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工場 近道 保志
耳障りなスライス盤や歯車の回転音が所狭しとなっている広大な工場だった。金属の壁や床には数え切れないほどの赤ランプが明滅し、機械だけの無人の空間だった。
「な……なんだこりゃ? 一体、何なんだ? ここ……?」
中央には安全通路が備わっているが、安全通路以外はどう見ても人が死んでしまう作りだった。
まるで、殺人工場だ。
稼働している機械の電力による熱のためか、室内は寒い洞窟の外とは違い大汗をかくほどに熱かった。
「危ない!」
徹が安全通路へとおれの身体を押し出した。
さっきまで居たところに、真っ赤に焼けた巨大な鋼鉄が轟々とした音を発しながら通り過ぎていく。真っ赤な鋼鉄は洞窟の奥の溶鉱炉へと走っていった。
「ふうー、助かったぜー、徹くん! ……ありがとな」
おれは徹の頭をよく撫でてから、改めてこの殺人工場を見回した。
「なんてところだよ……本当におれたちを殺す気かよ!」
おれは不満や不機嫌さを通り越して呆れた。徹の手を取り安全通路をしぶしぶ進むしかないのかよ! それにしても、俺たちは木工品か布製の人形かよ!
殺す気だな……ほんと……。
床や壁に設置されたスライス盤や歯車の回転が激しくなってきた。
ここに立っていても不安だ。
挟まったら確実に死ぬ。こりゃ、質の悪い冗談だ!
進むしかないのか?
戦車にあった死んだ人たちは皆、ここで……? そう考えたら、ぶるっと身体が震えた。
「おじさん。何か食べ物ない?」
徹がお腹を抑えて唐突に言った。
「徹くん。悪いな……ないんだよ。……おれも腹減ってきたな」
おれももうフラフラだ。
ここに食い物なんて……あるのだろうか?
徹もフラフラとしていた。大汗も額から流れていて、これはヤバそうだな。
けっこうあるな前方に続く安全通路。
この安全通路を進むとどこへ行くんだ?
食い物なんてどこにあるんだ?
う! そんなことを考えている暇なんてなかった!
突然に、至る所にある赤ランプが一斉に点灯し大音量のサイレンが鳴りだした。
「うるせーー! これから何が起きるってんだ!」
おれは耳を塞いで、怒鳴った。
スライス盤や歯車が突然物凄い回転をして、ここ安全通路に徐々に迫ってきた。
「ひっ! このままだと挟まる! 徹くん走ろう!」
「何何! ……うん!」
おれは安全通路を徹の手を握って全速力で走り出した。次第に機械音がこの上なくうるさくなって来た。ここで立ち止まるわけにはいかない。前方にある巨大な溶鉱炉が大口を開け、いくつもの走る鋼鉄が中へと物凄いスピードで入って行く。超高温の熱気を受け、身体中から汗が飛び散る!
「うわーー! 挟まるーーー!!」
「挟まっちゃうーー!」