「……松原さん、先生今夜は、有名なレストランにお食事に連れて行ってくれるって」
鏡から目を離さないままで、自慢気に言う真梨奈に、
「そう…あまり羽目をはずしすぎない方がいいわよ……」
松原女史が、改めて言い聞かせるようにも口にする。
「……妬いてるんですか? もしかして松原さんまで……」
鏡の中で、微かにまた口角を引き上げる彼女に、
「そんなんじゃないわ……」
呆れたようにも女史は口にして、
「くれぐれも、業務には支障が出ないようにしてちょうだいね」
そう淡々と告げた。
「は~い」と、真梨奈が間延びした空返事をして、
「じゃあ、お先に失礼しますねぇ〜」
意気揚々とした様子で、洗面所を出て行った。
その後ろ姿に、松原女史がハァーとため息をつく。
「……あの、松原さん?」
ふと思い立って、呼びかけると、
「ああ……何?」
私の方へ、困惑したような顔が向けられた。
「今日これから、いっしょに飲みに行ってくれませんか?」
「えっ…珍しいわね。永瀬さんが誘うなんて」
驚いた顔つきに変わる女史へ、
「……ちょっと、飲みたい気分なので」
もやもやと胸に広がる苦みを、少しでも拭えたらという思いでそう口にすると、「いいわよ、別に」と、松原女史は頷きを返してくれた。
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