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こうして二葉がほかの仲間も集め、私たちは五人でバンドをすることになった。
私、海宮星歌はボーカル。藤宮二葉はギターを担当し、たまにウクレレも弾く。烏宮桜はベース、天宮真希はキーボード。そして火乃宮奏がドラムスティックを握る。音楽スタイルも性格も異なる五人が集まったこのバンドは、まるで奇跡のような結束を見せている。
私たちは驚くことに、同じ学校、同じ学年で、さらには同じ病院に入院していた。これを聞いたとき、私は「世界ってなんて狭いのだろう」と不思議な感覚を覚えたものだ。
私たちが通っていたのは凪街にある私立紅女子高等学校。いわゆるお嬢様学校だ。今は卒業間近の身で、目の前には受験という現実が立ちはだかっている。しかし、これが高校生活最後の思い出作りになるのなら、それも悪くない。そんなことを考えながら教室でいつも通りの一日を過ごしていると——。
「おはよう、星歌。」
「おはよう、奏、真希。」
私と同じクラスメイトである火乃宮奏と天宮真希が近づいてきた。彼女たちとは、バンドを組むまではほとんど話すこともなかった。それが今では、少しずつだが確かに絆を深めている。
天宮真希。彼女は「天狗病」という不思議な病を抱えている。夜になると天狗のような羽が背中から生え、天狗が持つとされる能力の八割ほどを使えるという。そして、驚異的な長寿もその特徴のひとつだ。明るくお世話好きな性格から、クラスでは「お母さん」的存在。周囲を笑顔で包み込む彼女がいると、どんな場でも自然と場が和む。
火乃宮奏。彼女は「クリスタルの声病」という珍しい病に苦しんでいる。彼女が声を発すると、喉や口から美しいクリスタルが零れ落ちるのだ。そのせいで普段は無口で感情をあまり表に出さず、マフラーで常に口元を隠している。しかし、そんな彼女の笑顔は周囲の心を掴んで離さない。クラスメイトの間でも「見ているだけで癒やされる」と評判だ。
「はー……今日もかわいいわ、私の奏。」
奏がそこにいるだけで、自然と空気が和らぐ。低身長で、どこか儚げな彼女の雰囲気が守ってあげたくなる気持ちを引き出すのだ。
「あんたたちは出会った時からそうだね。」
「むしろ今まで我慢していた私をほめてほしいよ。」
奏はいつもと違う私に焦っていたがこれが普段の私だ。少々オタクさがでているのは気にしないでほしい。
「なぁ、星歌。今日もいつもの場所でいいのかい?」
「あぁ、うん。今日も先生にお願いして、あの部屋を借りているよ。」
「りょーかい!じゃあ、後でね。」
二人が笑顔を見せながら自分の席に戻るのを見送る。この「いつもの場所」が私たちの絆を深める空間になりつつあった。
私たちが練習に使うのは、学校の第四音楽室。この学校にはなぜか音楽室が四つもあり、その中で私たちはほぼ専用と化している第四音楽室を愛用している。お昼休みも放課後もここに集まり、練習に励む。お昼ご飯を持ち寄り、食べ終わったらすぐに楽器を手に取る生活が日課だ。先生に練習をしたいと相談したところ、快く鍵を貸してくれたのも私たちの活動を支えてくれている。
授業が終わると、お弁当を手に第四音楽室へ向かう。扉を開けると、すでに二葉と桜が練習を始めていた。
「あ、やっと来たね星歌ちゃん、真希ちゃん、それに奏ちゃん!」
「……ん。」
二葉は満面の笑顔で私たちを迎えた。一方で桜は無表情のまま、風船ガムを膨らませながら黙々とベースを奏でていた。
烏宮桜。彼女は「狂獣病」という、名前からして恐ろしげな病を持っている。この病気の影響で、彼女が怒りの感情に飲み込まれると、まるで獣のように激しく暴れまわり、さらに血液が凝固して防具となる特異な能力を発揮するのだ。この病は、なんでも人体実験の結果として生まれたものらしい。私たちが入院している病院のコウタ先生も同じ病にかかっていると聞き、何とも言えない気持ちになった。
そんな桜だが、運動能力は群を抜いており、体育の成績は常にトップ。どんなスポーツも器用にこなしてしまう。だが一方で、どこか孤高を貫く一匹狼で、群れることをあまり好まない性格だ。彼女がバンド活動に参加したのも、二葉にしつこく誘われた末のことで、しぶしぶという感じが否めなかった。それでも、彼女がベースを持てば、一音一音が圧倒的な存在感を持つ。彼女の腕前がどれだけ高いか、楽器そのものが語っているようだった。
「二葉と桜はもうお昼食べたの?」
「これからだよ!ね、桜ちゃん。」
「……あたしはいらない。」
こんなふうに桜は、ついぞまともに食事を取ろうとしないのだ。それが彼女の体力と精神にどんな影響を及ぼすか、全員が分かっているため、ついつい口を挟まずにはいられない。
「こら桜!お昼はちゃんと食べないと、また栄養不足で倒れちゃうよ。それでヒロト先生に怒られても知らないからね!」
「……あんたって私のお母さんみたいだよね、ほんと。」
真希が説得を試みるも、桜はいつものように素っ気なく返す。しかしそのとき、奏がすっと一歩前に出て、一つのパンを彼女の前に差し出した。無言だが、その眼差しには確かな意志が宿っている。
「ほら、奏もこう言ってるんだから、ちゃんと食べておきなさい。」
「だからいらないって言ってるでしょ……」
奏はひと言も発しないまま、じっと桜を見つめる。その沈黙が妙に説得力を持ち、やがて桜は軽くため息をついた。
「わかった、わかった。食べるからその目やめて。」
そうしてしぶしぶパンを口に運ぶ桜を見て、私たちはほっと胸を撫で下ろした。この瞬間にも、奏が持つ不思議な影響力を感じる。
食事の時間は、単にお腹を満たすだけの時間ではなかった。コウタ先生の指導の下、看護師さんたちが一生懸命作ってくれたお弁当を囲みながら、私たちは次に挑戦する曲について意見を出し合う。
「この部分のリズム、こう変えた方が良いと思うの。」
真希が楽譜を指しながら冷静に指摘を挟む。
「うんうん、さっきの感じ、良かった!でも、もう少しアレンジを加えた方が良いかも。」
二葉が笑顔で意見を述べる。
桜はパンを加えたまま、黙々とベースを弾いて音を確かめる。その姿は一見ぶっきらぼうだが、ベースラインの作り込みにはどこか楽しげな一面も感じ取れる。奏はそんなみんなの意見を淡々と聞きながら、足で一定のリズムを刻むことで自分の考えを伝えていた。
こうして、音楽について真剣に話し合っているときの私たちは、それぞれが持つ熱意を感じさせる。練習に集中している四人の姿を眺めながら、私はお弁当を口に運ぶ。その光景を見ていると、このバンドには特別な何かがあると感じずにはいられない。
食事を終えた私たちは早速音を合わせる練習に入った。限られた一時間という時間が惜しいほど、私たちの音はどんどん一つになっていく。音楽室に響き渡るその旋律は、まるで私たち自身を紡ぎ合わせてくれているかのようだった。