「青春の始まりは屋上から 」
二話目
昼休みのチャイムが鳴る直前。
りりむちゃんの笑顔に返事をできずに固まっていたおれは、屋上の扉が開く音に救われたように振り向いた。
「やっぱりここにいたか」
聞き慣れた声とともに、白い髪が風に揺れる。屋上に現れたのは葛葉だった。
その隣には柔らかな笑みを浮かべる叶も一緒だ。
「葛葉、勝手に開けちゃって大丈夫かな……」
「平気だろ、別に誰もいねぇし。……お、コウにりりむ」
あちら側もこちらに気づいたみたいで叶が手を振って挨拶してくる。
葛葉とかなかな!」
おれは慌てて姿勢を整えた。
りりむちゃんはにやっと笑いながら「あーあ。残念」なんて呟いている。
「お前らここで何してんだよ」
葛葉が聞いてくる。いつもの声だけど、目が少し好奇心に揺れていた。
「べ、別に! ちょっと話してただけだし」
「そうそう。コウくんが屋上に来たいって言うから、りりむが付き合ってあげてただけ」
すぐさま返すりりむちゃんの言葉に、余計に怪しまれる気がしておれは思わずむっとした。
「…仲良しかよw」
葛葉は小さく笑う。
その隣で葛葉が「まあまあ、葛葉落ち着いて」と肩を竦めると、当たり前みたいに葛葉の腰に腕を回した。
「ちょっ……叶!」
「いいじゃん今日くらい。僕とくーちゃんはそういう関係なんだし…」
「叶……昼間から堂々としすぎ」
頬を赤らめる葛葉を見て、りりむちゃんが「へぇ~、いいじゃん」と嬉しそうに声を上げる。
「……なんか、こういうのって見せつけられてる感じするんだけど」
おれがぼそっと呟くと、りりむちゃんは悪戯っぽく笑った。
「コウくん、照れてる? ねぇ、にいやんたちに負けてらんないよ?」
また距離を詰めてくるりりむちゃんに、心臓が跳ねる。
葛葉とかなかなの自然な距離感を前にして、おれの胸はますます落ち着かなくなっていった。
屋上には四人の笑い声と、少し甘い空気が漂っていた。