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ラミー
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ライアーミル
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人は、当たり前になったものほど、その大切さに気付けない。
それは物も、人も、きっと同じなんだと思う。
あの頃、それぞれの仕事が少しずつ増え始めていた。
グループで集まる日もあれば、それぞれ別の現場へ向かう日もある。
全員が揃わないことだって、珍しくなくなっていた。
その日もそうだった。
俺は朝から一人で撮影。
仁人も別の現場に出ていた。
ただ、それだけ。
別に珍しいことじゃない。
なのに。
休憩に入ってスマホを手に取った時、無意識に仁人とのトーク画面を開いていた。
「……何してんだ、俺。」
送ることなんて何もない。
仕事中だろうし。
用事だってない。
それでも画面を眺めたまま、しばらく指が止まっていた。
『今日何時まで?』
そこまで打って。
消した。
何で聞くんだ。
別に、終わる時間を知ったところで何かあるわけじゃない。
スマホを伏せる。
少しして。
また手に取った。
今度はトーク画面を開く前にやめた。
自分でも意味が分からなくて、少し笑った。
その日の仕事を終えて、楽屋へ戻った。
ドアを開ける。
何人かのメンバーが先に戻っていた。
「お疲れ。」
「お疲れー。」
いつもの声が返ってくる。
荷物を置きながら、楽屋の中を見渡した。
そして。
「……仁人は?」
気付けば、そう聞いていた。
「まだ仕事じゃない?」
返ってきた答えに、
「そっか。」
それだけ返した。
別に何でもない。
みんないる。
いつも通り喋って。
くだらないことで笑って。
楽しい。
それなのに。
なんとなく。
足りない。
何が、と聞かれたら困る。
ただ。
時々、ドアの方を見てしまう。
まだかな。
そんなことを考えている自分に気付いて。
また少し可笑しくなった。
仁人一人いないだけなのに。
何なんだ、俺。
しばらくして。
楽屋のドアが開いた。
「お疲れ。」
聞き慣れた声。
反射的に顔を上げる。
仁人が立っていた。
「お疲れ。」
それだけ返す。
たった、それだけだった。
なのに。
ふっと肩の力が抜けた。
ああ。
よかった。
そんなことを思った。
仁人は何も知らず、いつものように荷物を置いている。
その姿を眺めながら、俺は少しだけ考えた。
朝から、何度もスマホを見た。
用事もないのに、連絡しようとした。
楽屋に戻ったら、真っ先に仁人を探した。
いなければ、なんとなく物足りなくて。
来たら、安心した。
会いたかったんだろうか。
そう考えて。
少しだけ、胸がざわついた。
仁人がいると安心する。
笑っていると嬉しい。
疲れていれば気になる。
無理をしていたら止めたくなる。
気付けば目で追っている。
いないと、会いたくなる。
今まで一つ一つに理由をつけていた。
リーダーだから。
頑張りすぎるから。
長く一緒にいるから。
大事な仲間だから。
家族みたいな存在だから。
どれも嘘じゃない。
全部、本当だ。
でも。
それだけじゃなかった。
「……あ。」
小さく声が出た。
不思議なくらい。
突然だった。
でも。
何かが始まったわけじゃない。
ただ。
ずっとそこにあったものに、ようやく気付いただけだった。
俺。
仁人のことが好きなんだ。
そう思った瞬間。
今まで分からなかったことが、一つずつ繋がっていく。
何で目で追っていたのか。
何で気になっていたのか。
何でいないと物足りなかったのか。
何で会えただけで安心したのか。
全部。
同じところに繋がっていた。
「何。」
不意に声を掛けられた。
顔を上げる。
仁人がこっちを見ていた。
「さっきから何見てんの。」
「……いや。」
「何。」
いつもの少しぶっきらぼうな言い方。
何年も聞いてきた声。
何度も見てきた顔。
なのに。
今は少しだけ違って見えた。
「なんでもない。」
そう言うと、仁人は怪訝そうな顔をした。
「変なの。」
それだけ言って、また視線を逸らす。
俺はその横顔を見ながら、小さく笑った。
いつからだったんだろう。
分からない。
最初に好きになった日なんて、やっぱり思い出せない。
気付いた時には、もう隣にいた。
何度も名前を呼んで。
何度も笑って。
何でもない毎日を一緒に過ごして。
その一つ一つが、少しずつ積み重なっていた。
好き。
大事。
特別。
ずっと分かっていたはずなのに。
その気持ちに、つける名前だけを知らなかった。
ああ。
これが、恋なんだ。
ようやく。
名前のなかった“特別”に、名前がついた。
コメント
1件
第3話、読み終わりました。主人公が仁人さんに対して無意識にスマホを開いては消す動作や、楽屋で「仁人は?」と聞く場面、すごくリアルで胸がぎゅっとなりました。いないだけで物足りなくて、帰ってきたら安心する。その積み重ねが「好き」という名前を得る瞬間の静かな感動が、丁寧な心理描写でじんわり伝わってきました。ずっと隣にいたからこその気付き、とても素敵です。