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◆ ヒカル―完全復活の物語 ◆
南條陸の死。
そして自らも
死の淵をさまよった自殺未遂。
それは日向ヒカルという一人の女性を、ほとんど壊れかけた姿へと追い詰めた。
静寂の病室
白い天井。
点滴の滴る音。
深く息を吸うと胸が痛む。
ヒカルは目覚めた。
その視界に、泣き腫らしたロジンと白石凌がいた。
「ヒカル…よかった
本当によかった。」
ロジンは、震える手でヒカルの手を包んだ。
白石は声を押し殺しながら言った。
「俺たちは、お前が戻ってくるのを信じてた」
ヒカルは、少しだけ口角を上げたが、目は虚ろだった。
「ごめんね。こんな形で迷惑かけて」
ロジンは、首を振る。
「あなたが生きていてくれればそれでいいのよ。」
しかし、ヒカルの胸には重石が残ったままだった。
守れなかった命
救えなかった班長―南條陸警部補
あの日の銃声が、今も耳の奥で鳴り続けていた。
リハビリと復帰
数ヶ月間のカウンセリングとリハビリ。
ヒカルはゆっくりと職場に戻る決意を固めた。
復帰初日の朝。
制服の重みが、かつてとは違って感じられる。
庁舎の前で、SAT隊員たちが待っていた。
「班長、お帰りなさい!」
「戻ってきてくれて、本当に良かったっす!!」
その言葉に
ヒカルは胸が熱くなった。
少しだけ、前へ進めた気がした。
新たなる凶悪事件
復帰から一週間後の夜。
緊急召集のアラームが庁内に響き渡る。
「都心で武装集団による立てこもり発生。人質多数。」
隊室が緊張で張りつめた。
ヒカルは震える手で装備を確認した。
胸の奥で、あの日の悪夢がざわめく。
「班長、大丈夫ですか?」
副班長の藤堂が、小声で声をかける。
ヒカルは目を閉じ、深く息を吸った。
南條さん。
私は、また前に進みます。
「行こう。全員無事に帰ってくるよ」
その言葉に隊員たちの表情が引き締まる。
神業狙撃
現場は都内の巨大ショッピングモール。
犯人は自動小銃を持ち、監視カメラを破壊しながら移動していた。
人質は複数。
中には幼い子供もいる。
ヒカルは狙撃ポイントを選び、長距離射撃のために体勢を整えた。
「班長、距離1200。ガラス越し。姿はブレています」
「やれますか…?」
藤堂の問いに、ヒカルは微笑んだ。
「…私がやる」
心拍が落ち着いていく。
まるで南條が背中を押してくれているようだった。
耳に響くのは、自分の呼吸だけ。
銃口の先に、犯人の影が見えた。
撃つ
乾いた銃声が夜空に消える。
弾丸は曲線を描き、割れたガラスを抜け――
犯人の銃を持つ右腕を正確に撃ち抜いた。
「命中! 武器を落としたぞ!!」
怒号が上がり、突入班が突入。
人質は全員無事に救出された。
現場指揮官が無線越しに叫んだ。
「班長の日向、神業だ……!!」
ヒカルは銃を下ろし、空を見上げた。
「南條さん…見てましたか」
涙が頬を伝ったが、その目はもう曇っていなかった。
完全復活
事件が解決して数時間後…
ヒカルを気にかけたロジンと白石が
ヒカルの自宅を尋ねてきた。
「ヒカル!!」
ロジンが泣きながら抱きしめると、ヒカルは照れながら笑った。
「私、戻ってこられたよ。南條さんにも、胸を張って言える」
白石は肩を叩きながら言った。
「ヒカル。お前は強くなったよ」
ヒカルは家族に囲まれながら、小さく呟いた。
「これからも前に進む。南條さんが命をかけて守った未来を、私が守っていく」
夜空に星が瞬く。
その光は、ヒカルの心に再び灯った希望のように優しく輝いていた。
ヒカルが完全復活した瞬間だ。
日向ヒカル — 1800mの奇跡
東京都心の朝はざわついていた。
大型複合施設を占拠した国際テロ組織〈ブラックフレイム〉。
百名以上の人質。
周囲のビルには狙撃できる位置が無く、犯人グループは重武装、爆薬、徹底した防御網を張っていた。
SAT本部から全隊招集がかかり、ヒカルは即座に現場に向かった。
日向(ひゅうが)ヒカル、32歳。SAT狙撃班・班長。
彼女は数々の事件を解決してきたが
“1800m先からの狙撃”という任務は前例がない。
しかも、今回の敵リーダーは軍事訓練を受けた狙撃手。
動きも、立ち回りも常軌を逸していた。
※有名なスナイパー
クリス・カイルの狙撃記録 として1920mがある。
作戦本部にて — 1800mという絶望的な距離
指揮官
「警視庁のスナイパー達でも射程限界だ。
1800mは、もはや軍のスナイパー(狙撃手)でも難しい距離…。
しかし、リーダーさえ倒せれば、人質解放の突破口になる。」
副班長
「班長。やれますかね?」
ヒカル
「誰かがやらなきゃ、人が死ぬ。
―なら、私が撃つ。」
言葉は静かだったが、瞳には揺るぎない光があった。
しかし、南條陸を失った事件の傷はまだ完全には癒えていない。
◆特殊地点の確保
建物から1800m離れた場所に、わずか数分だけ射線が通るポイントがある。
そこは古いビルの屋上。
風の乱れが強く、弾道が大きく流れる危険地帯だった。
ヒカルは狙撃ライフルをセットし、風速計、距離、湿度、気温、ビルの熱放射すべてを計算に入れた。
副班長
「リーダーが窓際に出てくる時間は、“10秒に1度だけ”。
しかも、立ち止まるのはわずか1秒だ。」
ヒカル
「1秒あれば十分。」
副班長は息をのんだ。
普通の狙撃手には不可能な台詞だった。
◆敵リーダー出現
通信が入る。
「敵リーダー、窓際へ移動開始!」
ヒカルは深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
心拍が静まり、視界の揺れが消える。
南條から教わった、“心を殺す”技術だ。
スコープの先に、黒いシルエットが現れた。
距離1800m。
風速7m。
弾道落下量、計算済み。
ヒカル
(ここしかない)
引き金に指をかけ、時間の流れが止まる。
◆狙撃
パンッ―!!
乾いた銃声は屋上にだけ響き、街の騒音にすぐ消えた。
弾丸は風に押され、揺られ、それでも計算された軌道に沿って曲がりながら進む。
一無線が叫んだ。
「命中!!
敵のリーダー、ダウン!!
人質区域に混乱発生、突入班前進!!突入!!」
ヒカル
「やった…。」
喜びよりも、安堵が先に来た。
◆突入、救出、そして沈黙
突入班は瞬時に動き、他のテロリスト達を次々と制圧。
人質は全員無事に解放された。
作戦本部では歓声が上がり、上層部からも異例の早さで報告が飛んだ。
「日向班長の狙撃により、事件は終結。
警察庁は特別功労を検討する」
だがヒカルは、その声を聞いていなかった。
風の冷たさと、南條が残した教え、
人質の泣き声が心に押し寄せてきた。
副班長
「ヒカル班長。貴方は…凄い人だ。」
ヒカル
「隊のみんなが支えてくれたから。
私だけの力じゃない。」
◆ヒカル班長 完全復活
翌週。
SAT本部の射撃訓練場。
後輩
「班長、噂聞きましたよ!1800mの狙撃ってマジすか!?」
ヒカル
「マジよ。でもあれは奇跡みたいなもの…たまたまよ。」
後輩
「うわ、班長らしい…!!」
ヒカルは少しだけ笑い、ライフルを構えた。
照準の先、標的が遠く霞む。
だが迷いも震えもない。
彼女はもう、失った影に飲まれない。
大切な人の想いを背負って、前を向いて歩いていく。
日向ヒカル、完全復活。
新たな伝説が、また始まる。
◆ヒカル、功労賞受賞と昇進
1800m先のテロリーダーを正確に射抜いた前代未聞の狙撃は、国内外でも高く評価された。
その功績により、日向ヒカルは功労賞を受賞し、警部へと昇進。
同時に、SAT狙撃班の“正式な班長”として任命される。
会場での授賞式。
胸に勲章をつけたヒカルは、静かに頭を下げた。
南條班長、見ていてください。私はまた、ここまで来ました。
涙は一粒もこぼさない。
ただ、目の奥に小さな光だけが揺れていた。
◆ SAT狙撃班に、新人女性隊員が配属される
東京都・警視庁本部、SAT分室。
人事発表の日、ヒカルの前に立ったのは、小柄で鋭い目をした若い女性だった。
「三浦 楓(かえで)です! 本日付で
狙撃班に配属となりました!」
声はよく通り、目はまっすぐ。
しかし、その奥に「緊張と覚悟」が見えた。
ヒカルは軽く頷く。
「今日からあなたは私の部下。よろしくね」
「はいっ!日向警部の背中を追ってきました!」
やっぱり来たか、私を“目標”にする子。
ヒカルは微笑んだが、同時に胸の奥でざらりとした感情が動いた。
南條陸の死を思い出すたび、自分の“背中を追われる”ことを怖いと思ってしまう。
(私のせいで、また誰かが死んだら)
だが、その弱さを表情には出さない。
◆ 新人訓練 ヒカルの指導方針
射撃場。
楓は並外れた集中力を見せ、訓練生とは思えぬ集弾率を記録した。
ヒカルは腕を組みながら静かに言った。
「悪くない。だけど“悪くない”だけじゃ現場では死ぬわ」
楓は唇を噛む。
「もっと強くなります。絶対に!」
その姿に、ヒカルは南條陸のかつての背中を重ねてしまう。
—守らなきゃ。もう二度と、失わない。
強く思った。
◆新たな凶悪事件:東京湾岸で多発爆破予告
その数日後、緊急招集がかかる。
『東京湾岸エリアにて連続爆破予告。人質多数。犯行グループは多数、武装している』
SAT全隊が出動。
ヒカル率いる狙撃班は湾岸のコンテナ群と高架道路を見下ろすビル屋上へ配置された。
「各自、持ち場につけ。楓、あなたは私の横」
「はい、警部!」
新人をそばに置いたのは、ヒカルの“守りたい”という無意識の願いだった。
◆ 作戦開始:ヒカルの観測と判断
現場では、黒ずくめの男たちが十数名。
人質をコンテナに押し込み、爆薬を設置している。
楓が囁く。
「日向警部…リーダーらしき男、動きが速いです。私では追えません」
「大丈夫、私が追う。あなたは風向きと揺れだけ説明して」
ヒカルはL96A1 ライフルを構えた。
呼吸を整え、世界の音を消す。
風、湿度、距離。
そして、人質の位置—。
(撃てる…でも、0.1秒でも迷ったら人質が死ぬ)
決断がヒカルの中で固まった。
◆ 狙撃
ヒカルは静かにトリガーに指をかけた。
——パンッ。
一発。
リーダーの手から起爆装置が弾かれ、地面を跳ねる。
敵が動揺した隙に、第二射、第三射。
狙撃班が一斉に支援射撃に移る。
同時に突入班が走り込み、人質は全員救出。
作戦は“死者ゼロ”で完了した。
屋上で楓が感嘆の息を漏らす。
「…すごい…本当に、化け物みたいな集中力……」
ヒカルはライフルを下ろし、静かに笑った。
「化け物じゃない。これは、背負ってきた人間の数よ」
風に吹かれながら、ヒカルは空に向けて心の中で呟く。
南條班長、見ていましたか。
私はまた、一歩前に進めました。
◆ 事件後:新人・楓との新たな関係
帰投後、楓が真っ赤な顔で言った。
「日向警部…私、必ずあなたの右腕になります!」
ヒカルは優しく肩を叩く。
「“右腕”は、勝手に育つものじゃない。私が育てるのよ」
楓の目が潤む。
「はい…!よろしくお願いします、班長!」
ヒカルは静かに微笑んだ。
新たな仲間。
守るべき命。
南條から受け継いだ“狙撃班の魂”。
そして、彼女自身の“第二の人生”。
そのすべてが、またヒカルの足を前へ進めていく。
第一章 非番の誘い
S夕方の柔らかい陽が差し込む
控室で、三浦楓は制服を脱ぎ、小さく伸びをした。
「ふぁ〜、今日も訓練キツかったぁ…。」
そこに、ヒカルが声をかけてきた。
「おつかれさま、楓。…ねぇ、今日この後
大丈夫だよね?」
「えっ、はい!ヒカル班長もですよね?」
「うん。よかったら、焼肉行かない?ずっと誘おうと思ってて」
突然の誘いに、楓の目はキラキラ輝きだした。
「行きますっ!絶対行きます!!」
「ふふ、元気だね。じゃ、19時に上野駅で」
SATの厳しい訓練とは裏腹に、2人の間には、姉と妹のような不思議な安心感が芽生え始めていた。
第二章 焼肉屋での本音
19時。
上野の繁華街にある、知る人ぞ知る個室焼肉店。
網の上で牛タンが焼ける音が、心を緩めてくれる。
「班長、タン塩焼けましたよ!」
「ありがとう。いただきます」
ヒカルは一口食べ、目を丸くした。
「美味しい…!!楓、ここ知ってたの?」
「もちろん!新人の給料でも来られる、コスパ最強店です!」
2人は笑いながら肉をつついた。
やがて、炭火の柔らかい煙の中で、会話は自然と深い方向へ。
「楓は、どうしてここに(SAT)
入ったの?」
ヒカルは瓶ビールを口にしながらさりげなく聞く。
楓は少し頬を赤らめた。
「…実は、テレビで隊長の事件見たんです。
1800mの狙撃、一発で決めたあの事件。
『あ、この人みたいになりたい』って思って。」
ヒカルは箸を止めた。
「私…そんな風に誰かを動かしたこと、初めて聞いた」
「うれしくて、気づいたら泣いてました」
楓は照れ笑いした。
ヒカルの胸に、あたたかい何かが広がる。
第三章 カラオケでの恋バナ
食後、2人はそのままカラオケへ。
ノリのいい曲を入れて飛び跳ねる楓。
それを見ながら手拍子し、少し笑いすぎて涙がにじむヒカル。
「あー楽しい!班長、次歌ってください!」
「え、私?…じゃあ一曲だけ」
ヒカルは少し照れながらマイクを持ち、切ないバラードを歌い始めた。
その声は、強さと儚さが混ざっていて、楓は思わず聞き惚れた。
(この人の心…本当に綺麗だ。純粋な人なんだな)
歌が終わり、楓はつい拍手しながら言ってしまう。
「班長…もし私、男だったら絶対惚れてます。」
「ふぇ!?な、なに突然!!」
ヒカルは
耳まで真っ赤になった。
「だって!かっこよくて、綺麗で、優しくて…強くて、でも壊れそうな時もあって。守りたくなるんです」
ヒカルは照れたように目をそらし、氷入りの水を飲んだ。
「…ありがとう。そんなこと言われたの、初めて」
「班長の恋愛事情、聞いてもいいですか?」
「えっ、そっち行く?」
楓はニヤリと笑う。
「好きなタイプとか、いたことあるとか!」
ヒカルは頭を抱えた。
「…強いて言うなら、正直で、まっすぐな人かな」
「じゃあ、私タイプですね!!」
「なんでよ!?ちがうわ!!」
部屋中に大笑いが響いた。
第四章 帰り道の秘密
終電前。駅に向かう道。
酔いがほんのり残る街灯の下、楓がふとつぶやいた。
「今日、すごく楽しかった。…班長と一緒だと、仕事以外の自分になれる」
その言葉に、ヒカルも静かに返す。
「私も。楓といると、救われるよ」
2人の影が、駅前の光でひとつに重なった。
楓が小さな声で言った。
「また行きましょうね、班長。焼肉でも、カラオケでも、どこでも」
「うん…約束」
この夜、2人だけのささやかな秘密が、生まれた。
それは友情でもあり、家族愛でもあり、
そして―まだ名前のつかない温かい感情でもあった。
穏やかな非番の日々の先で**
SATの女性狙撃班長・日向ヒカルは、連日の訓練と任務に追われながらも、新人隊員の三浦楓と過ごす時間が増えていた。
楓は20代前半。
身体能力は抜群だが、まだ若く、勢いが勝ちすぎる。
しかし、その素直さと努力家なところがヒカルには可愛く映る。
最近は非番に焼肉へ行き、カラオケで盛り上がり、恋バナまでするようになった。
「班長って…恋とか、したことあるんですか?」
「あるよ。人並みにね」
薄暗いカラオケルーム、炭酸の泡が弾ける音。
楓が少し頬を赤らめ、ヒカルの顔をじっと見つめた。
「なんか意外です。」
「私だって人間よ。悩むし、落ち込むし、恋だってするわ」
ヒカルが笑うと、楓は安心したように微笑んだ。
この日は、2人の距離が確かに縮まった。
しかし―その近さが、次の事件で大きく揺らぐことになる。
新たな武装事件発生
翌週。
平日の午後、都内の商業ビルで複数犯による武装立てこもりが発生した。
犯人は自動小銃を所持し、ビルの一角に爆発物を仕掛けていると通報があった。
人質は20人以上。
現場はすでに緊張と焦燥の空気に包まれていた。
ヒカルは狙撃班長として現場指揮を任される。
楓も突入班の一員として配置された。
「楓、あなたはあくまで第3突入チーム。独断行動は禁止よ。絶対に」
「はい」
楓は返事をするが、どこか息が荒く、焦っているように見えた。
初めての大規模武装事件の緊張か、あるいは他の理由か。
ヒカルは少し不安を覚えた。
誤算
事件は複雑化していた。
犯人の一人がバリケードの陰から突然発砲し、最前列にいた隊員が被弾。
「援護して!!前進!!」
血がアスファルトに広がる。
ヒカルの胸が冷たくなる。
(まずい…動線が読めてない。犯人の位置が完全に把握できていない)
その時だった。
「班長…行きます!」
楓が突然、配置を離れて前方へ走り出した。
「楓!戻れ!!それは命令違反よ!!」
ヒカルの怒声が響く。しかし楓は止まらない。
楓は負傷した先輩隊員を庇おうと飛び込んだ―
その一瞬。
―バンッッ!!
耳をつんざく銃声。
次の瞬間、楓のすぐ横を走っていた別のSAT隊員・高瀬が撃たれて倒れた。
「高瀬!!」
楓は顔面蒼白になり、震えながら高瀬に手を伸ばした。
「うそ…私、助けたくて…そんな、そんなつもりじゃ…」
ヒカルは無線を放り出す勢いで駆け寄る。
「楓!何してるの!!命令違反よ! あなたの行動で仲間が撃たれたのよ!!」
楓の頬に涙がすっと流れた。
「わ、私、助けたかっただけで…」
「助けるなら命令に従うの!独断は、味方を殺す!!」
ヒカルの怒声に、楓は崩れ落ちるように地面に座り込んだ。
高瀬は重傷。命が助かるかはまだ分からない。
現場の全員に緊張と後悔が走り抜けた。
事件後の沈黙
事件はその後、ヒカルの狙撃と突入班の連携で制圧された。
だが――
ヒカルは帰還後、楓を呼び出した。
その声は冷たく、いつもの優しさは一切なかった。
「楓。あなたの独断行動は…隊を危険に晒した。
高瀬は今も手術中よ」
楓は涙をこらえながら唇を噛む。
「…すみません。でも、助けたかったんです」
「助けるためには、まず生き残ること。
感情で動けば、仲間を殺すのよ」
楓の肩が震えた。
「班長…嫌いにならないでください」
ヒカルは一瞬だけ目を伏せた。
嫌いにはなれない。
むしろ、心配だからこそ厳しく言っている。
しかし―ここで甘やかすわけにはいかない。
「楓。あなたは能力がある。でも今のままではSATでは生き残れない」
楓は静かに泣き出した。
その姿を見るヒカルの胸も痛んだ。
深まる絆に走る亀裂
ヒカルは楓の肩に手を置く。
「私はあなたを見捨てない。
だから、もっと強くなりなさい。
誰も失わないために」
楓は涙の中で、震える声で言った。
「班長…絶対に強くなります。
だから…そばに置いてください」
ヒカルの心が一瞬だけ揺れる。
彼女の中に寄り添おうとする想いと、班長としての責任がぶつかり合う。
「…分かった。ただし、次はないわ」
2人の距離は、以前より近く、しかし危うくなっていた。
深まる絆が、強さにも弱さにもなる
そんな予感を残して、長い1日が終わった。
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