テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
夜風はひんやりとしていて、コートの襟を立てても風が喉元に忍び込む。けれど太宰は、それすらも心地よい痛みのように感じていた。
まるで、あのバーが現実だったのかどうかさえ、曖昧に思えてくる。
ゆるやかに坂を上り、見慣れた路地を抜けてい。ふと顔を上げると、窓に灯る柔らかな光が目に入った。
「…ただいま」
赤い瞳の女——君(夢主)が、ゆったりとした部屋着でソファに座っていた。長い髪は緩くまとめられ、手には本。
彼女は太宰を見るなり、口元に微笑みを浮かべた。
「おかえりなさい、治」
太宰はその声に応える代わりに、脱いだコートを無造作に椅子にかけ、彼女の隣へと腰を落とす。
「……まだ起きてたのかい?」
「まだまだ夜は長いし」
そう言って、君はすっと立ち上がると、棚から赤いボトルを取り出す。
「ね、飲むでしょう? 今夜はちょと話したい気分なの」
ワイングラスに注がれたルビーの液体が、部屋の明かりを反射して揺れる。
太宰はそのグラスを受け取り、ゆっくりとひとくち。
「……何も聞かなのかい?」
君は目を細めて、ワインの香りを嗅ぐ。
「ん?なんの事かしら?」
太宰の目が、ゆっくりと君を見た。
君はワインをひとくち飲み、赤い瞳で彼を見つめ返す。 太宰はくすりと笑い、グラスを君に掲げた。
グラスが触れ合う、ほのかな音が、夜の深みに沈んでいった