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「けほっけほっ」
砂煙が薄れていく。
消える間際に魔女が放った降り注ぐ光の魔法。
最初の時のような、広範囲というわけではなく、絞った範囲にのみ降り注いだ形なのだろう。アルテアの展開した結界には一撃も魔法が飛んでくることはなかった。
薄れていく砂埃の先。見える範囲においても、開幕の一撃に比べると随分と人的被害は少ないように見えた。
ヴェスパが周りの安全を確認しながら、味方の部隊中を見て回る。
「……」
先ほどの魔法は、国の騎士団長やら、貴族の部隊長など……どうやらこちらの指揮系統を狙った魔法だったのだろう。
この場をまとめられそうな部隊はほぼ壊滅していた。
「ちっ……」
ヴェスパは小さく舌打ちをし、生き残っている部隊の少しでも偉そうな人を探し始め、比較的被害の小さな騎士団の隊長のそばへと駆け寄った。
「……大丈夫か?」
「……」
「おい!もう戦争なんてやってる場合じゃない!むこうと話をしにいくぞ!」
「……」
目立った傷もなく、真新しい防具を身に纏った隊長。一点を見つめたまま視線を動かさず、ヴェスパの言葉にも反応を示さなかった。
「ちっ……私が行ってきてもいいか?」
反応が無い。
「おい!!」
一面に響き渡る声でようやくヴェスパの存在に気づいた隊長は、小さく首を動かした。
「あ、あぁ……すまないがお願いできるか……?」
その言葉を聞き、ゆっくりと立ち上がるヴェスパ。身につけた武具をその場に下ろすと、地面に散乱している剣先の折れた槍の先に白い布を取り付ける。
武具を外させた何人かの騎士を引き連れ、うっすら砂煙の残る敵陣へと歩いていった。
⸻
空中で固定され、身動きが取れないフィニス。手に握る剣に力を入れるが、プルプルと震えることしかできない。
そんなフィニスをよそに、目の前の魔女の指先がそっとフィニスの頬に触れ……そして……
ガバっ!
「……!」
フィニスは目を覚まし、勢い良く上体を起こす。
「よぉ、気が付いたか」
同じように座っているルシオが腰をさすりながら口を開いた。
「……白髪の魔女は!!?」
周りを見て一瞬で状況を理解したフィニス。自分が意識を失っていたことをすぐに理解し、剣を片手にゆっくりと立ち上がろうとする。
「今さっき目覚めたばっかりだろ。やめておけ」
そう言って制止するルシオ。つい先ほどアルテアに聞いたことを、改めて自分でも確認するようにフィニスに話し始めた。
「俺らが吹き飛ばされた後、ニティアがすごい魔法で魔女を攻撃するも通用せず。しかもその後、再び魔女が平原全体へ攻撃を仕掛け……それと同時に姿を消したらしい」
「……」
「まぁ分かっていると思うが、戦争なんて状況でもないからな。臨時だが、とりあえず今は停戦協定を結び、お互い怪我人の治療や……遺品の整理をしている」
「……ニティアは?」
ルシオがフィニスの足元を指差す。
フィニスが視線を落とすと、すぐ隣には横たわっているニティア。
「魔力が切れただけだから安心しろ。お前が吹き飛ばされたことにブチギレて、今まで見たことないような魔法を使ったらしいよ。それこそ、一撃で全魔力を使い切るくらいにな」
再びその場で腰を下ろしたフィニスは、剣を地面に置き、ニティアの頭を優しく撫でる。
「……心配かけて……悪かったな」
誰に聞かせるわけでもなかった。ただ、自然と口から漏れ出たフィニスの本音。それを聞いたルシオがふっと笑う。
「んで……なんでいきなりあんなことをした?」
「私もその話に参加させろ」
ヴェスパがそう言いながら歩いて来た。後ろからはアルテアも付いてきた。
「とりあえず停戦で、お互いこのまま国に戻ることになった。これからどうするのかはお偉いさん達が決めることになるだろうな」
「何せ……白い魔女が出現……お互いの軍が多大な被害を受けてしまいましたからね……」
「とりあえず怪我人は馬車に乗って帰ることになる。お前らも馬車に乗れ。……そしてフィニス。何があったのか話せ」
手をニティアの頭から離し、ぎゅっと力を握るフィニス。
「わかった……」
剣を鞘に収めた後、横たわるニティアを抱き抱えたフィニスはゆっくりと立ち上がり、奥に準備された馬車の方へと歩いていった。
⸻
カタカタ……
兵達が乗るたくさんの馬車。その中の一台に、車輪の動きに身体を揺らしながら、フィニス達の乗る馬車も王都へ向かい移動をしていた。
「俺は子供の頃、マハノ村っていう山奥の小さな村に住んでたんだ……」
フィニスは、膝の上で眠っているニティアの頭をなでながらゆっくりと口を開き、ルシオ、アルテア、ヴェスパの3人は視線を動かさずに耳だけを傾けた。
「何にもない、退屈な村でさ。子供の俺なんか特に、何をするわけでもなく、ただただのほほーんと過ごしていたんだ。そんなある日……」
ニティアの頭を撫でる手が止まった。
「家の中にいたら、突然外から”魔族だ!”って言う声が聞こえてさ……父さんと母さんに、隠れていろって押し入れの中に入れられた瞬間……何が爆発するような音。村の人たちの叫び声が聞こえて、ついには俺の家も魔法か何かで爆発。その衝撃で一瞬意識を失っちまったんだ」
話を聞いていたアルテア。目を伏せ、握っていた手に力が入る。
「どれくらい意識を失っていたのかは分からない。けど、目を瞑っていても分かるくらいの強い光と、何かの声に気付いて、ぼんやりする頭で目を開けると……燃え盛る村の真ん中に……」
言葉が止まるフィニス。
「白髪の魔女……」
ポツリと呟くヴェスパに、フィニスが頷いた。
「目の前にあいつがいたんだ。その後すぐに、身体を突き刺すような冷たい風が吹き荒れて、意識を失っちまってさ。次に気がついた時には、先生……ジャヌスさんの家の中だったんだ」
「……なるほどな」
「その話を先生にしたんだけど、その時には白い魔女がいるなんて信じてもらえなくて。先生も、黒い魔女しか知らないって言ってたからさ」
「……」
「白い炎で消える魔物を見るまでは気にしてなかったんだけどな」
困ったように笑って見せるフィニス。
「なるほどね……そんな仇がいきなり目の前に現れたら……そりゃあぁもなるか……」
「……悪かったな」
「……」
馬車の外に視線を移すヴェスパ。すでにあたりは薄暗くなってきていた。
「他の馬車にいる奴と交代で見張りをするように話をしてくる。お前らはもう寝ておけ」
そう言い、ゆっくりと立ち上がったヴェスパは、後ろを走る馬車に手で合図を送り、その馬車へと飛び移って行った。
アルテアも静かに立ち上がると、フィニスの隣で前屈みになり、フィニスの額に手を当てた。
「私も、回復が必要な方のところで治療をしてきます。ゆっくり休んでいてくださいね」
そう言い、フィニスに回復魔法をかけるアルテア。フィニスの顔についていた小さな傷が癒やされていった。顔の傷が治ったことを確認すると、アルテアは小さく笑い、馬車内の他の怪我人のところへ歩いていった。
「……まぁ、とりあえず休める時に休もうぜ」
優しく笑いながら、目を閉じるルシオ。
「そうだな……」
フィニスもそう答え、目を閉じる。
フィニスの膝の上で1度目を開けるニティア。自分の無力感に、軽く握っていた手に力が入る。
“今一度落ち着いてみてください。ニティア……あなたには、どんな困難だって乗り越えられる力がありますから”
脳裏によぎった言葉。その言葉をもう一度自分の心の中で復唱したニティアは、ゆっくりと小さな深呼吸をしたあと、再び目を閉じ、眠りについていった。
コメント
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みぅ🤍🥀です。読んだよ。 フィニスの過去……やっぱりそうだったんだね。幼い頃に村ごと焼かれて、たった一人で生き延びたんだ。目の前で両親が消えたのに、ずっと「白い魔女の存在」を信じてもらえなくて、一人で抱えてきたんだろうなって思ったら胸がぎゅっとなった。 今、仇が目の前に現れて、あの時と同じ光景がよぎったんじゃないかな。フィニスの「悪かったな」って言葉に、全部詰まってる気がしたよ。 ニティアが無意識に自分を責めてるのも分かって、もどかしいけど……彼女もちゃんと自分の力を信じようとしてるところに、希望を感じた。 アルテアの優しい魔法が、心にも届いてるといいな🥀