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9

復讐に行くべく

2023年01月13日

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俺には兄さんがいた。誰よりも大切で大好きなそんな兄さんが。

何をするにも『兄さん!兄さん!』と声を上げては頼り、逆に『幻太郎』と頼られる時はとても嬉しかった。

兄として尊敬していた。俺が未来に外道な盗賊になるなんて思いもしなかった、兄を見らなって生きて行きたかった。

尊敬している兄があんな奴らに連れて行かれるなんて最も思っていなかった。

『兄さん…また探ってるの?』

『嗚呼、あいつらが憎いからな』

『でも、危ないよ』

『それでも、奴らは平和を壊そうとするやつだ』

真剣な眼差しでそう言われた。本当のことなのだろう。いつだって俺は兄さんを信用していた。

それでも兄さんが母さんたちがいなくなった時、俺が寂しがっている時にしてくれた話は全部デタラメでおかしくて好きだった。

文もかけて優しくて、そんな完璧な兄さんにくっついていた。

でも今回の件は危ないからと離されている。本当は兄さんだって危険だ。それでも俺を庇うかのように離そうとする兄さんが大好きで大切だった。

『寂しい思い、させてごめんな』

『ううん、いいんだよ、でも平和を壊すような奴らは罰が下るよ』

『ああ、そのために兄さんはこの文章を書いているんだ』

『分かってるよ、俺は邪魔しないようにする』

邪魔をしないように迷惑をかけないように、そう思っていた。

兄さんはそれだけ真剣にやってくれているんだ。じゃあこっちもできることをしなければ…とそんな思い出いっぱいだった。

家族のためと思うのは誰だってそうだろう。何よりも誰よりも兄さんに支えられて今を生きていられるんだから俺が兄さんに懐くのは当たり前だった。

何よりも大切な存在を無くしてしまう時はどれだけ怖いか。

大切に箱にしまいたくなるのに、それなできない。そしてなくなってしまったら?なんて考えると怖くて仕方ないだろう。

それと全く同じことだった。

『ちょっと外の空気を吸ってくるね…』

そう言いドアノブに手を伸ばす。

ガチャと音がなりギギギギギと

開いてゆく。ゆっくりと。

『と言っても息苦しいだけなのにな』

外に空気を吸いに行くと言えば心を落ち着かせるような効果があると思われるだろうが、俺は違った。

両親に家に置いていかれ言わばは捨てられたのだ。それを知った周りはどうするかと思えば。

『大丈夫?』などの同情は愚か慰めの言葉などなく逆にいじめに合うようになった。

兄さんには言わなかった。これ以上の迷惑はかけられないからだ。

俺が我慢した方が兄さんは心配するのでは無いのかと思ったのも束の間兄さんは忙しいのが丸わかりだった。

ただ兄を思うまま我慢していた。

責められて蹴られて、叩かれて。そんな酷いことがあっても転んでしまった、や遊びすぎたと言って誤魔化してきた。

それでも無理なものは無理な時がある。だからこそそれを支えるのが俺だった。

誰よりも何よりも兄を思っている。完璧な兄さんが、かっこいい兄さんが、優しい兄さんが、色々な兄さんが大切で大好きだった。

あのどん底に突き落とされる前までは──────

数週間後

毎日のように兄を尊敬しては虐められる毎日を送っていた。

『…ぐっ』

『兄さん?!』

兄さんが急に体調を崩すようになった。原因は平和を壊す、とある星の国だった。

その国を探り、原稿に起こして真相を明らかにするという計画だった。

まとめさえすれば、もう少し書けば終わる。そんな原稿だった。

『兄さんはな、バレちまったんだよ…しくじって』

そうやって一言一言説明される。寝込んだままの兄は酷く細くなっていくばかりで俺は笑顔をずっと見たかった。

『原稿のことがバレて…今度は何されたかって「弟に手を出されたくなければこの毒の実験台になってもらう」って』

『毒…?』

ありえない言葉と自分が考え事をしていたせいかぼーっとしてしまっていたことで俺は急に驚き慌てる。

『争いごとに使う…?』

『そう、どこか遠い遠い隅っこの星の科学者が作った猛毒……だけどモルモットだからね、少しだけ………ね』

『…苦しんで死んでしまうの?』

『かもしれな……うっ』

実際その兄の顔を優れない、そして毎度の如く発作を起こす。

それを目の前にして何も出来ないことが嫌だった。

そんなヨレヨレの状態でも尚原稿に筆をつける。アイツらのやっていることは許されない。そう訴えかけるかのように文章に、それを書く真剣な顔。

いつ見ても楽しそうだった兄とは違った。

『ねぇ、兄さん…俺な』

思い浮かんだ言葉をそのまま口にする。少しづつだけど物語になり、ごちゃごちゃの物語ができた。

デタラメで矛盾してて、だけどどこか面白くおかしな話だった。

『くっ、ふふふ…デタラメだらけじゃないか』

久しぶりに見た兄さんの笑顔は何よりも輝いて見えた。

俺の救世主(メサイア)だった。

何度だって嘘をついてデタラメだらけな話をして兄に聞かせてきた。兄がまた笑ってくれると思って。

少しづつ原稿も完成して行ったみたいだった。うれしかった。もし兄さんがいなくなってしまったら仇を取れる。

そして兄さんがやりたかったことを最後までできたんだ。

その素晴らしさに涙が溢れた。感動した。

『なぁ、幻太郎…兄さんがいなくなっても大丈夫だろう?』

『は……?そんな、縁起の悪いことはよしてくれよ!!』

兄さんは自分で分かったのだろう。これ以上は限界だと。

それを示すべく腕にはもう力が入らなかったみたいで筆すらもてていなかった。

限界が近づくまで諦めず原稿を書き進めていた兄さんにだって感動した。涙を止めることは出来ず、ただひたすらに泣いた。

仇をとってやる。兄さんのために…!!

なんて思っていたがそんなの意味はなかった。実際は生きるだけで精一杯で盗賊にまでなってしまう。そんな未来だった。

こぼれる涙はいつか自分の力を奮い起こす原動力となる。なんて本当にあるのか?なんて考えていた。だってそんなこと一度もなかったから。

兄のために流し続けた涙はいつしか止み。心を閉ざすようになった。

誰の前でもたとえ自分一人でも涙を見せることは無い。誓ったわけでもなかった。だが気づけば泣けないほど心は麻痺していった。

大切な人を無くせばこんなふうにまでなってしまう。

平和なんて嘘をつき絶望をもたらすあの星を許すことは出来なかった。

あの星と軽々しく言うが実は自分でもどの星かわかってはいない。この前来たその星のヤツらは食料の確認に来た。

船はまだ壊れていない時期だった。

兄は言った。「アイツらが争いを起こす奴らだ」とね、星の国の紋章は見えず。王妃がいることだけは分かったのである。

紋章が見えなくてここまで苦労したのはなかなかにない事だった。

本当は今でも探したい、そうやって今ここにいる元王様に打ち明かしている。

どこまで経ってもやっても無駄だった。本当のことだ、諦めてしまって感情も出すようで出さなかった。

この気持ちを分かってくれる人なんて少ない。そう思っていた、信頼できる人なんていなかったから。

だから誰でもよかったんだろう。自分がそれを救世主(メサイア)だと思える人がいれば。

『…そう、だったのか』

『ああ、俺は正直復讐したい』

『余の船…燃料さえあれば動く』

『いいのか…?』

『一緒に旅に出よう』

『でも、その星がどこかなんて』

優しく言ってくれても場所が分からなければ、手がかりがなければ何も意味が無い。

『そなたの兄の原稿にあるのでは無いのか?』

『!!』

その手があった、と言う気持ちと今まで俺はなんで気づけなかったのだろうと恥ずかしい思いでいっぱいになった。

パラパラパラパラ

1枚1枚確認を行う。つられた文字に問う、どこに復讐に行けばいい?

つられた文字は答える。

剣の星

その瞬間動揺が2人に走った。

『余の星…国は…?』

『お前の国だ』

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