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大森視点
また、
逃げられた。
どうしてこうもうまくいかないのだろう。
ままならないこの状況を打開したかった。
でも空振りに終わった。
「⋯⋯き、
元貴!」
「え?
何」
「ちょっと大丈夫?」
藤澤が心配そうに表情を暗くした。
そこで話しかけられていたことにようやく気付いた。
やっぱり変だ。
今までこんなことなかったのに、
星崎のことをやたら気にかけるようになり出してから、
らしくないことばかりしてしまう自分に嫌気がさした。
「ごめん⋯疲れてるかもしれない」
「じゃあ外食はやめとく?」
「そうする。
今日はちょっと休みたい」
藤沢からはわかったとだけ返答された。
こういう時何があったとか、
無理に聞き出してこない優しさに、
救われた気がした。
(星崎には救ってくれる人がいないのだろうか?)
もしそうだとしたら、
それはとても悲しいことだと思う。
だが一方でその仮説に合点がいくのも事実だった。
単に俺が頼りないからではなく、
星崎の周りに頼れる相手がいないから、
甘えることも頼ることも出来ないのではないだろうか。
(せめて俺だけは味方でいてあげたい)
俺の個人的なエゴかもしれないが、
心の中で小さく小さく願った。
その帰り道でのことだ。
「全くTASUKUは使えないな!」
どこからともなく星崎の悪評が耳に入った。
後輩の陰口なんて気分のいいものじゃない。
すぐにその場から離れようとした。
「デビュー曲と新曲のCD化に乗り気だったくせに、
高音が出せないから延期しろだなんて、
身勝手すぎるだろ」
「自己管理をサボってたんじゃないですか?」
え?
一瞬で動けなくなった。
今まではサブスク配信しかしていなかった彼が、
CD化のオファーを受けていたこと自体さえ、
俺は何も知らなかった。
それに高音が出ない?
あれだけ仕事の鬼である星崎が、
自己管理を怠るとはとても思えない。
俺がTikTokで感じたあの違和感は、
単なる疲労やオーバーワークだけではなく、
病気か事故などによる、
何かしらの影響を受けていたということか。
助けたい。
もしこのことで星崎が不利な状況に追い込まれ、
非難されて矢面に立たさることによって、
音楽をやめてしまう前に、
星崎を守る盾になりたい。
俺が求めるのは、
音楽を心から愛して、
星崎自身が音楽から愛される世界を生きて欲しい。
やっと気づいた。
星崎と深瀬さんの距離感に苛立ったは、
紛れもなく嫉妬だ。
その上俺は星崎に後輩として慕われたいという願望を超えて、
はっきりと好意があることを自覚した。
「いつの間に⋯⋯こんな」
きっかけなんて思い出せない。
でもこの気持ちは嘘じゃない。
そう信じたい。