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星崎視点
僕は楽屋で深瀬さんに歌とギターの指導を受けていた。
どうやら話し込みすぎて、
かなりの時間にわたって居座っていたようで、
ピアノ担当のさおりさんから声がかかった。
「そろそろいい時間だから、
たっちゃんのこと解放してあげなよ」
「「もうちょっとだけ」」
僕たちが阿吽の呼吸で制したものだから、
さおりさんが呆れたように笑いながらも、
それ以上は何も言わずに見守ってくれた。
「ーーーとまあ、
大体こんな感じかな」
「すごく分かりやすかったです。
ありがとうございました」
深瀬さんにお礼を言って、
ギターや譜面を片付け、
撤収の準備をした。
何となくスマホを見ると、
リハーサルが終わって、
2時間以上近くも経っていることに気付いた。
ただの後輩のために、
これほどもの時間をさいてくれることに、
もはや感謝しかない。
「それじゃあ行くよ」
僕たちは揃って楽屋を出て歩き始めた。
その先で見覚えのある人が駆け寄ってきた。
え?
あれは大森さん?
何で戻ってきたんだろう。
忘れ物でもしたのかな。
などと自分に用があるとは思っていなかった。
「ちょっと話せる?」
何故か真剣な顔でそう問われたが、
大森さんの纏う空気が、
どうにもピリピリと張り詰めていた。
敵意ではないと思うが、
こんな顔を初めて見たために、
戸惑いを隠せない。
内容を聞くのが怖いと緊張した僕は、
無意識で一番近くにいた、
深瀬さんの腕に縋った。
その様子を見ていた彼は、
表情を歪めた。
(怒っているみたい。
でも何で?)
分からない。
どう返答したらいいのだろうか。
その不安を見抜いたのか、
深瀬さんが僕に声をかけてくれた。
「大丈夫?
無理そうなら日を改めてもらう?」
「で⋯⋯れ、ば⋯⋯⋯⋯⋯い」
上手く喋れない僕に対して、
深瀬さんが「出来れば後日にしてほしい」と、
代弁してくれる。
それでどうにかなると思った。
しかしーーー
「それなら連絡先を教えて」
え?
どうしてここまで食い下がるのだろう。
緊急を要することなのだろうか。
「し、ご⋯⋯す、か?⋯こ⋯ん⋯⋯⋯⋯か?」
「仕事?個人的なこと?って聞いてるよ」
深瀬さんは僕を安心させるために、
ゆっくりとした優しい手つきで、
僕の頭を撫でた。
やはり接触があると、
気持ちが落ち着く。
相変わらず上手くは話せないが、
息が吸いやすくなるのを感じた。
深瀬さんの何気ない優しさが沁みる。
「仕事関係だよ」
まさかーーーーー
その一言で嫌な予感がした。
リハーサルでは低音しか使わなかったのに、
高音が使えないことに気付かれたのだろうか。
仕事関係の話で他に思い当たる節がなかった。
そのうえ仕事だと言われてしまうと、
かなり断りにくい。
静かにポケットからスマホを出した僕に、
深瀬さんが心配そうに問いかける。
「無理してない?」
「大丈夫⋯です」
アプリを操作してLINEを開くと、
僕は自分のIDを大森さんに見せた。
「こ、れ」
お互いにIDを打ち込み、
連絡先を交換することになった。
その場で用件を聞いてはみたが、
また後で連絡するとはぐらかされてしまった。
どうやら緊急は要さないらしい。
そうだとしたら一体何の用なのか。
「じゃあ、
途中まで一緒に帰ろう」
「はい。
あ⋯かれ、⋯⋯まです」
会釈を返して深瀬さんらとは、
最寄駅で解散して、
僕は帰宅した。
過酷な下積み期間を忘れないための戒めで、
例え引っ越しても最初に借りた間取りと同じ、
1Kしかないアパートの一室に住み続けていた。
両隣の生活音が筒抜けなほど、
壁が薄い代わりに家賃が破格の安さだったために、
とびついた部屋だ。
それにしてもーーーー
(また食べたら吐くんだろうか)
お腹が空いているはずなのに、
食べたいと言う気力が湧かない。
いつからだろう。
食事が面倒になったのはーーーー
いつからだろう。
自分を労わらなくなったのはーーーー
ピコンッ
「ん⋯誰だろう?」
雫騎の雑談コーナー
はい!
16話にしてついに大森さんは、
TASUKUの連絡先GETにこぎつけましたね。
でも全体を通したらあんま話変わってないな。
じわじわしか進んでない。
うーん⋯進捗度が低すぎるなあ。
もっと頑張らないと。