テラーノベル
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ズキズキする頭に顔を顰めながら目を開く。スマホで時刻を確認すれば、まだ早朝で。作業をして布団に潜りこんだのは日付が変わってから。数時間程度しか経過していないことに微妙な心境になる。
「いたい…っ」
眠りで緩和されるのではなく、痛みが増して目を覚ます。こうなっている原因はある程度分かる。スマホの画面の眩しさに目を細めつつも、天気を確認した。
「やっぱり」
天気が崩れると予報にはある。と、なると必然的に気圧は降下する訳で。りもこんはその事実に溜息を吐いた。
低気圧による片頭痛に悩まされているのは昔から。天気が悪くなってくると気圧も下がる。それが原因で度々頭痛を引き起こしていた。そして今日も、その症状は現れる。
「…寝れるかな」
薬を取る為に起き上がるのも億劫だ。無理矢理眠りについてしまえば、起きたときには多少なりとも緩和している筈。そう信じてりもこんは布団をかぶり直した。
しかし、結果として体調は良くなることなく、朝を迎えることになった。どんよりとした雲が空を覆っている。もう少しすれば雨も降ってくるだろう。
「最悪…」
起き上がらない訳にはいかない。本当ならば体調不良を理由に寝転がり続けてもいいが、生憎と今日中に仕上げなくてはいけない仕事がある。
「とりあえず薬飲も」
未だズキズキする頭。常備している鎮痛剤をペットボトルのお茶で流し込み、効果が出るのを待つ。しかしそれには少々時間がかかる。少し考えた末、三十分程配信を付けることにした。
敢えてSNSではお知らせをしなかったが、配信サイトで通知設定をしているリスナーは多い。配信開始の通知が届いたのだろう。すぐにリスナー達がコメントに朝の挨拶をしてくれる。
「はい、おはよう」
そう言って喋り始める。朝に雑談配信をするのは初めてではない。だが、最近やっていなかった為、疑問の声が上がる。
「今日さ、気圧のせいで頭痛が酷くて。薬が効くまで喋ろうかなって」
そう言えば、次々に心配の声が上がる。薬が効くまでの、気を少しでも紛らわせる為の配信。そう言えばリスナー達も理解を示し、心配はするもののすぐにりもこんの喋る内容へとコメントを変化させてくれた。
「それじゃ、今日はこの辺で」
配信時間としては四十分程。薬の効果を実感してきた所で配信を終了した。
「ふぅ…」
鎮痛剤が効いたのは確か。寝起きよりも随分と楽になった。本当はごろごろと過ごしたい所だが、作業はやらなければ減ってくれない。そのままりもこんは、仕事に取り掛かり始めた。
作業をすること数時間。何とか終わりも見えてきたところで、集中力も切れてくる。一度、椅子から立ち上がって大きく伸びをした。朝から何も食べていないが、空腹は感じない。トイレ休憩を挟み、新しいペットボトルを取り出す。水分を少しずつ摂りながら、再度作業へと取り掛かった。
++++++++++
「進捗ど?」
メンバーで使用している通話部屋には、かざねがいた。今日は平日の為、しゅうとは出勤しており不在だ。時刻は夕方も近くなってきた頃合い。昼前に起床し、自分の作業をある程度終わらせたふうはやは、かさねに尋ねる。
「……やばい」
「うし、頑張るか」
かざねの生活リズムが壊滅的なことはふうはやも把握している。この様子だと、少し前に起きたばかりに違いない。急ピッチで作業をしているかざねを励ましながら、ふうはやは自分の分の作業を終了させた。
「俺、終わり―っと」
「うわ、まじかよ」
「頑張れー」
そんなことを話していると、ふうはやの所にりもこんから仕事に関するデータが送られてくる。
「あ、りもこんからだ」
「あいつも作業終わらせたんだな。に、しても大丈夫なのか?」
「あー…そうだった」
ふうはやは睡眠で誤魔化したが、今日は気圧の変化が大きい日。感覚が敏感なりもこんは影響を受けているに違いない。そういえば、と思い出す。朝、彼が配信をしていた。少し覗いてみたのだが、その中で鎮痛剤が効くまで配信をしていると言っていたことを。
「かざねは今日は大丈夫なのか?」
「え、鎮痛剤飲んでる」
「ちなみに栄養ドリンクは?」
「………」
「おいおい」
かざねが栄養ドリンクを水のように常飲していることは、メンバーのみならずファンですら周知の事実。酒ではないからよいかと言われれば決してそうではないと思うが、彼は鎮痛剤を飲んでおきながら栄養ドリンクも何時も通りに飲んでいた。
「俺知ってるぞ。お前の配信、高確率で栄養ドリンクの話題が出てるって」
「いやだってさ、美味いじゃん」
「そういうことじゃなくてだな」
今迄にもしたことのある議論を暫しする。どうしたらいいんだ、と少しばかり頭を抱えながらも、りもこんの話題に戻る。
「あいつ、大丈夫かな」
「ちょっと心配ではあるよな。通話に入ってこない辺りさ」
仕事はこなしたことが、送られてきたデータから分かる。が、当の本人が今どのような状況なのかは不明だ。だが、こういった時は大体限界になっていることが多いと、ふうはやは知っている。
「仕事終わらせたし、りもこんの様子見てくるわ」
「分かった。頼む」
合鍵を持つふうはやならば、応答がなくとも室内に入ることが出来る。かざねに託され、ふうはやは通話を終了させた。
「ちょっと買い物してから行くか」
今迄の傾向として、何も食べずに鎮痛剤だけ飲んでくたばっている可能性が高い。強い鎮痛剤は胃を荒らす為、その辺りのケアもしてやらねばならない。
家を出てドラッグストアに向かう。りもこんが常飲している鎮痛剤のストックと、ゼリー飲料やらをぽいぽいカゴに入れていく。発熱している訳ではないだろうが、食事は余り摂れていないだろう。食事に関しては様子見だが、とりあえず使えそうな野菜などを幾つかカゴに入れた。
購入したものを入れた袋を下げ、歩き慣れた道を進む。オートロックを開け、彼の部屋の前へ。一応インターフォンを慣らしてみたが、予想通り応答はない。
「りもー」
鍵を開け、中に入る。静まり返った室内を、我が物顔で進む。リビングには彼の姿はない。購入してきた食材をテーブルの上に置き、ふうはやは寝室へと向かう。
「りもー?」
静かにドアを開け、彼の名を呼ぶ。足を踏み入れると、ベッドの上の布団が膨らんでいる。寝ている彼を起こしてしまわないようにそっと布団を捲って確認すれば、険しい顔をしているりもこんがいた。
「だいぶしんどそうだな」
優しく頭を撫でながら呟く。かなりしんどい中で自分の仕事を何とか終わらせた所に、彼の熱心さと意地を感じる。寝ているのならば、寝かせておく方がいい。そう思い、ふうはやは静かに寝室から出て行った。
「ほっとくのもなんだかなー…」
先程の様子からするに、中々辛そうだった。放っておくのが心配だ、という理由から家主の許可は得ていないが勝手に居座ることにした。
リビングのソファにて、溜めていた連絡をぽちぽちとしていると寝室から物音がする。りもこんが起きたのだと推察し、部屋へと向かった。
「りもー?」
入室する前に、ドアの前で名前を呼ぶ。ふうはやが来ているとは思っていなかったのだろう。ゴツッと何かにぶつかるような音がする。
「入るな」
返事を待たずにドアを開けると、ベッドから起き上がろうとした時に何かで足をぶつけたらしい。痛そうにしている彼と目が合った。
「びっくりしたんだけど…」
「悪い悪い。仕事のデータだけ寄こしただろ?天気悪くなってたし、こりゃ体調崩してるなって思って様子見に来た」
「ふうはやの予想通りだよ」
「やっぱそっかー。今は?」
ベッドの腰かける彼の横へとふうはやも座り、体調を尋ねる。表情としては余りよくはない。聞いてはみたが、どう見ても症状は緩和していないようだった。
「めっちゃ頭痛い…」
「鎮痛剤飲んだんだろ?」
「でも、多分もう切れてる」
服用してから結構な時間が経過している。薬の効果は切れてしまっているだろう。だから頭の痛みがぶり返しているのだと、りもこんは言う。
「薬飲みたいけど、朝で全部飲み切ったんだよね」
「と、言うと思って新しいの買ってきた」
「うわ、まじで助かる」
薬を飲む為に、りもこんはベッドから立ち上がる。そんな彼の後ろをふうはやもついて行くが、足取りは何処か覚束ないとすぐに気付いた。
リビングの机の上には、ふうはやが買ってきてくれたものが置いてある。早速袋をごそごそ漁り、目的の薬を見つけ出した。
「すとーーっぷ」
すぐに飲もうとするのをふうはやが制止し、彼に最後に食事をしたのはいつかを尋ねる。返ってきたのは、昨日という返答。ため息を吐くふうはやを横目に、りもこんは薬の箱を開けた。しかし此処で再度止められ、あまつさえ薬を箱ごと取られてしまった。
「ちょっと」
「流石に何か食ってからにしろ。胃がやられる」
「えー…」
「俺もまだ飯食ってないし、一緒に食べよ」
そう誘えば乗ってくれた。ふうはやが一緒なら、ということらしい。何が食べられるか聞いたが、余り食欲はないとのことだった。冷蔵庫に食材は余りない。基本的に自炊をしない一人暮らしの男の部屋に食材があることを期待する方が無理というもの。食材を購入してきて正解だった。
「キッチン借りるぞ」
ふうはやはメンバー内では比較的料理をする方だ。故に簡単なものを作ることは出来る。この、色々と材料の乏しいキッチンでもだ。
取り出したのは豆腐と卵。まずは鍋に水を入れる。かろうじて発見した鶏ガラスープの素、醤油、チューブ生姜を入れて火にかけた。本当は片栗粉を使用したかったのだが、生憎とそんなものはりもこんの家には存在していなかった。とろみをつけるのは諦めて、豆腐を適当な大きさにちぎり、火が通ってきた辺りで溶き卵を入れた。最後にごま油を軽く回し入れ、非常に簡単なスープの完成だ。
「ほれ、これくらいなら食べられるか?」
器に持ってスプーンと共に差し出せば、ゆっくりとした動作だが食べ始める。変に炭水化物や肉類を入れなかったことで、さらさらと食べられるようだ。ふうはや自身は少しばかり物足りない為、ドラッグストアで買ってきていた冷凍の焼きおにぎりを温めて追加することにした。矢張り炭水化物も重要だ。
「ごちそうさま」
何時もよりも少ない量ではあったが、盛り付けた分は完食した。それにふうはやは安堵し、取り上げていた薬を渡す。
「ほれ、これ飲め。風呂はどうする?」
「風呂入りたいけどさー…」
未だ頭痛が続くりもこんが少し悩む素振りをする。入れ、と促したいところではあったが一人にしておくのも心配だった。考えた結果、ふうはやが一緒に入ることにした。
「俺が一緒なら支えてやれるし。安心だろ?」
「まあ、そうだね」
「短い時間でいいから、身体あっためようぜ」
手短に身体を洗い、湯舟に沈む。今一つ反応の薄いりもこんを心配し、ふうはやは彼の身体を離さない。
「そんな心配しなくても、流石に溺れたりはしないよ」
「わかんねぇじゃん、そんなこと」
「流石に心配性すぎじゃね?」
薬が効いてきているのだろう。軽口を叩く余裕のある姿に、ふうはやはそっと胸を撫で下ろすのだった。
風呂から上がり、髪を乾かして。少しばかり早い時間ではあったが、さっさと布団に入ることにした。
「りも、どうする?」
りもこんの意思を確認すると、彼はベッドの奥へと身体をずらし、そっとふうはやを見上げた。意図を的確に察し、隣に潜り込む。
「薬、効いてきら?」
「ん」
「ならよし。とっとと寝ようぜ。俺、隣にいるからさ」
胸元にしがみつくりもこんの頭を優しく撫でながら、ふうはやは穏やかな声で言う。とん、とんと背中を優しく叩いているうちに聞こえてくる、静かな寝息。
「明日にはよくなってるといいけど」
予報によると天気は曇り。彼の頭痛が緩和することを願いながら、ふうはやも瞼を閉じる。根本的な解決には全くと至らないが、自分の存在が彼の苦しみを拭う一助になるといいな、とそう思いながら。
「おやすみ、りも」
額に優しく唇を落とす。そして、夜は静かに更けていくのだった。
瑠璃
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コメント
1件
読了しました。りもこんの頭痛の描写がすごくリアルで、朝の配信でリスナーに「薬が効くまで喋ろうかな」って言うところ、なんかもう胸がぎゅっとなりました。ふうはやが買い物して様子見に来て、一緒にご飯食べてお風呂まで入ってくれるの、優しさが滲み出ててじんわりしました。最後に「おやすみ、りも」って額にキスするところ、すごく好きです。二人の距離感が丁寧に描かれていて、読んでいて温かい気持ちになりました。