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Stella

8 - 1人っきりの盗賊

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40

2023年01月06日

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『依頼は?』

どうせないと返される。分かりきっていることだ。元王様がなんのようなのか、それはハナハナ理解出来なかった。

『無い』

ほら見た事か、依頼もないのにここに堕ち、きっと食料だって手に入りにくいだろう。そんな中もし俺に助けを求めたら?

鳥肌が立つだろう。吐き気がする。考えたことですら馬鹿だった。

『でも……』

でもなどと言い訳をするかのように言葉が返ってきた。その次の言葉を耳にし嫌な感覚を覚える。

『この世がつまらないなら変えてみせればいい』

『……は?』

誰もがそんな反応をするだろう。第1が金もあらず周りからは警戒されるような盗賊。そんな俺に何が変えられるのか。

地べたを見て何かに貼り付けられたかのようにそこにとどまっていた。こんなクソッタレな世界今すぐ壊したくてたまらなかった。

咲く花たちは自らを誇るようにし上を向き、笑っているようだった。それですら羨ましかった。

自分だけが誰にも見えない鎖に繋がってるような気分で周りが羨ましくて、恵まれた身の奴らが憎かった。

『俺はお前みたいな恵まれた環境で育っちゃいねぇ、金なんてない』

『金がなくなたってそなた自身は変われる』

『周りを変えたいなら自分を変えろ』

真っ直線に俺はいる。彼の真剣な瞳には俺以外映ってはいない。

その視線がどれだけ真面目に言ってるかを物語る。俺のためなのだろう、余計なお世話だ。

でもそれで本当に世界が変わったら?なんて思いも心を過ぎる。

『なぁ、賭けてみないか?変われたら余の勝ち、変われなかったらそなたの勝ち』

『はぁ?そんなバカげたもの!』

『それでいいんだな……余はただ』

その言葉を遮るように言葉を放とうとした。だがこの王の顔をもう一度見た。

後悔するぞと言わんばかりのその瞳は、今では誰よりも何よりも黒く濁って感じた。

『……お前は後悔したことがあるか?』

『余の国が滅びたと知ってそれを言っているのなら相当嫌味なやつだな』

『……俺もしたことあるんだよ……大切な人がいなくなっちまってな』

後悔に胸が焼かれ滲む。熱い、苦しい。

あの時なぜ俺が犠牲にならなかった?あの時俺が代わりになれば助かった。

自分を責める言葉だけが見つかり己の首を絞めているような気分だった。

『何があったんだ』

『お前にいう義理はねぇよ』

『だとしたら余も出すぎたな、すまない』

『……でもそなたは余の幼い頃のガラス玉のような目をしている』

『は……?この俺が?』

『ああ、孤独を感じているかのようにな』

『違うッ!俺は!』

反論をする。でもまたあの瞳を見せるその男に呆れた。見ず知らずのこんな盗賊に何故かまうのか。

『じゃあ泣かないはずだ』

『は……?』

小説かなにかにありそうな言葉。現実は小説より奇なりという言葉はこういう時に使うのだろうか。

泣いている。そう指摘されただけで自分が泣いていると実感してきて、頬が熱くなりポタポタと雫が落ちてくることに気づいた。

『俺は……ほんっ、ど、は……こんな、にのうのうと、なんて、生きてちゃっいけ、ないんだ』

『それは何故だ?』

『にいさんは、俺のせいでっ、俺の、せいで』

ここまで本当の思いを吐き出すことなんてなかった。どれだけ溜め込んだか、なぜこんなやつの前で吐けるか謎だけが残るも今はそんなこと考える余裕もなかった。

静かな夜中の盗賊の住処、悪どい盗賊が心に溜め込んだその濁った感情はいつしか爆発した。

あの時ああしていればなんて遅すぎる話で今この時を生きるしかない。

『俺だって変わりたい、兄さんのために』

子供のようになきじゃくる。その苦しさは俺以外知らない。

『何があったか……聞いても良いか?』

その優しさに甘えるかのように首を縦に振る。心の奥底に求めていたその優しさに。

いつもどこか思っていた。いつかの救世主(メサイア)が俺を救ってくれる。どこかで待っていた。

嘘を塗りたくって己をなくし盗賊として生きてきた。悲しみを隠すように心を閉ざし、ひねくれ者となり嫌われ者となった。

どこか寂しかった。兄さんがくれた暖かみと同じものが欲しかった。

その欲を隠した。そんなのでは盗賊をやっていけないと、何も変わらないなら求めるだけ無駄なんだと。

それを救ってくれたのは本当の救世主だった──────

こんな簡単に心を開いてしまうのならきっと誰でもよかったんだろう。ただまた温もりに触れていたかった。

それが元王様なんて少し馬鹿げている気もする。それでも何かに縋っていたかったのだろう。

頬を流れる冷たい雨はだんだんと止んでいく。

『俺には兄がいたんだ』

掠れ気味の声で淡々と話す。スラスラとは言えないが少し詰まりながらでも全てを話してゆく。

そして人生のジグソーパズルはどんどんピースがハマって行く。

何の因果かきっとこいつと共に歩く。きっともう仲間なんだ。

人の心の嵐が止んだ時、新たな仲間ができた盗賊はいつかの心の思い出を悲しみながらも喜びながらも頭に過ぎらせた。

そして今日もどこかで星が流れた。

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