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「青春の始まりは屋上から」
一話目
昼休みの屋上。
風が吹き抜けて、柵の向こうに青空が広がっていた。
「……誰もいないね」
りりむちゃんが、くるりとスカートを揺らして振り返る。いたずらっぽい笑みを浮かべるその顔に、思わずおれは視線を逸らした。
「ここ、立入禁止じゃなかったっけ」
「だからいいんじゃん。コウくんと二人きりになれるし」
わざとらしく肩を寄せてくるりりむちゃんに、おれは心臓が跳ねるのを誤魔化すように咳払いした。
普段から小悪魔っぽいところはあるけど、今日はなんだかいつもより距離が近い気がする。
「コウくんって、ちょっと素直じゃないよね」
「は? 別に普通だろ」
「ほんとかなぁ? りりむは知ってるよ。コウくん、ちょっとドキドキしてるでしょ」
にやりと笑いながら覗き込まれる。目が合ってしまって、おれは慌てて視線を外した。
こんなに近づかれると、頭が真っ白になる。
「……なんでそんなに攻めてくんだよ」
「でもぉこんな事するのコウくんだけ…だよ?」
わざと小さな声で耳元に囁かれて、背中にぞくりとした感覚が走る。
おれは反射的に半歩下がったけど、りりむちゃんは追いかけるように一歩近づいてきた。
「逃げないでよ、コウくん」
「……おれ、別に逃げてないし」
「じゃあ、そのままここにいて?」
屋上の風に髪を揺らしながら、りりむちゃんは悪戯っぽく笑った。
太陽の光が差し込むその笑顔に、おれはなんだか、ドキッとしてしまった。
昼休みのチャイムが鳴るまで、二人だけの時間は、少し照れくさくて、でも心地よく続いていた。
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