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それにしても……お父さん、いったいなにをどうしたのよ、もう!
「すまん…」お金のことを言われた彼が申しわけなさそうに唇を噛んだ。
「すまんじゃないって! どうして私に黙ってお金なんか借りたの! しかも2千万円なんて大金をっ、誰に借りたのよっ」
「もう、店を守る方法がこれしか思いつかなくて……すまんったらすまん!!」
父が床に膝をつき、額を擦り付ける勢いで土下座して謝ってきた。
「佑里香には言っていなかったんだけど……ほんとは、もうすぐこの店を取り上げられそうだったんだ」
「えっ?」
「実は――」
お父さんの話を要約すると、最近お店の赤字がきつい状態でいよいよ店を手放さなければならないくらい極限状態だったので、今流行りの資産運用のセミナーに参加して、少しでも手持ちの資金を増やそうと思っていたらしい。
意気投合して知り合ったおじさんの凄腕トレーダーとやらにそそのかされて、勧められるまま知っている会社の株を買ってしまったとか…。
「どこの株を買ったの?」
「マルヨーさん」
うそ…お父さん、どうしてマルヨーさんの株なんか……。
マルヨーさんというのは、うちの店の取引先だ。小さいながらも上場している、野菜に特化した地元密着型のスーパー『マルヨー』。でも、売り上げははっきり言ってうちと同じで右肩下がり。経営状態はいいとはお世辞にも言えない。
「どうしてマルヨーさんの株を買ったの?」
「や……知っていたし、いいお店だから。そのトレーダーの人にもいい株だって勧められたし」
私は株のことはよく知らないけれど、いいお店だったら株価が上がるものなの?
あと、いいお店だとは思うけれども、経営状態は悪いよお父さん……。
「それで、いくら使ったの」
「2千万円ぜんぶ」
「ぜんぶっ……!」
頭が痛くなってきた。
「まずそのお金はどうやって貸してもらったの?」
「こ、これは…店を担保にして……。それで、借りた」
「誰に?」
「その……小平さんという伝説のトレーダーに……。でも、失敗だった」
しょんぼりと俯くお父さんを見て、睦月君が続きを語ってくれた。
「お父さんは騙されたんだよ。小平はトレーダー界隈では悪賢いヤツとして有名なんだ」
睦月君は怒りを露にして言った。
「小平は、仕手株(短期間に大きな利益を得ることを目的として株式市場(流通市場)に参加する投資家を「仕手」または「仕手筋」などと呼ぶが、これらの人々が好んで売買の対象として取り上げる銘柄のことをいう。※証券用語解説集より引用)を奨めることで有名なんだ」
「仕手株……?」
「専門用語でわかりにくかったね。ごめん、わかりやすく説明すると――」
睦月君が仕手株について、簡単に説明してくれた。
まず、Aという株があり、価格が100円だったとする。これを有名なトレーダーや予想師が予め安い値段の時に大量の株を買って保有しておく。たくさん買ったところで、『この株が急騰するぞ』とSNSなどに投稿し、値上がりを予見させる。するとファンや記事を見た人がAの株を買う。
するとA株は上昇し、値段が上がっていく。値が上がるとどんどん株が買われて高騰していく。予想師はこれを商売にしているので、有名になればなるほど彼らの言った銘柄の株が上がるというしくみが生まれる。
値段を目いっぱい吊り上げたところで、予想師はいちはやく売り抜ける。大量の株価を売るため、そうなると株価が暴落してしまう――という流れで儲けるのが、悪徳なトレーダーのやり方で、こういった意図的に吊り上げられる株のことを『仕手株』というらしい。
父は結局、その悪徳トレーダーに騙されたのだ。
「お父さん、どうするの……」
「うん、どうしよう……。とりあえず借金は睦月君が立て替えてくれて、担保にしていた家や土地の権利書なんかは取り返してくれたんだけど……株価がどうにも戻らなくて……」
彼はボサボサ頭をしきりにボリボリ搔いていた。うぅううぅうぅ、と低く唸っているが、なんの解決にもならない。
「睦月君、私、株のことはよくわからないけれど、お父さんが買った株、いったいどうなったの?」
「騙されて株価が暴落したので、今、2千万円で買った株が500万円ほどの価値しかなくなってしまったんだ」
1株200円ほどで買ったものが、現在価値が50円ほどになってしまったみたい。
あれよあれよという間に値段が下がって、売るに売れなくて、1500万円が消し飛んだのだとか。
いったいどうしてこんなことに……。その金額の多さに倒れそうになる。
「ねえ、お父さん。どうして私にちゃんと話してくれなかったの?」
「……すまん。佑里香に苦労ばかりかけているから、なんとか一発逆転しようと思って…」
「余計悪くなっているじゃない! 睦月君が助けてくれなかったら、家も土地も取られて、ほんとにこのお店なくなっちゃうところだったんだよ!!」
「ごめんなさい……」
お父さんが頭を垂れ、泣きそうな顔で謝った。