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愕然《がくぜん》と気色《きしょく》を変えたベルゲルは、一瞬の忘我《ぼうが》の中で、興奮した様相を晒すと、ゾイルの胸元に掴みかかり、雄弁に捲くし立て持論を説いて見せた。それは、ある可能性を示唆した一言でもあった。


「監視者《龍》は律《大聖樹》から離れる事は無い。そして、導きを唱えられる様な位人臣《くらいじんしん》を極めた龍なんて存在しないのだぞ…… 」


「ベッ…… ベルゲ…… ルさまっ――― 」


成すがままに襟首を持ち上げられ、気息奄々ゾイルが踠《もが》く。


「オヤオヤこのような人目《監視》ある場所で部下を叱責などとは、心中穏やかでは有りませぬな、ベルゲル・リューズ・ワイトゾッド卿」


ベルゲルは、その気味の悪い聞き覚えのある声に、ハッと我に返ると、咄嗟にゾイルの襟首をポンポンと、正す動作に改める。同時に何かを察知した不気味な目玉達が、肉壁からメリメリと一斉に現れ、血を滴《したた》らした眼光を二人に放つ。


「叱責などとは、ご冗談を。傀儡《くぐつ》卿ジュタリタス殿」


動揺を隠す為、故意に言葉に含みを持たせる。皮肉な作り笑いを浮かべ乍ら、気味の悪い顔面腫瘤《コブ》だらけの同志へと踵を返した。言葉を受けたジュタリタスと呼ばれた醜男《ぶおとこ》は、途端に笑みを曇らせると遺憾の意を示す。


肉壁の目玉達は、一斉に獲物を追う様に、今度はジュタリタスにギョロリと視線を送る―――


「傀儡卿ですか…… 一体どなたが言い出したのかは存じ上げませぬが、その不名誉な蔑称《べっしょう》で私《わたくし》をそう呼ぶのは、金輪際、お止め頂きたい」


若干興奮した様子のジュタリタスの腫瘤《コブ》からは、鶸色《ひわいろ》の膿が感情の分だけ溢れ出していた。


目玉達は、またもや捕捉対象をベルゲル達に戻す―――


「お気を害したのであれば、心より謝罪を申し上げます。ですが私は卿《けい》が皆にそう呼ばせていたのだとばかり…… 気に入っておられていたのでは無いのですか? 」


ヤレヤレと両手を広げ、皮肉って見せた行為が、この直後、仇となる。


「そんな事、有る訳なかろうが――― 貴様――― 」


場の空気が一気に凍り付き、同時に目玉達は、眼球震盪を起こす程に見開いた。ジュタリタスの別人格が顔を出すと、先程迄の柔らかい物腰の人物は鳴りを潜め、鬼の形相を晒した男がベルゲルに掴み掛る。


小汚い腕が、ベルゲルの首元まで伸びる僅かばかりの所で、ゾイルが主を庇う様にジュタリタスの前に立ち塞がった。


「侯爵様、此処は人目《監視》ある肉回廊に御座います。此処で問題を起こせば貴族院が見逃す筈は御座いません。どうか、ご乱心召されませぬよう、お気を確かに」


「チッ――― 邪魔をするな」


こうなる事を端《はな》から見越していたベルゲルは、悠揚迫《ゆうようせま》らぬ態度で深い溜息を吐《つ》いた。その直後、ジュタリタスの背後の肉天井がベチャリと肉魂を激しく吐き出すと、床に膝を突いた人型の従者へと姿を変えた。


「そちら様のおっしゃる通りです。ジュタリタス様。此処で問題を起こせば相手の思う壺です。ですが一つだけ訂正させて頂きます。ジュタリタス様は一流の傀儡師です。であるが故に、邪魔をする者達を数多く傀儡堕ちにしてきた事も事実です。ですが、現在は我々魔人達の祖であり、ボルドリア時代下の導きたる祖王の配下、封印されし72の妖魔神《アクマ》の研究をなさっている立派なお方なのですよ? これ以上、我が主を愚弄するのであれば容赦は致しません」


「妖魔神⁉――― 」


「ガルゲか――― 下手な軽口は慎みなさい」


「もっ、申し訳御座いません――― 」


ゾイルよりも僅かばかり小柄な、全身継ぎ接ぎの手術痕を持つ奇怪な仮面の男が主に顔を伏せると、幾らか冷静さを取り戻したジュタリタスが襟を正し言葉を続けた。


「まぁ良いでしょう。私とした事が少し感情的になってしまったようです。行き場の無い穏健《おんけん》派である貴方達が幾ら吠えようが、我々の派閥には何ら影響はありません。貴族院がこれからどのような判断を下すのか、私《わたくし》の知り得る所では有りませんが、排他的で時代錯誤な思考を改め、頭を垂れるのであれば我々は何時でも貴方達を歓迎致しますよ? 」


ベルゲルは、城内に於いて不利な立ち位置である事を念頭に、若干奥歯を噛みしめると、僅かばかりの虚勢を吐いた。


「ご忠告痛み入ります。ですが自分の身の振り方は、自ら考えておりますのでご心配には及びません」


ジュタリタスは求めていた通りの返答を聞くと、肩を小さく上げて呆れた素振りを見せる。


「左様ですか、まぁ後で泣きを見ない事ですな。忠告はしましたよ。では、失礼」


両者が肉回廊でゆっくりとすれ違うと、思いついたようにジュタリタスが歩みを止め、振り向き方《ざま》に苦言を呈した。


「あっ――― それと……。二度と傀儡卿等《など》と呼んで下さるな。努々《ゆめゆめ》、お忘れなきよう。貴方の為ですよ? 」


立ち去るジュタリタスの後ろ姿に、役割を終えた不気味な目玉達は肉壁の中へと消え、途端にベルゲルがボソリと呟いた……


「イヤー、流石に強硬派の筆頭…… 嫌、今や武闘派か……。顔が怖いと迫力も相当なもんだね」


「呑気な事をおっしゃられてる場合ですか? 直接宣戦布告をしたようなモノですよ? 」


「ここで一つ位、問題を起こしてくれた方が後々有利になると思ってね。まぁ誘いには乗って来なかったけど。でも、興味深い事が聞けたね。72の妖魔神《アクマ》の事とかさ」


「妖魔神《アクマ》の事に関しては、我等の祖であると云う事位しか、認知されていませんし、研究の果てに我々の知り得ない情報を掴んでいるのだとしたら、相手が相手ですので、かなり危険ではないかと思われます。警戒はなさっておいた方が宜しいかと…… 」


「そうだね。一体何の為に呼び覚まそうとしているんだろうね。真逆、ボルドリアの祖王にでもなるつもりなのかね? 」


「強《あなが》ち否定は出来かねます」


「少し調べる必要がありそうだね」


ベルゲルは肉壁の僅かな亀裂に片手をズブズブと潜り込ませると、隠れていた目玉を引っ張り出しブチリと肉壁から捥《も》いでみせた。


「此奴には耳が無いからね、妖魔神の事は伝わってはいないだろうから、この事は暫く他言無きように」


「畏まりました。それと、問題と言えばもう一つご報告が御座いまして」


「うん? 」


「人界で行われている人族《ひとぞく》同士の争い事に我々、奈落の者が介入している可能性が御座います」


「それって裏で人族を操ってる奴が居るって事? 」


「はい――― 」


「お前が報告して来るって事は、誰だか見当はついてるんだよね? 」


「はいっ、未だ尻尾は掴めておりませんが十中八九、先程の傀儡卿ではないかと」


「へぇ、それはそれは忙しい訳だね。でも、それが本当なら放ってはおけないね」


「如何なさいましょう」


「なるべく人族には被害が及ばぬ様、無力化出来るかい? 勿論、お前のやり方で構わないよ。だけど、呉々も私達の影は残してはいけないよ? 」


「畏まりました。お任せ下さい」


「それと同時に妖魔神の事についても探ってみてくれるかい? 」


「勿論です。ベルゲル様」








朧の闇に潜みし真実が、再び明るき未来を指し示す道標となるか、将又、新たな混沌を招来せんとするのか。運命の糸は、悠久なる時の流れに乗り、静謐なるその刹那を待ち侘びている。

////決戦のナリカブラ////

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