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はぁ…とため息が漏れ、気霜を吐く。その白い息は真冬の雪を彷彿とさせた。周りの人達は僕の視界を釘付けにしてしまうほど、どこか眩しくてどこか切なさのようなものを感じる。
僕が今いる場所はイルミネーションスポット、幸せそうな恋人たちのこれもまた眩しいくらいの笑顔で溢れたそんな場所。
今日こそ伝えるんだユニくんに。「好きだ」って。
あー、なんで誘いに乗ってしまったんだろう。俺からお前を誘いたかったのに…この意気地無し。まぁ、結果的にはこうして会うことにはなったのだが。誘われたのは有名なイルミネーションスポット、まぁ俗に言うデートスポットってやつか?
カップルって思われたらどうしよう…まぁ、そんなことは無いよな!そう自分に言い聞かせた。だが、現実はお前に会いたくて会いたくてしょうがないよ。人混みを掻き分けて大好きな人の姿を見渡して探し続けた。なんてったってここは有名なデートスポット、そういうお洒落をしている人が多くてこっちが困る。アオト…俺が「好きだ」と恥ずかし気もなく言ってきたらお前は笑うか?
あー、好きな人を待ってる時間ってこんなにも楽しいんだなぁとるんるん気分の僕。どんな服かなぁ?どんな髪型かなぁ?第一声はなんだろう?気合を入れてお洒落をした僕。防寒対策ばっちりだし僕の特徴でもある『赤と青の帽子』があるはずだから目立つと外出前は思っていた。だが、クリスマスカラーのセットアップをしている恋人が多いためそこは盲点だった。くそー!僕だけの特権がぁ…と気を取り直して待っていると空から冷たい綿のようなものが降ってきた。見上げるとそう、初雪が降ってきたのだ。
僕は落ちてきた雪の結晶をすっ…と手の上に乗せた。それは儚いほど美しく、一瞬にして溶けて消えていった。その様子が切なくて泣きそうになった。こんなに綺麗なものが一瞬にして無くなってしまうんだと。
何処からかかーんかーんと鐘の音が鳴った。もう待ち合わせ時間になったことを知った。5分前に着いておきたかったため早めに着いていつやいつやと待ってたいたけれど全然来る気配が無い。もう少しのんびり待つかと決めてスマホの時計を一応確認した。
俺が探し疲れている間に近くの場所から鐘の音が鳴った。スマホを確認するともう待ち時間になっていた。まずいまずいと思っていたら運良く空いたスペースにアオトらしき人がスマホを見ながら突っ立っていた。近づくと満面の笑みで俺に挨拶してくる。
「あ、ユニくん!大丈夫だった?遅かったけど」
「まぁアオト探すのに手間取っちゃったっていうか…悪かったな、遅れて。」
「いいよいいよ!ユニくんに何事もなくて良かったぁ♪」
明らかに寒そうなアオトを見て申し訳ない気持ちになった。そんな眩しいほどの笑顔にときめいてしまい、思わず視線を落とした。その時、アオトの持っている謎の紙袋を見つけた。
ユニくんの視線が僕の紙袋に移った。彼は普段、めったに反応を示さないほどシャイで陰キャ。そんな彼が目を丸くして驚いている。その様子が愛おしくて思わずクスッと笑ってしまった。
何笑ってんだよ、と聞かれても何でだろうね?と曖昧な返事しかできない。だって何で好きなの?何でこんなに愛おしいの?って聞かれても簡単に答えられないでしょ。
「そんなに気になるの?」
「え、だめか?もしかしてチョコケーキ!?」
眩しいきらきらとした目線を向けてきた。鈍感すぎな彼に少し溜め息を吐いた。
アオトが俺に何か隠し事している。
「じゃあ、中身見せろよ。」
「嫌だよ!まだ”その時”じゃないもん!!」
その時…?アオトはやはり俺に何か隠し事しているようだ。大好きな人が持っている紙袋、しかも少しお洒落な紙袋、中身気になるに決まってるだろ。
まずい、まずい…バレ始めてる!!ユニくんへのプレゼント、でもまだ渡せられない…渡したくない。だってまだ、僕がキミに想いを伝えられてないから。
俺はアオトのことを放ったらかして、すかさず中身を確認した。その姿を見たアオトはショックを受けているような衝撃的な表情をしていた。目をかっぴらいてまるで俺に怒りの感情を向けているようなそんな様子だ。いや、怒り…?呆れてる?
いや、ユニくん!?いや、分かってたけどぉ……本当に予想通りだった。知ってたよ、どうせこうなってたから。
僕は我慢出来ずに僕から紙袋をぶん取ったユニくんを終始見つめることしか出来なかった。
「…!?ユニくーん?」
「あ、取れた~!ありがとな!アオト♪」
「はぁー!?これはっ…!開けないで!!」
にやにやしながら紙袋に手を突っ込んで、るんるん気分で僕の目の前にプレゼントの袋を取り出した。
ん?これは…俺がプレゼントのリボンを引っ張ってグイッと中身を取り出した。それと同時にアオトが喚きだした。
「なんでー!?『メリークリスマス!アオトサンタさんからのクリスマスプレゼントだよぉ~♪』ってやる予定だったのに!!もぉ!!」
「お前…これ、いいのか?」
中身は暖かそうなマフラーだった。色はシックで暖かな色味だった。
「もぉ…結局思い通りにならないぃ!!」
「”アオトサンタさん”は外でキツすぎるだろ。」
「なんでそんな棘のある言い方するのぉぉ!?」
アオトサンタさん、お前が俺にとってのプレゼントだろ。このプレゼントを渡す為だけに今日誘ってくれたのか。そのことに気づいた俺はお詫びとして首にそのマフラーを巻いた。するとアオトの表情は徐々にぱぁーっと明るくなっていった。
え!?ここで巻いてくれるの!?暖かそうに僕を見つめるユニくん。不器用な口調でありがとな、と感謝された。それだけでとても嬉しくテンションが上がってしまう。僕って単純なのかな。
「暖かい?ユニくんのために頑張ったよぉ」
「…暖かいけど?これ渡すためだけに呼んだのか?」
なんでそんなぶっきら棒にしか考えられないわけ!?
「いやー?そんなわけないけど」
ユニくんのことが好きだから大好きだから会いたかったから。なんて…言えるわけないよ僕には。
「あっそ、アオトのプレゼントのお陰で暖かいわ」
「それはよかったぁ♪巻き方難しかったら僕が巻いてあげるからねー♡」
「はぁ!?いいわ別に、……ばか。」
巻いて欲しいなんて言えるわけないだろ。好きすぎて胸が苦しいよ。アオトのその高ぶった声を信じて、たった2文字の想いを伝えられたらいいのに。俺はマフラーをぎゅっと握りしめて悔しい気持ちで満たされた。
「……好きだよ。」
唐突に聞こえた僕が1番聞きたかった二文字を聞けたような気がする。
「ん?なんか言ったー?」
一応確認のために僕はわざとらしく聞き返した。だが、ユニくんから返事が来ることは無かった。いつものように受け流されてしまった。あー、また空耳だったのかな。静かに落ち込んだ僕はユニくんの手を引っ張って
「実はね?近くに1番大きなイルミネーションスポットがあるんだよね!そこに移動しない?」
と、ユニくんの了承無く連れ出した。
アオトに引っ張られた俺。その手はとても暖かくどこか優しかった。
俺らが着いた場所は大きな黄色と青のハート型で出来たオーナメント前だった。これで察した…だがアオトは綺麗だねーとしか言わない。俺から切り出さないともしかしてその先に行けないのか?
俺は恐る恐るアオトの名前を呼ぶと満面の笑みで
「これ僕らのイメカラだよねー!!奇跡だ♪」
と、写真を撮りだした。
何で分かんないの!?わざわざアオユニのイメカラじゃん!!ってアピールしてるのに…もしかして、これは奥手すぎ?
「ねぇ…ユニくん」
撮り終わった様子のアオトが何故か泣きそうな表情で
「…また、来年も一緒に……行こ?」
と、涙を溜めたような声色で言ってきた。艶やかで何故か切ない気持ちになってくるそんな声が俺の涙腺を誘う。
「おう…行けたらな。」
また不器用に接してしまった。俺はまたお前に自分の想いを隠して背中を向けた。
「……っき」
「え?」
後ろから好きな人の震えた声が聴こえてきた。
「……っきなの…」
振り返ると服をぎゅっと握って言葉を一生懸命紡いでいるアオトがぽろぽろとまるで雪のような涙を流していた。
「ごめっ…んなさい…っ会いたいって言って…ごめんなさい…」
涙を腕や手で拭っているアオトに思わず駆け寄った。
あ、ユニくん…今の僕、きっと酷い顔してるよね。結局僕は勇気が無かった。意気地無しだ本当に……。
寒い外で号泣していると体温が自然と上がって火照ってしまった。それが、大好きなキミが近くにいるからどきどきしているだけなのか、それともこんなに近くに居るのに自分の想いを伝えられないことが情けなくて涙が止まらないせいなのか。
「アオト……」
「ユニくん……」
結局、僕たちはお互いに「好き」という気持ちを伝えられなかった。でも、僕らはお互いを想いあってると信じているから大丈夫だった。
いつか何度でも「好き」と言ってやるから待ってろよ。