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この場にいる大人代表っぽくバストロが大声で告げる。
「下顎の裂傷は周りの肉ごと俺が抉(えぐ)り取る! 上顎はセスカ、お前が切り取ってくれぃ! チビどもはダッシュで避難、ヴノの下敷きになるぞっ! 回復はザンザスに任せたっ! いいなっ!」
「アタシは上ね、判ったわバストロ」
『ザンザス了解! いつでも良いぞヒヒヒーン!』
二つの声が響き渡る中、レイブ、ギレスラ、ペトラのちびっ子たちは慌ててヴノの下顎の下から避難をするのであった。
レイブの手から離れたゼムガレのナイフは、元の小さなサイズに戻り、ヴノの顎から抜け落ちて、力なくカランという渇いた音を響かせて地に落ちる。
その姿を視界の端で確認したバストロは、支えていた大きな顎から手を離し、次の瞬間、虎爪(こそう)を構えて黒々とした靄(もや)が噴出している場所に目掛けて走り出していた。
一陣の風の如く黒い靄の噴出地点に肉薄したバストロが振るった右掌(てのひら)はヴノの肉を大きく抉り取る。
タイミングを合わせた様にフランチェスカは自らの愛剣、それ専用のモクスラ・ベを抜きはらって宙に身を翻したのである。
低く倒れこみつつも未だ遥か上方に位置しているヴノの上顎を大きく上回る跳躍は、凡百のそれとは一線を画し、膂力(りょりょく)の力強さに特化したバストロとは又、一味違った身体能力の高さが感じられる、所謂(いわゆる)アジリティー値が高い、敏捷(びんしょう)特化と言うヤツであろうか。
まるで、身に付けた金属製の重装備が無いかの様に、空を舞ったフランチェスカは一閃の煌きと共に、顎の下のバストロ同様、上顎の傷周辺の肉を、綺麗に切除して見せたのである。
ボトリッ!
バストロとフランチェスカがヴノから取った肉塊からは勢いそのままに黒い靄が溢れ出し、間を置かずに消え去っていく。
二人に抉り取られたヴノの上下の穴からは靄に代わって鮮やかな血液が烈しく噴出していった。
ヴノの上顎に一旦足を着けたフランチェスカは、再び軽やかに回避の為のキリモミを始めながら自分の獣奴(じゅうど)、巨大なシャイヤーのザンザスに向けて、相変わらず感情が込められていない声音で告げる。
「今よ、ザンザス! 全回復(フルヒール)でお願い」
『お? ふ、フルヒールか? お嬢? 『高回復(ハイヒール)』しか準備していなかったんだが…… ヒヒン、ちょ、ちょっと待ってくれよぉ~ ……ん、良しぃ! 『全回復(フルヒール)』、ヒヒヒーンっ! ど、どうだぁっ? おいっヴノよ、爺さま、お前ちゃんと生きてるんだろうな? なあっ?』
『ピィー、ピィー、ブヒィー、ブヒヒヒィ~、ムニャムニャァ~』 スヤスヤァ~
『ヒヒン、気楽なもんだぜ、こいつもう寝てやがる、けっ!』
憎々しげな口調とは裏腹に、安堵の表情を浮かべてホッと息を吐くザンザス、根は良いヤツだったらしい。