎を持ち上げ続けながら口にしたバストロの言葉は次の通りである。
「おいおいおいっ! 黒い靄が噴出するのに合わせてヴノの体がドンドン軽くなって行っているじゃないかぁ! このままじゃ消えちゃう、消失しちゃうんじゃないかぁー! レイブぅ、何か考えは有るか? 何か有るなら早く言え、あああ、ヴノがぁっー! 早く早くぅっ!」
「えっ? ええっ! か、考え? な、無いよ! お師匠っ! 何にも無いよぉぅっ! ウワアーンッ!」
泣き出してしまったレイブ。
どうしようもない現実に向き合った時、こんな感じで責任やプレッシャーから逃げ出す……
それも又、子供の権利、そう言う事なのかも知れないな。