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ふわねこカラメル
「えぇぇぇぇっ。2千万円借りた上に、それをめちゃくちゃに減らしたぁぁぁぁ!!??」
父から相談を受け、私はまず悲鳴に近い声を上げた。おかげで今、私たちがいる小さな食堂に大声が響いた。
「すまない佑里香…」
「ちょっと待ってお父さん! ちゃんと説明してくれる? 突然2千万円借りた上にそのお金を減らしたなんて…いったいなにをやったの!? 競馬? パチンコ!?」
まじめ一徹な父からの突然の告白を受け、頭が真っ白になった。
目の前で青い顔をして震えている彼――高梨治(たかなしおさむ)は、この食堂『折り紙』を経営している私の父だ。
手入れのしていないボサボサ頭に無精ひげ。目の下には真っ黒なクマができており、睡眠不足のためか目まで充血している状態の彼の横には、爽やかな笑顔を称えた若い美青年が立っていた。
ものすごくイケメンだぁ……。でも、どこかで見たことがあるような人だな?
「僕の方から説明します」
美青年の彼が一歩前に出て、丁寧に私に向かってお辞儀をしてくれた。
「僕がお父様の借金、2千万円の肩代わりをさせていただきました」
「借金の肩代わり……」
2千万円という借金というワードに早くもくらりと眩暈がする。
「申し遅れました。僕は、こういう者です。ベンチャーキャピタルの会社を立ち上げておりまして、非上場のスタートアップ企業へ先行投資をしています」
名刺を差し出された。
株式会社 天河-TENGA-
CEO 天川睦月
「えっ……あなた、睦月君なの!?」
聞き知った名前に驚いた。
こんな珍しい名前、私が知っている中でもひとりしかいない。
目の前の彼を凝視した。私の記憶の中にある少年の天川睦月君と、目の前の彼は合致しなかった。でも…同じ睦月君…なのよ…ね?
私が知っている天川睦月君は、小学生のまま時が止まっている。彼はうちの食堂の真向いにあるおんぼろアパートに住んでいて、いつもひとりで淋しそうにしている子だった。
毎日お腹を空かせてはうちに遊びに来ていた男の子。かわいそうだったのでまかないを一緒に食べたり、算数や国語の宿題を見てあげたり、勉強を教えたり……。
私は彼の家庭教師まがいのことをしていた。まがいといえば語弊があるかな。無償で勉強を見ていた、と言った方がいいのか……。
時々お世話になったお礼ってことで、お店を手伝ってくれたり、ほんとうの弟みたいに思っていた子だ。
睦月君は目の大きくて素直で真面目で、とてもかわいい男の子だったと記憶している。だから私も弟のように接していた。
睦月君も私のことを冗談半分に『先生』と呼んで、姉のように慕ってくれていた。それはたぶん、彼が小学生の間の6年間ほど続いた。
毎日のように彼はうちに来ていたが、ある日突然、ぱたりと来なくなってしまった。心配していたら、近所の人が教えてくれた。睦月君親子は夜逃げ同然で引っ越してしまったらしい、と。どこへ行ったのかも、なにも手掛かりがなく、ほんとうに急だった。
弟がいなくなった喪失感は年月が過ぎるごとに薄れていったけれども、どうしているのかとても心配でも探す術もなくて、いつも心の片隅には幼い睦月君の存在があった。
いつか会えたらいいなとは思っていたけど……。
けど!!!!
こんな再会ってある?
「先生、僕のこと覚えていてくれたんだ!」
敬語が抜け、ぱっと嬉しそうな笑顔を向けられた。うっ……イケメンの笑顔、まぶしっ。
「やっぱり睦月君なんだね……驚いた。すごく立派になって……元気だったの?」
「おかげさまで」
睦月君、ほんとうに素敵な青年になった。綺麗な顔立ちしてる。
「いくつになったの?」
「二十歳。もう成人して、お酒も飲めるようになったよ。これで先生と対等だね」
くすっと笑う彼は年下で幼いはずなのになぜか色っぽく妖艶だ。
「あの……それより、どうして睦月君が父の借金を肩代わりしてくれているの?」
「実は、投資家仲間から悪い投資家に騙されたかわいそうな人がいるって聞いて、調査をして欲しいって依頼がきたんだ。被害状況を確かめているうちに、騙された人が佑里香先生のお父さんだと知ったんだ」
睦月君が私のことを見つめた。やけに鋭い目線で見つめてくる。
なに……?
「お父さんに会って事情を聞いたら、どうやら株を買うのにお金を借りたみたいで」
お金のことを言われて心が痛んだ。
現在、父は亡き母の忘れ形見である小さな大衆食堂『折り紙』を経営をしている。安くてお腹いっぱい食べられることがウリの、地元密着型の食堂だ。
私も幼少期からずっとお店の手伝いをしてきた。でも、最近は経営が行き詰まっていて赤字続き。二人でどうしようかと悩んでいた所だ。
だからお金をなんとか工面する、と毎日父は奔走していた。
それなのになぜか突然、2千万円借りた上に借りたお金を減らしてしまったと打ち明けられた。(今ココ)
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